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 私は断る事は出来ないなと思い、差し出された手を取りライアン殿下とダンスをする。

「リア嬢、今日のエスコートはニール・カルサル公爵子息なんだね。そしてこの間の事はすまなかった。令嬢を途中で帰らせるなんて男としても最低だった。

兄上からも兄上の奥方からも厳しく叱られてしまった。リア嬢、もう一度私と会ってはくれないだろうか?埋め合わせをしたい」

「ライアン殿下、私の事は気にしなくても大丈夫ですわ。それに、先程私の婚約者が決まりましたの。生涯独身でいいと思っていましたがストンと決まるとは人生何があるか分からないですね。これからは婚約者もいる事ですし殿下と2人だけでお会いするのは出来ませんわ」

「・・・もう遅いのだろうか?」

珍しく殿下が瞳を揺らしている。

「殿下にはサラ様がいるではありませんか。女はいつだって好きな人に自分だけを見て欲しいし、嫉妬も生まれるのです。

サラ様を始め妃候補者方の好きな物を知っていますか?私が好きなのは昼寝です。お茶会も舞踏会も、宝石もお花も着飾る事も興味は無いのです。怠惰な性格なのです。

ですから王子妃には向かないでしょう?根っから。

・・・ダンスが終わってしまいましたね。

では」

 ニコリと微笑み礼をしてからニール様の所に向かうとニール様は当てつけのように私の腰に手を回してガッチリホールドされたわ。振り返るとライアン殿下はすぐに令嬢達に囲まれていたわ。心配する事は無さそうね。

「リアがライアン殿下を見つめている姿を見ると妬けますね」

「ニール様は案外嫉妬深いのですね」

「ええ。自覚するくらいには。リア、疲れたでしょう?バルコニーに出ませんか?」

私とニール様はバルコニーへと出て夜風に当たる。バルコニーからの景色は月の光に照らされた庭を一望する事が出来てとても幻想的だ。

ニール様は私の前で跪く。

「リア、私は女性からの初めてのプロポーズ、嬉しくて舞い上がっていました。けれど、男の私からもどうか求婚させて下さい。私は生涯貴方1人を愛し続けます。私の女神。受け取って下さい」

「ニール様、とても嬉しいです。でも、私の過去を知ればきっとニール様は私の事を嫌いになるかも知れないです」

「過去?2年も一緒にいて私の知らないリアの過去?14歳より過去の事ですか?」

 ニール様はいまいちよく分からずにいる様子。当たり前よね。私とニール様を囲むように防音結界を張る。

「ニール様、これは私の家族しか知らない事なのです。……私は、私の名はリディス・サルタン。詳しく言うと、前世での名前ですが。私は14歳の時に魔力暴走に巻き込まれて過去を思い出したと同時に光属性が使えるようになったのです」

そして詳しくリディスの過去を話した。ニール様は表情を変えずに全てを聞いていたわ。過去の自分は苦しくて辛くて生きる事を自ら手放した。

今は優しい家族や従者達に囲まれて幸せを知った。けれど、痛めつけられた恋心はここにきて怖いと訴える。

「また、裏切られるのでは無いかと、また傷付けられるのではないかとっ」

気づけば頬を伝う涙。ニール様は最後まで私が言い終わる前にギュッと私を包み込んだ。

「ニール様。それでも、私を受け入れてくれるなら、どうか私と結婚して下さい」

「私はあの男とは違う。リアだけを大切にする」

そうして持っていた指輪を私にはめ、ニール様はそっと口付ける。

「さぁ、もう帰宅しても良いだろう。挨拶もダンスも終わった。リアを他の男の視界に入れたく無い。リアはもう少し舞踏会に居たいかい?」

「いえ、私は帰りたいです」

「では帰りましょう。愛おしい婚約者殿」

ニール様はそっと腰を抱き、エスコートしてホールに向かった。ホールではお父様とお母様が他の方とお話していて私達を見つけると手招きしている。

 私達はお父様達に帰ると告げようとした時、ワラワラと人が集まってきたわ。

普段から舞踏会に参加しないツケがここにきたの!?

私はニール様と離れないようにし挨拶をしていく。お茶会の誘いが多数あったけれど、私達は王宮魔導師として日々魔物討伐に出ているため参加は難しいと話すと引き下がってくれたわ。

治療して欲しいという要望も困るのだが、第二夫人ならぬ第二夫、第三夫や妾はどうかと聞かれる。その誘いはニール様も同じらしく、他家からすると優秀な魔導師の血筋が欲しいと私が目の前に居るというのに直接的や間接的に話す人もいる。

とりあえず和やかに微笑みながら心の閻魔帳に名前を書き加えておく。ある程度の挨拶を終えたので私達は邸へと帰宅した。

「ではリア、また明日。私達はあまり舞踏会に参加しなくて良いとはいえ、次回の王家主催の舞踏会には参加だよ。ドレスももう用意してあるから大丈夫だ。そして私達の結婚式が待っている。ではお休み」

ニール様はそう言って玄関まで送り届けてくれ、額にキスをし、馬車で帰っていった。

部屋で今日あった事を思い出し、私は顔を真っ赤にしながらメイジーにドレスを脱がせてもらう。


そういえば次回は王家主催の舞踏会、高位貴族だけが集まる舞踏会だったわ。
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