夢の終わり ~蜀漢の滅亡~

久保カズヤ

文字の大きさ
69 / 93
第3章 高平陵の変

第31話 精鋭

しおりを挟む
「涼州から豪族らの人質を確保した後、兵や民を徴収。その後、漢中へ帰還する。その為にもこれより、軍を三つに分けようと思う」

 首を傾げ、意見を述べるのは蒋斌である。

「迫る敵軍は三万であり、こちらの三倍です。力を分散させるよりも、集中させた方が良いのではないでしょうか?」
「今回は敵を討つ為の戦ではない。勝とうとは考えない事だ」

 姜維の意図を組んでいるのは張翼ぐらいであり、蒋斌は回答を聞いても、言わんとしてることがぼんやりと理解できたまでに過ぎない。
 廖化と傅僉はそもそも考えてもおらず、指示を受ければその通りに動くだけだという意思を見せている。

 確かに、戦って勝とうとするなら、力の分散は避けるべきである。
 既にここは敵地であり、ゲリラ戦が行えるほど地形を把握しているわけでなく、援軍を見込めるわけでもない。
 ただ、今回は涼州の民を移住させることが狙いである。兵力を集中させる意味は特になかった。

「一つは、人質を確保し、退路と連絡線を維持する部隊。一つは、涼州の豪族らを徴兵する部隊。一つは、全体を自由に動く遊撃部隊だ。それぞれ順に、四千、五千、五百程の兵力を配置する」

 四千を率いるのは、廖化。副将に傅僉とした。
 この部隊は涼州と雍州を結ぶ「狄道」の地に近い「成重山」に拠り、集められる人質を確保していく。
 また、漢中と戦場を結ぶ連絡線を維持する事も主目的となる。
 敵は間違いなくこの部隊の撃破に向かうだろうが、山に拠っていることで、数倍の兵力であっても、廖化の統率力であれば耐えるのは容易だろう。
 傅僉を攻撃用に付けることで、自由に繰り出し牽制を行う動きも可能である。

 五千を率いるのは張翼。蒋斌はその傍に付ける。
 こちらが軍を分ける事で、敵も軍を分けざるを得ない。
 どうしても戦いを行わなければならない部隊であり、もし劣勢となれば、豪族らは蜀軍を見限る危険も孕んでいる。
 となれば、全体を見て、巧みに用兵術を扱う張翼が適任である。
 もしこちらが戦況を維持できれば、豪族は靡き、兵力も増すことが可能なのだ。
 蒋斌が学ぶには、最も良い師となるだろう。

「五百の軽騎兵は私が率いる。こちらは兵力で圧倒的に劣る為に、すぐに両部隊へ援軍を走らせることの出来る遊撃部隊が必要だ」
「総大将が、五百ですか。それでは格好がつきますまい。私と姜維将軍の配置を変えた方がよろしいのでは?」
「張翼将軍の率いる五千よりも、恐らく、私の五百の騎兵の方が強い。試されますか?」
「いえ……確かにその通りでしょう。ただ、くれぐれも用心なされよ。総大将は、貴方なのだ」
「有難う御座います」

 掛け声一つで、一万の軍はたちまち三つに分かれた。
 よく訓練されている。
 誰もが蜀軍の中核をなす精兵ばかりだ。

 進軍の速度を上げた。

 馬蹄が、足踏みが、やがて統一されて、冷えた荒野を震わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おめでとう。社会貢献指数が上がりました。

水井伸輔(Mizui Shinsuke)
SF
「正しく」生きれば、どこまでも優しいこの国。 17歳のシュウは、社会貢献指数を高め、平穏な未来を手に入れようとしていた。しかし、システムに疑問を抱く父のランクは最低の「D」。 国家機能維持条項が発令された夜、シュウの端末に現れたのは、父の全権利を支配するための「同意」ボタンだった。 支配か、追放か。指先ひとつで決まる、親子の、そして人間の尊厳の行方。

処理中です...