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 そうして準備をして迎えた週末。魔女の森は少し遠いのでまだ夜も明けぬうちに学院を出て辻馬車に乗り魔女の森近くまで送り届けて貰う。馬車を降りた私達は注意しながら魔女の森を見るけれど、他の森と何ら変わりないような気がするのよね。


そして森に足を踏み入れて実感する。

ここは別世界のようだと。

 不安になりながらもまず魔女の所へ向かう事にした。先輩の研究に役立つ素材が欲しい。そう思いながら。獣道のような細い道がずっと森の奥まで続いていてどれくらい歩いたかしら、1時間以上は歩いたと思う。

 
 まだかと焦燥感に囚われ始めた頃、目の前に一軒の小さな小屋が見えた。

「ファルス、あれじゃない?」
「それっぽいよな」

私達は緊張しながら扉を叩いた。

「はぁい、誰かしら?」

 出てきたのはレースのアイマスクをした絶世の美女。この人が噂の魔女?私達は魔女に案内されて小屋の中へ入った。
 小屋は何かの魔法が掛かっているようで見た目と違いかなり広い空間になっていたわ。そして香る薬草を煮詰めた時のような匂い。

 私は勧められるまま椅子に座り、出されたお茶を飲む。何気なく魔女は魔法でポットやお湯を出し、淹れてくれているけれど、その様子を見るからに一般人とは比較にならない魔力なのだと分かる。
 そして隣にいたファルスが震えているわ。どうしたの?とファルスの視線の先を見ると、魔女の足が蛇の尾になっている。

もしかして魔女自体が魔獣なの!?私達は魔物の住処に来てしまったのか、どうしようと震えていると、

「何か御用かしら?」

魔女は気にした様子も無くそう微笑みながら聞いてきた。

「は、はい。わ、私マーロア・エフセエと言います。じ、実は、学院に通っていて、先輩が錬金をしているのですが、手伝うために珍しい素材を、と思って魔女の森の中にあるという魅惑の実と少しの魔獣を狩らせて欲しくてここにやって来ました」
「ふぅん。魅惑の実?カイン、分かるかしら?」

 先ほどまで誰も居ないと思っていたのに。気配一つしなかったけれど突然現れた黒髪の執事服の男の人。どうやらカインという名前らしい。

「あぁ、お嬢様。偶に魔獣が争って取り合っている黄色いあの実ではないですか?」
「あれね。いいわよ。それに最近手入れをしていなかったから魔物も増えているし、狩れるのなら狩っていきなさいな」
「本当ですか!?有難うございます」

魔女はテーブルに頬杖をついて微笑んだ。

「で、対価はお持ちかしら?」

 やっぱり噂は本当だったんだわ。

ちゃんと用意をしていて正解だった。

 私は震える手でリュックから乙女の花と聖水を出した。すると魔女は興味を持ってくれたみたい。

「あら、そのリュック。人間なのに頑張って作ったのね。……凄いわ。それにこの乙女の花と聖水は本物ね。いいわ、気に入ったわ。カイン、付いて行ってあげて頂戴」

乙女の花は本物だった。

私達はホッと胸を撫でおろした。カインさんが付いて来てくれるのね。どんな魔物が住んでいるか分からないこの森で住人が付いて来てくれるとは心強いわ。


 私達は魔女にお礼をしっかり言って小屋を後にした。そしてカインさんは小屋を出てから私達に注意事項を話す。

「お前達の実力では倒せない魔獣が多い。私から離れないように」
「「分かりました」」

 小屋を出て歩き始めると先ほどとは一気に風景が代わり、何処をみても森となっていた。

「ファルス、森になっているわ」
「マーロア、魔物の気配が周りからする」

 どうやらさっそく魔獣に囲まれたみたい。私達は剣に手を掛けている。

 ガサガサと葉を揺する音がしたと思ったら二メートルはあろうかと思われるほどの大きな魔物が目の前に現れた。見たことも聞いたこともない魔獣。6つの目がギョロリとこちらを睨んでいる。
4本の腕が私達を今にも掴もうとしている。この魔獣、前方に6つの目玉を持っているし、手は4本あるけれど2本足で立っていてとてもアンバランスだわ。

