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第三話 オオカミさんとキスをして
※11・ハエ神獣(星のラクテ視点④)
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ノワたちがオオカミさんの家の台所で話し始めたころ──
★ ★ ★ ★ ★
……驚いた。
あの女、生き延びていたのか。
やっぱりトドメを刺しておくべきだった。
最初のころは異母弟や後妻が肉片になるまで破壊し続けていた僕だけど、最近は殺害後に武器や魔法の痕跡を消すための始末に飽きてきていた。
元々見られても誤魔化せるように狼の獣化魔法を使って始末をしていたものの、密かな噂になるほど目撃されるつもりはなかったのに、慣れと疲れが油断を引き起こしていた。
自分でもわかっていたんだ。
このままじゃいつか、取り返しのつかない失敗をするって。
でも転生者たちの数は僕の想像以上に多かった。
もちろん、すべての魔法を独占するという目的を捨てるつもりはない。
だから僕は、特定されやすい星の司祭という立ち位置を捨てることにした。
そして三年前、父上に家督を捨てて星の神殿に入れと命じられるまで、ずっと夢見ていた冒険者になる。
冒険者になりさえすれば、これまでこっそりと使うしかなかった魔法も堂々と使える。
常時発動を前提として開発された狼の獣化魔法をしばらく使い続けて成長期をやり過ごせば、今の僕を知るものはいなくなるだろう。
攻撃魔法を同時に使うのは難しいが、補助や防御系の魔法なら重ねがけも可能だ。
こんなこともあろうかと、始末のときは獣化魔法と大地の防御魔法を併用して、狼の毛並みの色を誤魔化しておいて良かった。
殺人者は黒い毛皮を持つ狼の獣化族。
僕は髪と同じ銀色の毛皮を持つ狼の獣化族として、これからを生きるんだ。
狼の獣化族の故郷であるクロ村は消えてしまうから、子どものころのことを聞かれても悲しんでいる振りをして誤魔化せるしね。
なんてことを思いながら、僕は辺りを見回した。
ハエの目を借りているけれど、昆虫本来の視界とは違う。
前世でいうところのカメラを神獣の体に取りつけている感じかな。
辺り一面が真っ黄色だった。
草むらが小さな花で覆われているんだ。
今僕の体があるミーヌ村にも同じ花が咲いている。
こっちで咲いている花の色は赤。
花の色は土地に流れる魔力の属性で変わる。
ミーヌ村の花が赤いのは炎属性の魔力が多く流れているから。
闇バチの巣の影響で人が集まるまでは、炎属性のモンスターが多く出たって話だ。
住人も影響を受けているらしくて、赤っぽい髪の持ち主が多い。
クロ村の花が黄色いのは風属性の魔力が多く流れているから。
そもそも狼の獣化魔法自体、風属性の魔法だ。
……エスクロ男爵邸の中庭に咲いていた花も黄色だったっけ。
星の神が世界の中で司っているのは、光と風だといわれている。
フォーレ王国の都から西に広がる国土は星の神を信仰する貴族たちの領土で埋まっているせいか、風属性の魔力が強いことで知られていた。
野獣の狼も多くて、よく討伐隊が出ている。
姉上は驚いただろうな、幼い弟がいきなり狼に変身して。
あのとき、姉上は僕に黄色い花の首飾りを作ってくれようとしていた。
僕は突然現れたスズメバチから姉上を守りたくて、無意識に狼の獣化魔法を発動させてしまったんだ。
生まれたときから胸に魔法紋章はあったけど、魔法に関する知識を得ることさえ罪だとする星の神殿の支配下にある貴族の家で、その紋章の意味を調べることなどできるはずがなかった。
スズメバチを叩き落として、褒めてもらえると思って姉上を見た僕は、怯えた彼女の顔に凍りついた。
今もときどき夢に見る。
母上がご自分の実家の財産を清算して、魔法を移しておける魔玉蜜の耳飾りを買って来てくれたのは、あれからすぐのことだった。
「ぶんぶん!」
幼い子どもの声がして、僕は我に返った。
灰色の毛皮の子狼が、ハエを見ている。
「ノワのわんわん、苛めた。おえ、やっつける!」
「こらジュール! 危ないぞ、ハエには刺すヤツもいるんだからな」
ハエに手を伸ばした幼児に気づき、もうひと回り大きい灰色毛皮の子狼が近づいてくる。
……もし。
もし僕が転生したのがこの村だったら、どうなっていたんだろう。
獣化して怯えられることもなく、平和に幸せに日々を過ごしていたんだろうか。
冒険者になりたいという夢を口にする前に否定されることもなかったのかもしれない。
いや、狼の獣化族として生まれていたら獣化魔法は体質だから、もうひとつべつの魔法を最初から使えたよね。
……まあ、いくらゲーム知識があったって、この世界で生きる以上この世界が僕の現実。
過去には戻れないし、過去は変えられない。
僕はハエの召喚を解除した。
たちまち視界が、ミーヌ村の神殿の中へと戻る。
神獣は物を運べるけれど、こちらの物を神の世界へ持ち帰ることはできない。
ハエが腹いっぱいに溜めていた闇バチの毒は、あの黄色い花畑に落ちたはずだ。
クロ村へ向かう間、ところどころで待機させていたハエたちも同じように毒を残して消えている。
毒の道しるべを辿った闇バチたちがクロ村を襲うまで、後どれくらいかかるかな。
