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10話 高校二年生 街彩られる頃

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 雪がしんしんと降る、十二月下旬。
 冬休みに入り学校に行く必要がなくなった俺は、降り続ける雪を自室より眺めていた。
 あれからもあいつの投稿サイトのページを閲覧しているが、作品はあの一作のみ。SNSも更新が途絶えてしまった。
 ……もしかして、あいつは。
 そう思うと体は震え、心臓が痛みを感じるぐらい脈打つ。

 関わるな。
 これ以上深入りはするな。
 今なら知らないフリで終われるから。
 俺は自分可愛さ故に、気付いている事実に目を逸らしていた。
 冷酷非道。さもしい。狡猾。
 そんな言葉が俺には似合っている。

「母さん、ごめん。こんな息子で。情けないよな?」
 俺は棚の上部より引っ張り出してきた母親の写真に、一人許しを蒙っていた。


 俺は、母さんの死に目に会えなかった。
 いや、会わなかった。
 浅くなる息が怖くて。鳴り響く警告音が辛くて。泣き叫ぶ父を見るのがあまりにも苦しくて。
 しかしそれに関して、今でも後悔している。最期を見送れば良かったと。
 だからこそ、もう一度自身に問う。
 本当にこれで良いのか?
 もう時間がないこと分かってるよな?
 また俺は後悔する気なのか?

 しかし何度考えても答えは出ず、また俺はあいつの動きを調べる。

「……あ!」
 SNSが更新されていた。
 あいつ!
 気付けば俺はスマホを強く握り締めていた。良かった。本当に。

 その写真は、いつもと違う窓からの景色で、降りゆく雪とクリスマスツリー。そして、街を彩るイルミネーションが映し出されていた。
『MerryXmas。今日は無理して共有スペースに来た。綺麗。最後に見れて良かった』
 それを読んだ瞬間。俺の体は勝手に動いていた。
 一番清潔な服に着替え、仕舞っておいたマスクを取り出し着用した。

 外を出れば一面の雪景色。凍り付きそうな寒さだが、そんなの関係ない。
 俺はただ走った。場所は分かっている。  
 家から徒歩三十分の距離にある、専門病院だ。

 速く! 速く! これがあいつと会える、最後のチャンスかもしれない。
 クリスマスツリーとイルミネーションにより彩られた街にすれ違うやつらは賑わっていたが、そんなのに見向きもせず、ひたすらに走り続けた。
 がむしゃらに進むと懐かしい建物に辿り着き、投稿写真と照らし合わせ階層に目星をつける。
 同時にあいつの状況を思い知った俺は、覚悟を決めて敷地内に入っていき、病棟の共有スペースに辿り着く。
 そこにはテーブルと椅子が配置されており、そして外の景色を一望出来る大きな窓。
 椅子に座りそこからの景色を見下ろす、点滴に繋がれた小さな体。
 雪を眺める顔は、ガラス越しに反射して見えた。
 その表情があまりにも儚く、マスク越しでも分かるほど彼女は。

 そんなあいつの元に近付くと俺も同様に反射し、ガラス越しに目が合った。
「……え?」
 そう声を出してゆっくり振り返ってきたのは、パジャマ姿で毛糸の帽子を被り、見間違える程痩せ細った吉永 未来だった。

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