「お前達、見ているからやってみろ」

カインはそう私達に声を掛けた。

「「はい」」

 ファルスは高く飛び上がり、腕を狙う。私は横から回り込み左後方の死角であろう場所から足を切り付ける。私はなんとか切る事が出来たけれど、ファルスの剣は受け止められている。

「チッ、離せ」

ファルスは剣を取られて焦っている。

「ファルス、避けて」

 剣を掴んでいる手首に向かってダガーを投げる。ナイフはしっかりと手首に刺さり、魔獣は剣を落とす。ファルスは落ちた剣を素早く広い後ろから切り付ける。
 ファルスは後ろから魔法を纏わせた剣で切り付けた。やはり後ろがこの魔獣の弱点なのね。私は腕の付け根を切り落とす。魔獣も暴れだすがあまり動きは早くないので私達は後ろから刺し、最後に首を切り付けて魔獣は絶命した。

「学生でこれならまぁまぁ良いほうだろう。ファルスといったか、何も考えず上から切り付けるのは最悪な手だ。上から切り付けるなら全力で一気に叩き込め、でないと死ぬぞ。
マーロアと言ったな。君も赤点だ。着眼点は良いが、自分と同様か自分より強いかどうかしっかり感じろ。魔力があるのなら感知する事は可能だろう?」

 ファルスは耳の痛い事を言われて自覚もしているせいかしょんぼりしている。ファルスの悪い癖が出たようにも見えるわ。それにしても私が魔力持ちだと一目で気づいているカインさんはやはり只者ではないのね。

「カインさん、魔力を使ってどう感知するのですか?」

 私は素直に質問するとカインさんは鑑定に近いと話しながらやり方を教えてくれた。私は鑑定魔法を使えないのだけれどそれは問題ないらしい。
 魔力を細かな格子状に組み相手にぶつけるらしい。魔力が相手を包む時に敵の魔力の強さや弱点が分かるようになるのだとか。これは練習が必要だわ。ファルスは剣の扱い方のレクチャーを受けている間に私は先ほど倒した魔獣をリュックの中に入れた。

リュックはこの1匹でほぼ埋まってしまったわ。

 そこからしばらく歩いていると、木になっている沢山の黄色い実を見つけた。黄色い実は一口サイズで赤いらせん状の線が付いていて少し毒々しい感じがする。私は先ほど教えて貰った感知を木に使ってみる。投網のようなイメージで対象物を包むと言っていたわ。
 上手く網状にならないけれど、何度か木に向かって魔力を投げた。木自体は何の変哲もない木のようだけれど、黄色い実からは甘い香りというか魔力なのかな、漏れ出ているわ。

それだけは分かった。要練習ね。魔獣はこれを食べているのね。

「カインさん、この実は食べられるのですか?」

ファルスは黄色い実を事前に用意していた採取用の瓶に詰めながら聞いている。

「食べても腹を下すだけだと思うが、食べてみたいなら食べてみろ。微々たる物だろうが魔力は増えるかもしれん」

えぇぇ!?お腹を下すのね。ここでチャレンジはしたくない乙女心。

でもね、僅かでも魔力が増えるなら食べてみたいとも思う。

 そして当初の目的である黄色い実は採取出来たわ。けれど、森の魔獣は強くて私達にとってはかなり難しいレベルだと分かった。

 森を出る前に狼型の魔獣や形容しがたいスライムといえばいいのかも分からない魔物達と遭遇し、戦ったの。
狼型は素早くて何度か『あ、これ死んだ』と思ったわ。カインさんが素早く防御結界を出して守ってくれて本当に助かった。

 敵の倒し方や自分の攻撃の駄目な所を的確に教えてくれて凄く勉強になったわ。スライムのような魔獣はカインさんに教えて貰うまで倒し方もよく分からなかったけれど、ファルスは魔法剣で、私は剣でひたすら弱点部分を中心に攻撃していった。

「マーロア、ファルス。君たちはまだまだ伸びるだろう。頑張るんだぞ。そしてここは危険だ。今回は魔女様が許してくれたから入る事が出来た。人間のお前達はもう来るな」
「カインさんに教えていただいた事、一生忘れません。魔獣素材も大切に使わせていただきます。有難うございました」

しっかりとカインさんにお礼をして森を出た。気づいていなかったけれど、どうやら森で一日を過ごしていたみたい。

すっかり遅くなってしまった。
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