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第三話 オオカミさんとキスをして
10・ハエ
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キャピテンヌの叫びを聞いて、トマが苦笑する。
「レオン、キャピテンヌが怒ってるよ。探しに行ったとき、ラクテ司祭も一緒だったんだろ? なにかされてたんじゃないのかい?」
「そういえば、あのときもキャピテンヌはハエにたかられてて……」
「星の神獣は虫だと聞くな」
「わん、わん!」
わたしは、前足で机を叩いて怒りを示すキャピテンヌの頭を撫でた。
さっきまでこの子を苦しめていたハエは、わたしを殺そうとした星の司祭さまの神獣だったんだろうか。
神獣には、見た目の生きものと同程度の知性しかないといわれている。
神獣裁判は、神獣を通してそれぞれの神さまが司祭や神官を裁く儀式だ。
眉間に皺を寄せたオオカミさんが口を開く。
「……青月に闇バチの巣を調査させたとき、立ち入り禁止にされている廃鉱山の前に毒で朽ちた杭と縄、その先につなげられていたとおぼしい生き物の残骸があった。盗まれたという羊だったのかもしれない」
「どうして、そんなことを?」
「一応月の神殿に報告はしたが、闇バチが戻ってきたと知っただれかが解毒剤を調合するためにエサを与えて毒を採取したのだと思っていた。……しかし、そのエサが盗まれた羊だったのだとしたら、採取した毒で留守番隊をおびき出し、巣の中に溜まった魔晶蜜を奪う計画でもありそうだな」
オオカミさんの推理を聞いて、レオンとトマが重々しい表情で頷く。
「モンスター密売の契約書に署名していた代表司祭は年末の大神官選挙の本命じゃない。当選確実だと思われている候補者は今の大神官よりも神殿内部の不正に厳しくて、魔法への対応は緩和すべきだと訴えている人間だ。星の神殿の方針が変わる前に大きく儲けて足を洗おうとしているのかもしれない。……が」
「レオン?」
「それにしては親父の、アメリーおばさんの家の羊が盗まれたことや目撃された犯人が狼の獣化族だと聞いて驚いていた姿は演技に見えなかったんだ」
「……その司祭が神獣を授かっていたら、神獣に命じて巣に残った留守番隊を危険のない場所におびき出すくらいはできるだろうな。知性が高く別種のモンスターから奪った魔法を自在に使いこなす闇バチの集団を全滅させることは不可能だとしても」
神獣に死はない。
少なくともこちらの世界に召喚された状態で死ぬことはない。
モンスターの攻撃を受けて体力を消耗し過ぎたときは、強制的に神さまの住む世界に戻される。
「儲けを独占するために計画を秘密にしているのなら、目立つような騒ぎを起こす必要はない。失礼なことを言うが、村長なら納税のついでに村人の家畜を掠め取るくらい簡単なことじゃないのか?」
「その通りだ。親父と司祭の間にはズレがある。親父はただの欲張りだが、あの司祭は……もっと危ないことを考えている気がするんだ」
レオンの言葉にトマが頷く。
「そうそう。否定している振りしながら、羊を盗んだのは狼の獣化族だっていう考えにみんなを誘導してたしね。だから俺とレオンは乗せられた振りをしてクロ村に来たんだ。ラクテ司祭がなにを考えているのか探るために。クロ村の場所がわからなかったから、わざわざオングル村まで調べに行って」
「そうだったのか。しかし、オングル村で地図を見ただけでよく辿りつけたな」
「うん、実は俺たち、昨日からさ迷ってたんだ。街道を離れると、どこまで行っても同じような森の中だしね」
「わん!」
吠えるキャピテンヌに、レオンとトマが視線を寄せる。
「キャピテンヌがいなかったら、たぶん辿りつけてないね」
「羊探しのときは全然だったくせに、今日はハエにたかられても無視して鼻を動かしていた。……きっとノワに会いたかったんだ」
「……」
自慢げな顔をする黒い犬を撫でた後で、わたしは急に不安を覚えた。
「……星の司祭さまがみんなをここに誘導しようとしていたのって、わたしがいるからなんでしょうか? 殺しきれなかったわたしにトドメを刺すために?」
「あのとき俺が君を見つけたのは、犯人が完全にいなくなった後だった。俺の存在に気づかれていたとは思えないが」
トマが玄関の方角へ目を向ける。
「今日来るとき、後をつけられてた様子はなかったんだけどね」
「……ルー司祭!」
「レオン?」
「神獣は物を運べるのか? いや、運べるんだよな。この世界の生きもののような血肉はないが、神に与えられた魔力で姿を形作っているんだろう?」