案外すぐかもしれない。
闇バチの飛ぶ速度は速いから。
★ ★ ★ ★ ★
……驚いた。
あの女、生き延びていたのか。
やっぱりトドメを刺しておくべきだった。
最初のころは異母弟や後妻が肉片になるまで破壊し続けていた僕だけど、最近は殺害後に武器や魔法の痕跡を消すための始末に飽きてきていた。
元々見られても誤魔化せるように狼の獣化魔法を使って始末をしていたものの、密かな噂になるほど目撃されるつもりはなかったのに、慣れと疲れが油断を引き起こしていた。
自分でもわかっていたんだ。
このままじゃいつか、取り返しのつかない失敗をするって。
でも転生者たちの数は僕の想像以上に多かった。
もちろん、すべての魔法を独占するという目的を捨てるつもりはない。
だから僕は、特定されやすい星の司祭という立ち位置を捨てることにした。
そして三年前、父上に家督を捨てて星の神殿に入れと命じられるまで、ずっと夢見ていた冒険者になる。
冒険者になりさえすれば、これまでこっそりと使うしかなかった魔法も堂々と使える。
常時発動を前提として開発された狼の獣化魔法をしばらく使い続けて成長期をやり過ごせば、今の僕を知るものはいなくなるだろう。
攻撃魔法を同時に使うのは難しいが、補助や防御系の魔法なら重ねがけも可能だ。
こんなこともあろうかと、始末のときは獣化魔法と大地の防御魔法を併用して、狼の毛並みの色を誤魔化しておいて良かった。
殺人者は黒い毛皮を持つ狼の獣化族。
僕は髪と同じ銀色の毛皮を持つ狼の獣化族として、これからを生きるんだ。
狼の獣化族の故郷であるクロ村は消えてしまうから、子どものころのことを聞かれても悲しんでいる振りをして誤魔化せるしね。
なんてことを思いながら、僕は辺りを見回した。
ハエの目を借りているけれど、昆虫本来の視界とは違う。
前世でいうところのカメラを神獣の体に取りつけている感じかな。
辺り一面が真っ黄色だった。
草むらが小さな花で覆われているんだ。
今僕の体があるミーヌ村にも同じ花が咲いている。
こっちで咲いている花の色は赤。
花の色は土地に流れる魔力の属性で変わる。
ミーヌ村の花が赤いのは炎属性の魔力が多く流れているから。
闇バチの巣の影響で人が集まるまでは、炎属性のモンスターが多く出たって話だ。
住人も影響を受けているらしくて、赤っぽい髪の持ち主が多い。
クロ村の花が黄色いのは風属性の魔力が多く流れているから。
そもそも狼の獣化魔法自体、風属性の魔法だ。
……エスクロ男爵邸の中庭に咲いていた花も黄色だったっけ。
星の神が世界の中で司っているのは、光と風だといわれている。
フォーレ王国の都から西に広がる国土は星の神を信仰する貴族たちの領土で埋まっているせいか、風属性の魔力が強いことで知られていた。
野獣の狼も多くて、よく討伐隊が出ている。
姉上は驚いただろうな、幼い弟がいきなり狼に変身して。
あのとき、姉上は僕に黄色い花の首飾りを作ってくれようとしていた。
僕は突然現れたスズメバチから姉上を守りたくて、無意識に狼の獣化魔法を発動させてしまったんだ。
生まれたときから胸に魔法紋章はあったけど、魔法に関する知識を得ることさえ罪だとする星の神殿の支配下にある貴族の家で、その紋章の意味を調べることなどできるはずがなかった。
スズメバチを叩き落として、褒めてもらえると思って姉上を見た僕は、怯えた彼女の顔に凍りついた。
今もときどき夢に見る。
母上がご自分の実家の財産を清算して、魔法を移しておける魔玉蜜の耳飾りを買って来てくれたのは、あれからすぐのことだった。
「ぶんぶん!」
幼い子どもの声がして、僕は我に返った。
灰色の毛皮の子狼が、ハエを見ている。
「ノワのわんわん、苛めた。おえ、やっつける!」
「こらジュール! 危ないぞ、ハエには刺すヤツもいるんだからな」
ハエに手を伸ばした幼児に気づき、もうひと回り大きい灰色毛皮の子狼が近づいてくる。
……もし。
もし僕が転生したのがこの村だったら、どうなっていたんだろう。
獣化して怯えられることもなく、平和に幸せに日々を過ごしていたんだろうか。
冒険者になりたいという夢を口にする前に否定されることもなかったのかもしれない。
いや、狼の獣化族として生まれていたら獣化魔法は体質だから、もうひとつべつの魔法を最初から使えたよね。
……まあ、いくらゲーム知識があったって、この世界で生きる以上この世界が僕の現実。
過去には戻れないし、過去は変えられない。
僕はハエの召喚を解除した。
たちまち視界が、ミーヌ村の神殿の中へと戻る。
神獣は物を運べるけれど、こちらの物を神の世界へ持ち帰ることはできない。
ハエが腹いっぱいに溜めていた闇バチの毒は、あの黄色い花畑に落ちたはずだ。
クロ村へ向かう間、ところどころで待機させていたハエたちも同じように毒を残して消えている。
毒の道しるべを辿った闇バチたちがクロ村を襲うまで、後どれくらいかかるかな。
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闇バチの飛ぶ速度は速いから。
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