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【 4章 】

11話 〔50〕

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「信じられないわね……本当にどうなってるの? この体……」

 けれど、理解できないわけでもない。私には動かせないはずの物体が、向こうからぶつかってきた場合。それを停止させることは不自然になる。

「これってつまり、すり抜けにもパターンがふたつあるってこと……?」

 この先の危険を回避するために、ここはきっちり検証することにした。

「といっても、自分じゃ蛇口もひねれないし、ほんっと都合わるいわね」

 過去の世界に来てからというもの、度重なる理不尽でついつい愚痴もでてしまうというもの。

 家の中ではお母さんが何かしらの家事をしているので、どこかで水を使うのを待ち構えてみる。
 はやる気持ちを抑えつつその時を待っていると、ほどなくしてお風呂の仕度を始め、湯船にお湯を溜めながら、お母さんは別の部屋に行ってしまった。

「やっと検証できるわ。んーどれどれ」

 まずは溜められたお湯に触れてみる。

「なるほど、止まった液体は固体と同じ感じね」

 これは動かすことのできない物体と同様の反応。
 残念ながら、私はこの世界ではお風呂に浸かれそうにない。

 今度は、蛇口から流れ出るお湯に触れる。

「うわぁ、まるで砂鉄ね」

 先ほどの雨のように、流水に接触した指先は、ひとたび粒子となって拡散したかと思うと、またすぐに何事もなく再構成された。

「これも、法則ルールってことね」

 これが拡散ではなく、すり抜けだったなら……。流れる水と留まる水の中間では、すり抜ける反応と、動かせない反応の違いで小さな矛盾が起こる。

 仮にこれが水ではなく雪だとすれば、積もった雪の上に立っているとき、さらに上から雪が降り積もったら、すり抜けた雪は本来は触れられないはずの足元には積もっていくことになる。

「そうか、矛盾を回避するために、体のほうが拡散・再生という形で処理されるルールが仕組まれているってことらしいわね」

 薄々疑問に感じていたことも、これで解決されそうだ……。

 もしも、今の状態の私が、この世界で車にはねられるなどの事故に遭った場合どうなるか?
 これまでに判明した結果から推測すると、触れて動かすことはできない条件と、すり抜けることができない条件を満たしていることで、向かってくる相手に対しては、体が拡散して再構成されるだろう。

 …………。

「それって、ようするに……」

 私は、この世界では死んで消滅することはない。
 物理的に死ぬ事も、溺死する事も、疲れ果てて死ぬ事も、空腹で死ぬ事さえもありえない……。

 『全ての法則が死ぬことを許さないシステムで構築されている』

 私は気付かされた。
 誰にも認識されることもなく、永遠にこの世界に取り残されたのだと……。
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