「ああ、同じ神を祭る神殿間なら、神獣が手紙や荷物を……」
オオカミさんの視線も玄関へと向けられた。
「レオン、キャピテンヌが怒ってるよ。探しに行ったとき、ラクテ司祭も一緒だったんだろ? なにかされてたんじゃないのかい?」
「そういえば、あのときもキャピテンヌはハエにたかられてて……」
「星の神獣は虫だと聞くな」
「わん、わん!」
わたしは、前足で机を叩いて怒りを示すキャピテンヌの頭を撫でた。
さっきまでこの子を苦しめていたハエは、わたしを殺そうとした星の司祭さまの神獣だったんだろうか。
神獣には、見た目の生きものと同程度の知性しかないといわれている。
神獣裁判は、神獣を通してそれぞれの神さまが司祭や神官を裁く儀式だ。
眉間に皺を寄せたオオカミさんが口を開く。
「……青月に闇バチの巣を調査させたとき、立ち入り禁止にされている廃鉱山の前に毒で朽ちた杭と縄、その先につなげられていたとおぼしい生き物の残骸があった。盗まれたという羊だったのかもしれない」
「どうして、そんなことを?」
「一応月の神殿に報告はしたが、闇バチが戻ってきたと知っただれかが解毒剤を調合するためにエサを与えて毒を採取したのだと思っていた。……しかし、そのエサが盗まれた羊だったのだとしたら、採取した毒で留守番隊をおびき出し、巣の中に溜まった魔晶蜜を奪う計画でもありそうだな」
オオカミさんの推理を聞いて、レオンとトマが重々しい表情で頷く。
「モンスター密売の契約書に署名していた代表司祭は年末の大神官選挙の本命じゃない。当選確実だと思われている候補者は今の大神官よりも神殿内部の不正に厳しくて、魔法への対応は緩和すべきだと訴えている人間だ。星の神殿の方針が変わる前に大きく儲けて足を洗おうとしているのかもしれない。……が」
「レオン?」
「それにしては親父の、アメリーおばさんの家の羊が盗まれたことや目撃された犯人が狼の獣化族だと聞いて驚いていた姿は演技に見えなかったんだ」
「……その司祭が神獣を授かっていたら、神獣に命じて巣に残った留守番隊を危険のない場所におびき出すくらいはできるだろうな。知性が高く別種のモンスターから奪った魔法を自在に使いこなす闇バチの集団を全滅させることは不可能だとしても」
神獣に死はない。
少なくともこちらの世界に召喚された状態で死ぬことはない。
モンスターの攻撃を受けて体力を消耗し過ぎたときは、強制的に神さまの住む世界に戻される。
「儲けを独占するために計画を秘密にしているのなら、目立つような騒ぎを起こす必要はない。失礼なことを言うが、村長なら納税のついでに村人の家畜を掠め取るくらい簡単なことじゃないのか?」
「その通りだ。親父と司祭の間にはズレがある。親父はただの欲張りだが、あの司祭は……もっと危ないことを考えている気がするんだ」
レオンの言葉にトマが頷く。
「そうそう。否定している振りしながら、羊を盗んだのは狼の獣化族だっていう考えにみんなを誘導してたしね。だから俺とレオンは乗せられた振りをしてクロ村に来たんだ。ラクテ司祭がなにを考えているのか探るために。クロ村の場所がわからなかったから、わざわざオングル村まで調べに行って」
「そうだったのか。しかし、オングル村で地図を見ただけでよく辿りつけたな」
「うん、実は俺たち、昨日からさ迷ってたんだ。街道を離れると、どこまで行っても同じような森の中だしね」
「わん!」
吠えるキャピテンヌに、レオンとトマが視線を寄せる。
「キャピテンヌがいなかったら、たぶん辿りつけてないね」
「羊探しのときは全然だったくせに、今日はハエにたかられても無視して鼻を動かしていた。……きっとノワに会いたかったんだ」
「……」
自慢げな顔をする黒い犬を撫でた後で、わたしは急に不安を覚えた。
「……星の司祭さまがみんなをここに誘導しようとしていたのって、わたしがいるからなんでしょうか? 殺しきれなかったわたしにトドメを刺すために?」
「あのとき俺が君を見つけたのは、犯人が完全にいなくなった後だった。俺の存在に気づかれていたとは思えないが」
トマが玄関の方角へ目を向ける。
「今日来るとき、後をつけられてた様子はなかったんだけどね」
「……ルー司祭!」
「レオン?」
「神獣は物を運べるのか? いや、運べるんだよな。この世界の生きもののような血肉はないが、神に与えられた魔力で姿を形作っているんだろう?」
「ああ、同じ神を祭る神殿間なら、神獣が手紙や荷物を……」
オオカミさんの視線も玄関へと向けられた。
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