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4章 高校二年生 冬 再会
18話 初雪舞う頃、知ってしまった君の運命
十二月、中旬。
期末テストが終わったクラス内は解放感に包まれて、昼からどこに行くだの、冬休みの予定だの、クリスマスだの、話が飛び交っていて、うるせぇのなんのって。
そう思いホームルームをブッチした俺は、ざわついた教室を後にし、行き着いたのはあの桜の並木道。
まあ、そうは言っても木の葉は全て落ち散り、何も残ってねぇんだけどな。
俺みたいに。
寒ぃ家に帰りたくないからって海辺にあるベンチに座る俺は、相当ヤバく仕上がってるだろうから。
寒ぃなぁ。
冬の潮風を真正面から浴びた俺は、情けねぇぐらいにブルブルと震えあがる。
ペラッペラのジャンパーで防寒なんか出来るはずもなく、手なんか悴んで痛いのなんのって。
『ごめん、寒いよね? これ、良かったら』
去年の冬、あいつの小説の構想に突き合わせられた俺は、バカ寒ぃ海辺のこのベンチに座らせられ、水筒に入った茶を渡された。
温かったなぁ。
女子はジャスミン茶みたいな洒落たもん持ってきてんのかと思えば、あいつは熱い麦茶で、やっぱ主婦じみてんだよなぁ。
ふぅと溜息を吐くと白い息がふわふわと浮かんでゆき、それを追いかけるように空を見上げると、淡い空に薄い雲が視界に入ってくる。
それはあいつと一緒に眺めた、青く澄み切った空、もくもくの入道雲、眩しく照りつける太陽とは違い、共に聞いたサワサワと葉が揺れる音は存在しない。
もう二度と、空を綺麗だと思うこともねぇだろうな。
俺が、全てぶっ壊したんだからよ。
「ホント、大バカヤロウだ……」
脳内に過った幻影を払い、薄いジャンパーのポケットからスマホ取り出す。
違ぇだろ? 今、俺が望んでいいことは。
検索アプリのお気に入り欄を開けば、懐かしい小説投稿サイトがズラッと並んでいて一瞬息が苦しくなるが構わねぇ。
俺は慣れた手付きで文芸に特化した投稿サイトに飛び、検索欄で「青春」、「文学」など候補を絞り込み、作品を片っ端から読んでいく。
あいつを探すためだ。
なんでこんな回りくどいやり方してんのかっていうと、俺はあいつのペンネームは知らねーし、公募の添削をした時も題名すら聞かなかったからだ。
それなら内容から予測されるタグを打ち込みあらすじを読めば、添削した内容にぶつかるだろうと探したが、そんな甘くはねぇか。
……以前、盗作被害に遭ったと溢していたことがあった。
もしかしてその影響で、公募作品は非公開にした可能性があるな。
俺もやられたことがあるが、あれは害悪でしかねぇ。
執筆に掛けてきた時間、技能を磨いた努力、作家の尊厳。それらを踏み躙る最低な行為だ。
思い浮かぶのはあいつの遠い目で、当時中学生だったから文句も言えず泣き寝入りしてしまったと話す横顔は、悲しさと悔しさに満ちていた。
ギリッと奥歯を噛み締めつつ、俺もあいつを曇らせてしまった一人だと自覚すると、より心は落ちていく。
だからこそ。
……謝りてぇ。
その一心で俺は、今日もスマホに向き合っている。
あの美しく、読み手を惹きつけてくる文章。リアルな人間関係。繊細な心情描写。読後感のある終わり方。
それを読めば、俺はあいつの作品を見つけることが出来る。
だってあいつの話は、他の作家には書けない唯一無二の物語なんだから。
だから俺は、全ての作品に目を通すことにした。
あいつが居るような気がして、あいつの書いた小説を読めば分かると確信して。
こうして気付けば三か月の月日が過ぎており、季節が秋から冬に変わっていてもそれらしい投稿は見当たらなかった。
フツウに考えたらそりゃ当然で、小説投稿している作家なんて一体どんだけいると思ってんだって話だ。
こんな甘いタグ付けだからか、出てくる作品は無数にあり、昨日の続きから読んでいく。
あいつではないかと、考えないながら。
「ま、ねーよな」
また情けねぇ声を漏らした俺は、次は他の投稿サイトを開いては検索候補を打ち込み、出てきた小説を順番に読んでいく。
ファンタジーや恋愛重視のサイトだと分かってても、僅かな可能性にかけて。
どこまでも諦めの悪りぃ俺は、もう二度と開かねぇと決めていた青春文学賞の選考ページまで開き、題名と名前まで確認していた。
しかし作品の題名と作家名だけで特定出来るはずもなく、完全に行き詰まり状態だった。
……本当に筆を折ってしまったのか?
