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第三話 オオカミさんとキスをして
9・レオンの切り札
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「……手紙を運ぶのは親父の役目だったから、離れた都で暮らす俺にマトモな情報が来ないことは予測していた」
レオンが、ぽつりぽつりと話し始める。
そっか。だからおばあちゃんの手紙の返事が来なかったのね。
きっとおばあちゃんの手紙自体、レオンに届いていないんだろうな。
「ミーヌ村は王領、王家の直轄地だ。本当はモンスター密売の契約書を手に入れた時点で王城に報告したほうが良かったんだと思う。いや、親父が星の神殿に司祭の派遣を要請したとトマが暗号で書いた手紙で教えてくれたとき、都にある太陽か月の神殿へ伝えに行けば良かった」
オオカミさんが、ゆっくりと首を横に振った。
「自分の父親が関わっているのなら、簡単に割り切れるものではない」
「……そう言ってもらえると嬉しいよ」
俯いて、レオンは溜息を漏らす。
「俺は動かぬ証拠を突きつけさえすれば、親父が反省して自分から罪を認めてくれると思っていた。もちろん俺の妄想に過ぎない。村の若者を自警団として利用し、王領の村の資源をべつの貴族と組んで売りさばき、太陽や月の神殿を無視して星の司祭を引き入れることを決めたのは親父本人なんだから」
それでも息子に糾弾されたのなら、泣き落としで誤魔化そうとすることはあっても危害を加えることはないだろう、証拠さえ奪われないよう気をつけながら時間をかけて説得すればいいと考えて、レオンはミーヌ村へ戻ってきたのだという。
村に来ている星の司祭には関わらないようにするか、あるいは証拠を見せて仲間に引き入れるつもりだった。
──今年の年末、三年に一度の星の大神官選挙が行われる。
モンスター密売の契約書には売り手の村長とエスクロ男爵だけでなく、買い手側の署名もあった。かなり名前を知られた代表司祭だ。今年の選挙にも立候補している。
彼は星の司祭や神官にモンスターを売ることで、選挙資金と同時に秘密を共有する手下をも得ていたというわけだ。
この情報を上手く利用すればミーヌ村に派遣された星の司祭は、自分は事件に関わりがないとした上で、神殿での立ち位置を高めることもできる。
トカゲの尻尾きりに使われたり村長や男爵もろとも破滅するくらいなら、レオンたちの仲間になるほうを選ぶに違いない。
そう思っていたのだ。
しかし──
「一年間の冒険者生活でいろいろな人間を見てきたが……あの司祭は危険だ。さっきノワの話を聞いて、出会ってからずっと抱いていた違和感が氷解した。どんなに善良な司祭の仮面で隠していても漂ってくる、あれは人殺しの匂いだ」
「モンスターの密売にしても、エスクロ男爵の息子だからってだけじゃなく、あの司祭本人がかなり深くまで関わってるんじゃないのかなあ。契約書に署名していた代表司祭はラクテ司祭の傀儡なんじゃない?」
「それに……親父と司祭は、まだなにか企んでいるようなんだ」
「モンスターの密売以外にか?」
オオカミさんに尋ねられて、レオンとトマが首肯する。
「ルー司祭はミーヌ村の北東に廃鉱山があるのを知ってるか? 厳密にいうと鉱山ではなくて闇バチの巣だ」
「ああ、知っている。魔法封印後、この辺りにあった都市が狂暴化したモンスターに襲われて滅び、森に覆われて遺跡化した建物の残骸に闇バチが棲みついた場所だな。先日この村に一匹迷い込んできたので神獣に調査に行かせたら、闇バチたちが戻って来ていた。ちょうど狩りの季節らしく巣にいた闇バチは少なかったな。留守番隊だけだったんだろう」
「そうなんですか? ひとりで大丈夫でしたか? せっかく毒針の魔法が使えるようになったので、ご一緒して手伝いたかったです」
オオカミさんがそんなことをしていたなんて、わたしは全然知らなかった。
青月さんを召喚できるのは夜だけだから、わたしが寝た後に出かけていたのかな。
黄金色の瞳のオオカミさんが優しく微笑む。
「ノワ、心配してくれてありがとう。だが、守ると約束したのに君を置いて出かけたりはしない。闇バチを刺激しないよう青月の目を借りて調査しただけだ。廃鉱山までの道は、あのときの闇バチの死体の匂いを嗅がせて辿らせた」
「月の神獣は猫だったか。優秀で羨ましいぜ。キャピテンヌなんか犬のくせに、アメリーおばさんの家から盗まれた羊を探し出せなかったんだ」
