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23.真犯人

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「今日、デズモンド伯に無理を言ってあなたを連れてきてもらったのは、あなたに謝罪するためです」
王妃様は、しょっぱなから驚愕のセリフを口にした。

謝罪! 王族が謝罪って! しかも私に!
私なんて、身内のお兄様にさえ、10年に一回くらいしか謝ってもらえないのに!

「お、王妃さま、そのような、謝罪などと……、そのような、もったいない……、もったいないお言葉」
しどろもどろに言う私を見て、王妃様が優しく笑った。

「あなたは、本当にアンヌにそっくりね。彼女も優しく控え目な女性でした。……懐かしいわ」
王妃様の言葉に、私は体を固くした。
アンヌとは、私の母親の名前だ。

6年前、王宮からの帰りに、お父様とともに殺されてしまったお母様。
結末を知っていたのに、私は何もできなかった。

「殿下、両親について何か、新たにわかったことがあれば、どうかお教えいただきたい。……遠回しでは、妹には伝わりませぬ」
さりげなくお兄様にディスられている。
王妃様の前でバカ扱いとか、あんまりです。

抗議の意思をこめてじっとお兄様を見つめると、なぜかお兄様の腕が腰に回り、抱き寄せられてしまった。

王妃様の目の前で何やってるんだ、こいつ!

……とは思うんだけど、正直、王族を目の前にした緊張のせいで足がガクガク状態で、抱えておいてくれるとありがたいかもしれない。
へにょっと力の抜けた状態で、お兄様に抱きかかえられていると、ほほほ、と軽やかな笑い声が響いた。

「わかりました、これ以上デズモンド伯を怒らせるのは得策ではありませんからね」
王妃様に手招きされ、私はお兄様に抱きかかえられたまま、王妃様のすぐ傍に近づいた。
ひい、王族にこんなに近づくなんて、緊張して吐きそう。いや今は吐いちゃダメ、吐くならせめてお兄様のマントに!

お兄様のマントを握りしめてぶるぶる震える私に、王妃様はささやくように言った。

「……6年前の、あの痛ましい事件には、私の実家が関わっているのです」
「え!?」

私は礼儀を忘れ、思わず大声を上げた。
王妃様のご実家!? それって……。

「……あの、王妃様のご実家って?」
ラス兄様に小声で聞くと、深いため息が返ってきた。
「そこからか」

だって宮廷とか、1ミリも興味なかったんだもん!
王妃様のご実家とか、私に何の関わりもなかったもん、今の今までは!

「……王妃殿下のご実家は、南方に所領を持つゼーゼマン侯爵家だ」
うぷっと私は吹き出しかけ、慌てて両手で口を覆った。

ゼ、ゼ、ゼーゼマン!?
それってそれって、アルプスの少女ハイジに出てくる、クララの苗字では!?

「マリア、大丈夫か」
お兄様が気づかわしげに私の髪を撫でるが、ぜんぜん大丈夫じゃない。

ゼーゼマンって!
ちょっと、何なの、この異世界! なんで世界名作劇場にここまで寄せてくるの!?
私の腹筋を崩壊させて、なんかいいことある!?

ひいはあ肩で息をしていると、王妃様が心配そうに言った。
「ああ、マリー……、可哀そうに。辛いでしょうけど、聞いてちょうだい」
ええ、ツラいです。かつてないほど、腹筋の危機を感じています。
だがその時、私はふとあることに気がついた。

王妃様、私のことマリーって呼んだ。
それにお兄様、王妃様のご実家は南方に所領を持つ、ってさっき言ってたよね、たしか。

私は、脳裏に浮かんだ恐るべき可能性に、ぶるっと体を震わせた。
も、もしこれが当たってたら、お兄様、とんでもない被害者なんじゃ?

私は、意を決して、恐る恐る王妃様に伺った。
「王妃殿下、どうぞご無礼をお許しください。私、どうしてもお教えいただきたいことがあるのです」
「まあ、何かしら? ええ、私に答えられることなら、何でも答えてよ」
王妃様のありがたいお言葉に、私は勇気を振り絞って言った。

「あの、あの……、我が兄、デズモンド伯爵の、ミ、ミドルネーム、は……、もしや、王妃様が」
「まあ!」
王妃様が、驚いたような声を上げた。

「まあ、どうしてわかったの!? ええ、そうよ、デズモンド伯爵のミドルネームは、私が名付けたの! 南方の聖人ラスカルのお名前をいただいたのよ。どうしてそれを」

おまえが犯人か!

私は腰を折り、王妃様から顔を隠して、くっと唇を噛みしめた。

そーだよ、考えてみれば簡単な話だ。
当時、お兄様の出生を知っていたのは、現国王と王妃クレア様(クララじゃなかった……、残念)と当時デズモンド伯爵だったお父様、それにお母様だけ。
レイフォールドは、王都内でもメジャーな名前だけど、ラスカルなんて名前、珍しいっていうか、聞いたこともないもんね。少なくとも、王都内の貴族にはいないはず。

てことは、どっからラスカルを持ってきたのかって言うと、南方出身の王妃様以外、考えられない!
私が王妃様のご実家を知っていれば、最初からわかる話だったのだ。

ていうか、ラスカルとかパトラッシュとか、挙げ句の果てにゼーゼマンとか……。
ぬおお、恐るべし南方のネーミングセンス!

「マリア、どうした。震えている。気分が悪いのか?」
お兄様が心配そうに私の顔をのぞき込んだ。

なんて可哀そうなお兄様……。
王妃様の善意あふれるお節介で、生涯消えない烙印を押されてしまったのね。
闇の伯爵なのに、ラスカル。
血まみれの闇伯爵なのに……ダメ、これ以上考えたら、冗談抜きで笑い死ぬ。

私はぷるぷる震えながら、笑いをこらえるため、ぎゅっとお兄様に抱きついたのだった。
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