そう思う度に検索する指を何度となく止めてしまうが、目を閉じれば浮かぶのは小説について話す時に光るあの目の輝き。
寒さで悴んできた指に力を入れて次のページに進みスライドしていくと、そのあらすじが目に入った瞬間、目を奪われた。
その内容は二人の男子中学生が小説を書いており、受賞を目指して奮闘する物語。二人は執筆のことを誰にも言わないと約束していていたが、その片方がそれをクラス中に言いふらしてしまい、もう一人は友人に裏切られたと筆を折ってしまう。そんな話だった。
まさか。
震える指でタップすると、二人の男子中学生が南紀白浜の浜辺で夕陽を見ながら小説執筆について語らう場面から始まり。互いに読み合い、アドバイスをして、時にはぶつかることもあったが、毎日がキラキラと輝き、相手を尊重し、信頼し合っていた。
そんな二人は書籍化を目指して公募に挑戦するが、友人は結果を出せず己の才能を疑い筆を折ってしまう。
親友の分も夢を叶えようと奮闘するが、親友に裏切られてしまった主人公は、二人の秘密である小説執筆についてクラス中に暴露されてしまう。
信じていた親友に秘密を暴露された絶望。その時に言い放たれた言葉。
シチュエーションは違うが、その書き綴られた心情は俺そのものだった。
そして、この物語にはもう一人主人公がいた。
裏切った友人側の目線。その内容は。
はっ? んわけ、あるかよ! ふざけんな、アイツが俺を? テキトーなこと書くなよ!
思わず、スマホをぶん投げそうだった。
文章で分かる、あいつだ。何も知らねーくせに、勝手なことばっか書きやがって!
謝りたい気持ちなんか潮風に流された吐息のように一瞬で消え去り、スマホを握る手に力が入る。
文句の一つでも言わねーと腹の虫が治らないと力強くタップしていくが、コメント欄は閉じてあり連絡を取る手段がねぇ。
どんな筆名でこんなふざけた話を公開してんだと作者欄に目をやると、名前は西城寺 華という、知り合いにはいねーが間接的に知っているような文字列で、さっきも見たと青春文学賞の選考欄を過去に遡って見ていくと、三次通過一つ、二次通過二つ、一次通過二つと結果を残していた。
「あいつ、いつも一次落ちだって言っていたのに」
やっぱりな。あれほどの文才があるのに、一次すら通らないなんておかしいと思っていたんだ!
久しぶり過ぎるSNSを開くと見知った名前がいくつもあり、書籍化が決まっただの、二冊目三冊目とかの報告に溢れていて俺の心に刃が突き刺さるような痛みが走る。
……んなこと、今どーでもいいんだよ。
頭を掻きむしり、検索名を打ち込むと、同姓同名の登録者は複数あり、一つ一つプロフィール欄を確認していく。
すると、うさぎのぬいぐるみがアカウントになっているのが目に入り、思わず「これだ!」と声に出ていた。
読書が好きです、という一文のみがプロフィールに書き込まれたアカウントは今年の九月より開設されたようだ。
投稿内容は読んで感動した本の書き込みに、同じ窓からの風景と共に投稿された140文字の文章。その内容は、写っている木から散っていく葉のことばかり。
その文章があまりにも詩的で、己の運命と重ねているようで、読んでいくうちに涙腺が緩んできやがる。
やはりこの文章はあいつのもので、この写真も……。
俺はこの景色をよく見下ろしていた。
物心つく頃からあの人に連れられて通っていた、あの場所。
だから、ここがどこかを知っている。
なんでだよ。お前どうして、ここにいるんだよ?
