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【 6章 】
7話 〔62〕
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――――。
終わった――。この方法なら死ねるんだ……?
いやだ。ここまで来て、みんなにさよならも言えず本当に消滅するなんて――。
――――。
…………?
……意識がまだ途絶えない。
それだけではなく、脳裏を巡る感覚が異常だ。
……痛い。……辛い。……寒い。……苦しい。
危険信号が鳴り響く。
胸が潰されるような圧迫感。
首を絞めるような窒息感。
一体、何がどうなってしまったのか。
目で確かめようにも開けない。藻掻こうにも手足が動かせない。
苦痛からくる死の恐怖が絶えず脳を支配する。
生きている人間なら、とっくに気を失っているであろう激苦が延々と襲い続ける。
気が狂いそうになりながら、かすかな理性の片隅で考えた。
もしかして、これは……いま命の危機に瀕している『ミナ』の感覚!?
憑依なんてオカルトっぽいことを真に受けたくはないけれど、今の状況を表現するにはそれが一番近い気がする。
しかし、自分の意思で指一本も動かせないのでは、そんなに都合のいいものではない。
早く、助けて……。
「……未、……未那!」
かろうじて聴覚は機能しているのか、だんだんとシュウの呼び声が耳にはいってくる。
「しっかりしろ!」
すぐ傍まで来たシュウに、上体を抱き起こされた感触も伝わってきた。
それでも、しこたま海水を飲んでしまったらしく、空気が吸えないままだった。
苦しい……。脳が酸素を要求する。
だけどそれは私自身ではなく、ミナ本体が実際に味わっている感覚だ。
¶
シュウは私の体を抱えたまま泳いで、どうにか砂浜まで泳ぎきったようだ。
「お姉ちゃん……。お願い目を開けて……」
「未那ちゃん! ケガは?」
あぁ、由那とマリアの声も聞こえてきた……。
どうやら、女の子を先に引き上げてから、いち早く陸に引き返えさせたらしい。
ケガ……? 去年の記憶ではぶつけた頭に小さなコブができたぐらいで、大したケガをした覚えはない。
それよりも、息ができなくて苦しいという感覚がまだ脳内を充満している。たぶん心臓の動きも少しずつ弱くなっている。
「君、その子は大丈夫か?」
知らない男のひとの声。おそらく連絡を受けたライフセーバーの男性がここへ駆けつけたようだった。
そのひとがこれから蘇生を試みる。そして一命を取り留める……。
まぁ、おおかたそんな展開になったことだろう。
「おい! 未那に触るな!」
……!?
シュウがいままで聞いたことのない厳しい声で怒鳴った。
「いや、しかし……」
言うまでもなく、ライフセーバーの声は困惑している。
「スミマセン……でも、こいつを助けるのは僕なんです。それよりあの女の子のほうを、どうかお願いします」
シュウの口からそんな科白を聞いたのは初めてだ……。
よくわからない理由だった。けれどその時、私もシュウに助けてほしいと心から思った……。
それで、もし失敗しても、それなら納得して死ねると本気で思ってしまった。
シュウは躊躇わず人工呼吸のため私の口を塞いだ。
慣れていないので少しぎこちないところはあるが、懸命に息を吹き込む。
キスなんていうロマンチックなものではないことは重々承知している。
けれど、もう触れられないかもしれないと思っていたシュウの唇の感触と体温を、直に感じられて嬉しかったのは確かだ。
心臓マッサージで胸の辺りも強く押されているとわかった。でも、そこにやらしい気持ちなんて微塵もあるはずがなく、触られていてもまったく嫌じゃなかった。
それから数度目の人工呼吸の後。私は口から大量の海水を吐き出して、なんとか息を吹き返した。
終わった――。この方法なら死ねるんだ……?
いやだ。ここまで来て、みんなにさよならも言えず本当に消滅するなんて――。
――――。
…………?
……意識がまだ途絶えない。
それだけではなく、脳裏を巡る感覚が異常だ。
……痛い。……辛い。……寒い。……苦しい。
危険信号が鳴り響く。
胸が潰されるような圧迫感。
首を絞めるような窒息感。
一体、何がどうなってしまったのか。
目で確かめようにも開けない。藻掻こうにも手足が動かせない。
苦痛からくる死の恐怖が絶えず脳を支配する。
生きている人間なら、とっくに気を失っているであろう激苦が延々と襲い続ける。
気が狂いそうになりながら、かすかな理性の片隅で考えた。
もしかして、これは……いま命の危機に瀕している『ミナ』の感覚!?
憑依なんてオカルトっぽいことを真に受けたくはないけれど、今の状況を表現するにはそれが一番近い気がする。
しかし、自分の意思で指一本も動かせないのでは、そんなに都合のいいものではない。
早く、助けて……。
「……未、……未那!」
かろうじて聴覚は機能しているのか、だんだんとシュウの呼び声が耳にはいってくる。
「しっかりしろ!」
すぐ傍まで来たシュウに、上体を抱き起こされた感触も伝わってきた。
それでも、しこたま海水を飲んでしまったらしく、空気が吸えないままだった。
苦しい……。脳が酸素を要求する。
だけどそれは私自身ではなく、ミナ本体が実際に味わっている感覚だ。
¶
シュウは私の体を抱えたまま泳いで、どうにか砂浜まで泳ぎきったようだ。
「お姉ちゃん……。お願い目を開けて……」
「未那ちゃん! ケガは?」
あぁ、由那とマリアの声も聞こえてきた……。
どうやら、女の子を先に引き上げてから、いち早く陸に引き返えさせたらしい。
ケガ……? 去年の記憶ではぶつけた頭に小さなコブができたぐらいで、大したケガをした覚えはない。
それよりも、息ができなくて苦しいという感覚がまだ脳内を充満している。たぶん心臓の動きも少しずつ弱くなっている。
「君、その子は大丈夫か?」
知らない男のひとの声。おそらく連絡を受けたライフセーバーの男性がここへ駆けつけたようだった。
そのひとがこれから蘇生を試みる。そして一命を取り留める……。
まぁ、おおかたそんな展開になったことだろう。
「おい! 未那に触るな!」
……!?
シュウがいままで聞いたことのない厳しい声で怒鳴った。
「いや、しかし……」
言うまでもなく、ライフセーバーの声は困惑している。
「スミマセン……でも、こいつを助けるのは僕なんです。それよりあの女の子のほうを、どうかお願いします」
シュウの口からそんな科白を聞いたのは初めてだ……。
よくわからない理由だった。けれどその時、私もシュウに助けてほしいと心から思った……。
それで、もし失敗しても、それなら納得して死ねると本気で思ってしまった。
シュウは躊躇わず人工呼吸のため私の口を塞いだ。
慣れていないので少しぎこちないところはあるが、懸命に息を吹き込む。
キスなんていうロマンチックなものではないことは重々承知している。
けれど、もう触れられないかもしれないと思っていたシュウの唇の感触と体温を、直に感じられて嬉しかったのは確かだ。
心臓マッサージで胸の辺りも強く押されているとわかった。でも、そこにやらしい気持ちなんて微塵もあるはずがなく、触られていてもまったく嫌じゃなかった。
それから数度目の人工呼吸の後。私は口から大量の海水を吐き出して、なんとか息を吹き返した。
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