「わう!」
レオンの言葉に、キャピテンヌが机に前足を置いて不満を表明した。
レオンが、ぽつりぽつりと話し始める。
そっか。だからおばあちゃんの手紙の返事が来なかったのね。
きっとおばあちゃんの手紙自体、レオンに届いていないんだろうな。
「ミーヌ村は王領、王家の直轄地だ。本当はモンスター密売の契約書を手に入れた時点で王城に報告したほうが良かったんだと思う。いや、親父が星の神殿に司祭の派遣を要請したとトマが暗号で書いた手紙で教えてくれたとき、都にある太陽か月の神殿へ伝えに行けば良かった」
オオカミさんが、ゆっくりと首を横に振った。
「自分の父親が関わっているのなら、簡単に割り切れるものではない」
「……そう言ってもらえると嬉しいよ」
俯いて、レオンは溜息を漏らす。
「俺は動かぬ証拠を突きつけさえすれば、親父が反省して自分から罪を認めてくれると思っていた。もちろん俺の妄想に過ぎない。村の若者を自警団として利用し、王領の村の資源をべつの貴族と組んで売りさばき、太陽や月の神殿を無視して星の司祭を引き入れることを決めたのは親父本人なんだから」
それでも息子に糾弾されたのなら、泣き落としで誤魔化そうとすることはあっても危害を加えることはないだろう、証拠さえ奪われないよう気をつけながら時間をかけて説得すればいいと考えて、レオンはミーヌ村へ戻ってきたのだという。
村に来ている星の司祭には関わらないようにするか、あるいは証拠を見せて仲間に引き入れるつもりだった。
──今年の年末、三年に一度の星の大神官選挙が行われる。
モンスター密売の契約書には売り手の村長とエスクロ男爵だけでなく、買い手側の署名もあった。かなり名前を知られた代表司祭だ。今年の選挙にも立候補している。
彼は星の司祭や神官にモンスターを売ることで、選挙資金と同時に秘密を共有する手下をも得ていたというわけだ。
この情報を上手く利用すればミーヌ村に派遣された星の司祭は、自分は事件に関わりがないとした上で、神殿での立ち位置を高めることもできる。
トカゲの尻尾きりに使われたり村長や男爵もろとも破滅するくらいなら、レオンたちの仲間になるほうを選ぶに違いない。
そう思っていたのだ。
しかし──
「一年間の冒険者生活でいろいろな人間を見てきたが……あの司祭は危険だ。さっきノワの話を聞いて、出会ってからずっと抱いていた違和感が氷解した。どんなに善良な司祭の仮面で隠していても漂ってくる、あれは人殺しの匂いだ」
「モンスターの密売にしても、エスクロ男爵の息子だからってだけじゃなく、あの司祭本人がかなり深くまで関わってるんじゃないのかなあ。契約書に署名していた代表司祭はラクテ司祭の傀儡なんじゃない?」
「それに……親父と司祭は、まだなにか企んでいるようなんだ」
「モンスターの密売以外にか?」
オオカミさんに尋ねられて、レオンとトマが首肯する。
「ルー司祭はミーヌ村の北東に廃鉱山があるのを知ってるか? 厳密にいうと鉱山ではなくて闇バチの巣だ」
「ああ、知っている。魔法封印後、この辺りにあった都市が狂暴化したモンスターに襲われて滅び、森に覆われて遺跡化した建物の残骸に闇バチが棲みついた場所だな。先日この村に一匹迷い込んできたので神獣に調査に行かせたら、闇バチたちが戻って来ていた。ちょうど狩りの季節らしく巣にいた闇バチは少なかったな。留守番隊だけだったんだろう」
「そうなんですか? ひとりで大丈夫でしたか? せっかく毒針の魔法が使えるようになったので、ご一緒して手伝いたかったです」
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青月さんを召喚できるのは夜だけだから、わたしが寝た後に出かけていたのかな。
黄金色の瞳のオオカミさんが優しく微笑む。
「ノワ、心配してくれてありがとう。だが、守ると約束したのに君を置いて出かけたりはしない。闇バチを刺激しないよう青月の目を借りて調査しただけだ。廃鉱山までの道は、あのときの闇バチの死体の匂いを嗅がせて辿らせた」
「月の神獣は猫だったか。優秀で羨ましいぜ。キャピテンヌなんか犬のくせに、アメリーおばさんの家から盗まれた羊を探し出せなかったんだ」
「わう!」
レオンの言葉に、キャピテンヌが机に前足を置いて不満を表明した。
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