あいつ、初めから何かおかしかった。
体育休んだり、少し走ったぐれぇで異様に息切れしたり、一年の夏休み開けに不自然過ぎるぐらいに痩せたり、急に倒れたり……。
あいつの作風が変わったのは、年明け頃だった。まだあの時は公募の結果も出てなかったのに、妙にソワソワして、異様なほど作品を書きまくっていて、内容が全然まとまってなくて、焦っているのは明らかだった。
俺に何かを言おうとして、ためらっていて。
……あの時、もっと踏み込んで聞くべきだったのか。
そう思い空を見上げると、チラチラと舞うのは真っ白な雪。
初雪が降った日、優しかった母は死んだ。
クリスマスは一時退院して、三人でクリスマスパーティーをしようと言ってくれていた。ケーキを一緒に作ろうと約束してくれていた。
あの人とは、ツリーを飾って母さんを喜ばせようと一緒に計画を立てていたのに。
母の死後、あの人は豹変した。
息子の世話とか、小学校に進学する準備とか、仕事とか。
そんなもの全て忘れたかのように、酒にどっぷり嵌り、母親を亡くしたばかりの俺に……。
部屋に溢れる空き缶の山に、荒れ狂うあの人。その姿は、父親なんかじゃなかった。
封じていた記憶が蘇りにより頭が割れそうなぐらいに痛み、雪を見ないように俯き目を強く閉じた。
うそ……だろ、あいつは……。
やめろよ、こうやって善良な人間にそんな運命を背負わせるのは。
何でだよ? 何で、母さんとあいつなんだよ?
優しくて、愛されていて、いなくなったら悲しむ人間を選ぶんだよ?
やめろよ。頼む、やめてくれよ。
期末テストが終わったクラス内は解放感に包まれて、昼からどこに行くだの、冬休みの予定だの、クリスマスだの、話が飛び交っていて、うるせぇのなんのって。
そう思いホームルームをブッチした俺は、ざわついた教室を後にし、行き着いたのはあの桜の並木道。
まあ、そうは言っても木の葉は全て落ち散り、何も残ってねぇんだけどな。
俺みたいに。
寒ぃ家に帰りたくないからって海辺にあるベンチに座る俺は、相当ヤバく仕上がってるだろうから。
寒ぃなぁ。
冬の潮風を真正面から浴びた俺は、情けねぇぐらいにブルブルと震えあがる。
ペラッペラのジャンパーで防寒なんか出来るはずもなく、手なんか悴んで痛いのなんのって。
『ごめん、寒いよね? これ、良かったら』
去年の冬、あいつの小説の構想に突き合わせられた俺は、バカ寒ぃ海辺のこのベンチに座らせられ、水筒に入った茶を渡された。
温かったなぁ。
女子はジャスミン茶みたいな洒落たもん持ってきてんのかと思えば、あいつは熱い麦茶で、やっぱ主婦じみてんだよなぁ。
ふぅと溜息を吐くと白い息がふわふわと浮かんでゆき、それを追いかけるように空を見上げると、淡い空に薄い雲が視界に入ってくる。
それはあいつと一緒に眺めた、青く澄み切った空、もくもくの入道雲、眩しく照りつける太陽とは違い、共に聞いたサワサワと葉が揺れる音は存在しない。
もう二度と、空を綺麗だと思うこともねぇだろうな。
俺が、全てぶっ壊したんだからよ。
「ホント、大バカヤロウだ……」
脳内に過った幻影を払い、薄いジャンパーのポケットからスマホ取り出す。
違ぇだろ? 今、俺が望んでいいことは。
検索アプリのお気に入り欄を開けば、懐かしい小説投稿サイトがズラッと並んでいて一瞬息が苦しくなるが構わねぇ。
俺は慣れた手付きで文芸に特化した投稿サイトに飛び、検索欄で「青春」、「文学」など候補を絞り込み、作品を片っ端から読んでいく。
あいつを探すためだ。
なんでこんな回りくどいやり方してんのかっていうと、俺はあいつのペンネームは知らねーし、公募の添削をした時も題名すら聞かなかったからだ。
