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第4章 暗中の剣
第17話 戦略
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既に諸将は揃っており、その最も上段の椅子に郭淮、その隣に陳泰が腰を下ろす。
その時であった。一人の兵士が駆けてきて、諸将の前で膝をつく。
「鄧艾将軍がご到着です」
「おぉ、すぐにここへ」
「はっ」
兵士と入れ違いに、上半身が岩の様にがっしりとした長身の男は、ぬらりと現れ、郭淮に拝手した。
夏侯覇がここに居た頃は、純粋な司馬派であった鄧艾は遠ざけられるように中央へと戻っていた。
今回戻ってきたのは、その夏侯覇の穴を埋める為、そして、片腕を失った陳泰の補佐をする為である。
その類まれな用兵術や戦術眼は、今や、雍州守備軍で知らない者は居なかった。
「お久しぶりで、御座います」
「以前より、闊達に言葉が出ている様だが、良い医者でも見つけたか?」
「いえ、これは、時が経てば、和らぐものと、聞いております」
「それは良かった。さぁ、そこの席へかけてくれ。早速で悪いが、軍議に参加して欲しい」
「喜んで」
鄧艾の着いた席次は、第四位。王経将軍に次ぐ位置である。
現在の防衛線の守備状況は、極めて複雑な状態となっていた。
長安方面、そして涼州方面に幅広く展開せざるを得ない体勢で、防衛線は薄く広い。
雍州の地は戦乱続きで荒れており、数年規模で腰を据えた内政を行わなければ、土地がやがて枯れてしまうような状態である。
涼州もまた土地は貧しく、更に民心も落ち着かないでいた。
郭淮の尽力もあり、表立って反抗や反乱を行う豪族は居なくなった。
ただ、それはあくまで平時のみ。
蜀軍が攻め込んでくれば、有利不利の損得のみで、簡単に鞍替えをしてしまうのだ。
まだ、涼州という土地に腰を据える事が、民に定着していないのだ。
だからその時々で、簡単に強い方へと靡いてしまう。
「さて、どうしたものか。蜀軍が長安を攻めるか、雍州へ攻め込むかは、軍が動き出した時にしか分からない。しかしそれでは兵が分散し、迅速な対応も難しい。これ以上、雍州が荒れるのは見過ごせず、涼州の豪族が動くのも抑え込みたい。課題は多い」
皆が地図を見たまま、押し黙った。
全体的な戦略を立てる事に秀でた郭淮が、この様に頭を悩ませているのだ。
諸将がいきなり、答えを出せるはずもない。
「……全てを、守ろうと、しなければ」
不可解な顔でそう呟いたのは、鄧艾である。
陳泰もまた横で頷いていた。
「どういうことだ、鄧艾将軍」
「兵の分散は、戦術的に、避けるべきです。なれば、どこかを捨てねば、なりますまい」
「どこも国防の都合上、極めて重要だ。涼州の反乱を抑える守備兵、涼州方面への侵攻を抑える隴西の兵、長安周辺の防備を担う雍州の兵。いずれも、これ以上は減らせん」
「確かに、戦略上では、そうでしょう。ならば、敵を見るべき、そう、考えます」
「敵を」
長く、司馬懿の下に居ただけの事はある。
本来の素質も相まって、鄧艾の目線はより遠くを見渡せるようになっているのかもしれない。
極めて、冷徹に。一手一手を積み重ね、勝利を掴む。
そんな司馬懿の兵法を、呼吸を、完全に自らの血肉としていた。
その時であった。一人の兵士が駆けてきて、諸将の前で膝をつく。
「鄧艾将軍がご到着です」
「おぉ、すぐにここへ」
「はっ」
兵士と入れ違いに、上半身が岩の様にがっしりとした長身の男は、ぬらりと現れ、郭淮に拝手した。
夏侯覇がここに居た頃は、純粋な司馬派であった鄧艾は遠ざけられるように中央へと戻っていた。
今回戻ってきたのは、その夏侯覇の穴を埋める為、そして、片腕を失った陳泰の補佐をする為である。
その類まれな用兵術や戦術眼は、今や、雍州守備軍で知らない者は居なかった。
「お久しぶりで、御座います」
「以前より、闊達に言葉が出ている様だが、良い医者でも見つけたか?」
「いえ、これは、時が経てば、和らぐものと、聞いております」
「それは良かった。さぁ、そこの席へかけてくれ。早速で悪いが、軍議に参加して欲しい」
「喜んで」
鄧艾の着いた席次は、第四位。王経将軍に次ぐ位置である。
現在の防衛線の守備状況は、極めて複雑な状態となっていた。
長安方面、そして涼州方面に幅広く展開せざるを得ない体勢で、防衛線は薄く広い。
雍州の地は戦乱続きで荒れており、数年規模で腰を据えた内政を行わなければ、土地がやがて枯れてしまうような状態である。
涼州もまた土地は貧しく、更に民心も落ち着かないでいた。
郭淮の尽力もあり、表立って反抗や反乱を行う豪族は居なくなった。
ただ、それはあくまで平時のみ。
蜀軍が攻め込んでくれば、有利不利の損得のみで、簡単に鞍替えをしてしまうのだ。
まだ、涼州という土地に腰を据える事が、民に定着していないのだ。
だからその時々で、簡単に強い方へと靡いてしまう。
「さて、どうしたものか。蜀軍が長安を攻めるか、雍州へ攻め込むかは、軍が動き出した時にしか分からない。しかしそれでは兵が分散し、迅速な対応も難しい。これ以上、雍州が荒れるのは見過ごせず、涼州の豪族が動くのも抑え込みたい。課題は多い」
皆が地図を見たまま、押し黙った。
全体的な戦略を立てる事に秀でた郭淮が、この様に頭を悩ませているのだ。
諸将がいきなり、答えを出せるはずもない。
「……全てを、守ろうと、しなければ」
不可解な顔でそう呟いたのは、鄧艾である。
陳泰もまた横で頷いていた。
「どういうことだ、鄧艾将軍」
「兵の分散は、戦術的に、避けるべきです。なれば、どこかを捨てねば、なりますまい」
「どこも国防の都合上、極めて重要だ。涼州の反乱を抑える守備兵、涼州方面への侵攻を抑える隴西の兵、長安周辺の防備を担う雍州の兵。いずれも、これ以上は減らせん」
「確かに、戦略上では、そうでしょう。ならば、敵を見るべき、そう、考えます」
「敵を」
長く、司馬懿の下に居ただけの事はある。
本来の素質も相まって、鄧艾の目線はより遠くを見渡せるようになっているのかもしれない。
極めて、冷徹に。一手一手を積み重ね、勝利を掴む。
そんな司馬懿の兵法を、呼吸を、完全に自らの血肉としていた。
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