それなら内容から予測されるタグを打ち込みあらすじを読めば、添削した内容にぶつかるだろうと探したが、そんな甘くはねぇか。
……以前、盗作被害に遭ったと溢していたことがあった。
もしかしてその影響で、公募作品は非公開にした可能性があるな。
俺もやられたことがあるが、あれは害悪でしかねぇ。
執筆に掛けてきた時間、技能を磨いた努力、作家の尊厳。それらを踏み躙る最低な行為だ。
思い浮かぶのはあいつの遠い目で、当時中学生だったから文句も言えず泣き寝入りしてしまったと話す横顔は、悲しさと悔しさに満ちていた。
ギリッと奥歯を噛み締めつつ、俺もあいつを曇らせてしまった一人だと自覚すると、より心は落ちていく。
だからこそ。
……謝りてぇ。
その一心で俺は、今日もスマホに向き合っている。
あの美しく、読み手を惹きつけてくる文章。リアルな人間関係。繊細な心情描写。読後感のある終わり方。
それを読めば、俺はあいつの作品を見つけることが出来る。
だってあいつの話は、他の作家には書けない唯一無二の物語なんだから。
だから俺は、全ての作品に目を通すことにした。
あいつが居るような気がして、あいつの書いた小説を読めば分かると確信して。
こうして気付けば三か月の月日が過ぎており、季節が秋から冬に変わっていてもそれらしい投稿は見当たらなかった。
フツウに考えたらそりゃ当然で、小説投稿している作家なんて一体どんだけいると思ってんだって話だ。
こんな甘いタグ付けだからか、出てくる作品は無数にあり、昨日の続きから読んでいく。
あいつではないかと、考えないながら。
「ま、ねーよな」
また情けねぇ声を漏らした俺は、次は他の投稿サイトを開いては検索候補を打ち込み、出てきた小説を順番に読んでいく。
ファンタジーや恋愛重視のサイトだと分かってても、僅かな可能性にかけて。
どこまでも諦めの悪りぃ俺は、もう二度と開かねぇと決めていた青春文学賞の選考ページまで開き、題名と名前まで確認していた。
しかし作品の題名と作家名だけで特定出来るはずもなく、完全に行き詰まり状態だった。
……本当に筆を折ってしまったのか?
そう思う度に検索する指を何度となく止めてしまうが、目を閉じれば浮かぶのは小説について話す時に光るあの目の輝き。
寒さで悴んできた指に力を入れて次のページに進みスライドしていくと、そのあらすじが目に入った瞬間、目を奪われた。
その内容は二人の男子中学生が小説を書いており、受賞を目指して奮闘する物語。二人は執筆のことを誰にも言わないと約束していていたが、その片方がそれをクラス中に言いふらしてしまい、もう一人は友人に裏切られたと筆を折ってしまう。そんな話だった。
まさか。
震える指でタップすると、二人の男子中学生が南紀白浜の浜辺で夕陽を見ながら小説執筆について語らう場面から始まり。互いに読み合い、アドバイスをして、時にはぶつかることもあったが、毎日がキラキラと輝き、相手を尊重し、信頼し合っていた。
そんな二人は書籍化を目指して公募に挑戦するが、友人は結果を出せず己の才能を疑い筆を折ってしまう。
親友の分も夢を叶えようと奮闘するが、親友に裏切られてしまった主人公は、二人の秘密である小説執筆についてクラス中に暴露されてしまう。
信じていた親友に秘密を暴露された絶望。その時に言い放たれた言葉。
シチュエーションは違うが、その書き綴られた心情は俺そのものだった。
そして、この物語にはもう一人主人公がいた。
裏切った友人側の目線。その内容は。
はっ? んわけ、あるかよ! ふざけんな、アイツが俺を? テキトーなこと書くなよ!
思わず、スマホをぶん投げそうだった。
文章で分かる、あいつだ。何も知らねーくせに、勝手なことばっか書きやがって!
謝りたい気持ちなんか潮風に流された吐息のように一瞬で消え去り、スマホを握る手に力が入る。
文句の一つでも言わねーと腹の虫が治らないと力強くタップしていくが、コメント欄は閉じてあり連絡を取る手段がねぇ。
どんな筆名でこんなふざけた話を公開してんだと作者欄に目をやると、名前は西城寺 華という、知り合いにはいねーが間接的に知っているような文字列で、さっきも見たと青春文学賞の選考欄を過去に遡って見ていくと、三次通過一つ、二次通過二つ、一次通過二つと結果を残していた。
「あいつ、いつも一次落ちだって言っていたのに」
やっぱりな。あれほどの文才があるのに、一次すら通らないなんておかしいと思っていたんだ!
久しぶり過ぎるSNSを開くと見知った名前がいくつもあり、書籍化が決まっただの、二冊目三冊目とかの報告に溢れていて俺の心に刃が突き刺さるような痛みが走る。
……んなこと、今どーでもいいんだよ。
頭を掻きむしり、検索名を打ち込むと、同姓同名の登録者は複数あり、一つ一つプロフィール欄を確認していく。
すると、うさぎのぬいぐるみがアカウントになっているのが目に入り、思わず「これだ!」と声に出ていた。
読書が好きです、という一文のみがプロフィールに書き込まれたアカウントは今年の九月より開設されたようだ。
投稿内容は読んで感動した本の書き込みに、同じ窓からの風景と共に投稿された140文字の文章。その内容は、写っている木から散っていく葉のことばかり。
その文章があまりにも詩的で、己の運命と重ねているようで、読んでいくうちに涙腺が緩んできやがる。
やはりこの文章はあいつのもので、この写真も……。
俺はこの景色をよく見下ろしていた。
物心つく頃からあの人に連れられて通っていた、あの場所。
だから、ここがどこかを知っている。
なんでだよ。お前どうして、ここにいるんだよ?
あいつ、初めから何かおかしかった。
体育休んだり、少し走ったぐれぇで異様に息切れしたり、一年の夏休み開けに不自然過ぎるぐらいに痩せたり、急に倒れたり……。
あいつの作風が変わったのは、年明け頃だった。まだあの時は公募の結果も出てなかったのに、妙にソワソワして、異様なほど作品を書きまくっていて、内容が全然まとまってなくて、焦っているのは明らかだった。
俺に何かを言おうとして、ためらっていて。
……あの時、もっと踏み込んで聞くべきだったのか。
そう思い空を見上げると、チラチラと舞うのは真っ白な雪。
初雪が降った日、優しかった母は死んだ。
クリスマスは一時退院して、三人でクリスマスパーティーをしようと言ってくれていた。ケーキを一緒に作ろうと約束してくれていた。
あの人とは、ツリーを飾って母さんを喜ばせようと一緒に計画を立てていたのに。
母の死後、あの人は豹変した。
息子の世話とか、小学校に進学する準備とか、仕事とか。
そんなもの全て忘れたかのように、酒にどっぷり嵌り、母親を亡くしたばかりの俺に……。
部屋に溢れる空き缶の山に、荒れ狂うあの人。その姿は、父親なんかじゃなかった。
封じていた記憶が蘇りにより頭が割れそうなぐらいに痛み、雪を見ないように俯き目を強く閉じた。
うそ……だろ、あいつは……。
やめろよ、こうやって善良な人間にそんな運命を背負わせるのは。
何でだよ? 何で、母さんとあいつなんだよ?
優しくて、愛されていて、いなくなったら悲しむ人間を選ぶんだよ?
やめろよ。頼む、やめてくれよ。
感想
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