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28・たとえ収穫祭の日が来ても
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「ディアナ王女、君に感謝する。収穫祭が開催出来るのは、私が即位してから初めてのことなんだ」
ルキウス達がリナルディ王国へ戻り、秋が訪れてしばらくしたころ、離宮にいらっしゃった竜王ニコラオス陛下がおっしゃいました。
十分な収穫と病人の減少から、今年は収穫祭を開くことが決定したのだそうです。
優しく微笑む陛下のお顔を目の当たりにして、私は胸がいっぱいになって俯いてしまいました。
「それで、もし良かったら収穫祭の日は離宮を出て王都を回ってみないか」
「え」
「もうすでにカサヴェテス竜王国中から民が集まっていて活気があるし、祭りとなれば出店も並び他国の遊戯団などもやって来るだろう」
「は、はあ……」
竜王陛下の真意がわかりません。
収穫祭ともなれば国王であるこの方は多忙なはずです。
けれどお言葉を聞いていると、陛下自らが私を案内してくださるように思えてきます。私は、側で控えてくれているソティリオス様に目を向けました。近衛騎士隊長の務めを越えて私のために働いてくれている彼は、優しく頷いてくれました。
「大丈夫です、妃殿下。収穫祭のお忍びの際は俺がご一緒いたします」
「私は本宮殿でサギニと公務を果たすので同行出来ないが、君にはソティリオスと王都で楽しんで来て欲しい」
「はい。……ありがとうございます」
妙な期待を抱いた自分が恥ずかしくてたまりません。
黄金の髪に黄金の瞳の竜王陛下とお会いするのは久しぶりになります。
夏の終わりに精霊王様とご家族が離宮へ遊びに来てくださっていたとき、陛下はこちらにお出でにならなかったのです。オレステス様のお言葉が真実だったのかどうかは不明ですが、そうでなくても形だけの王妃よりも番を優先するのは当然のことです。
収穫祭でだってそうでしょう。
民に顔を見せて労をねぎらい祝福するのは来年の春にはいなくなる形だけの王妃よりも、これからも竜王陛下を支えていく番のサギニ様のほうが相応しいのです。
お優しい陛下は形だけの王妃にも、お忍びで王都へ行って楽しみなさい、と気を配ってくださったのです。不満などありません。
不満があるとすれば、未だに竜王陛下のことを番だと叫ぶ自分の心に対してです。
陛下のご無事を確認するまでは、形だけの王妃であっても竜王国へ居座るつもりです。
そもそもこの気持ちはただの恋情の置き換えに過ぎないかもしれません。来年の春までと割り切って、この気持ちを捨て去ることは出来ないものでしょうか。
陛下は、私がお出しした香草茶をひと口飲んで満足そうにおっしゃいました。
「ああ、美味しい。君が淹れてくれるお茶を飲むと頭がすっきりする。清々しい香りも心地良い」
「……でしたら……」
お出ししたのはいつもの麝香草のお茶です。精霊王様が私に魔導を教えに来てくださっていたとき、精霊王様に会いに来られた陛下にお出しして気に入っていただいたのを覚えていたのです。
乾かした麝香草がたくさんあるからお持ち帰りになりますか、と言いかけて言葉を飲み込みました。
私が来る前から王宮の庭師が栽培していた香草とはいえ、今は他国の素人王女によって世話されているものです。竜王陛下へお渡し出来るようなものではありません。
「ディアナ王女?」
「いいえ、なんでもありません。ありがとうございます、竜王陛下。収穫祭の日が楽しみですわ」
収穫祭の日、精霊王様はカサヴェテス竜王国を祝福するために本宮殿へ行くと先日聞きました。
孤独に離宮で過ごしながら本宮殿の賑わいに耳をそばだてているよりも、ソティリオス様と王都へお忍びで遊びに降りていたほうが楽しいに決まっています。
どちらにしろ私が竜王陛下の隣に立つことはないのです。
ルキウス達がリナルディ王国へ戻り、秋が訪れてしばらくしたころ、離宮にいらっしゃった竜王ニコラオス陛下がおっしゃいました。
十分な収穫と病人の減少から、今年は収穫祭を開くことが決定したのだそうです。
優しく微笑む陛下のお顔を目の当たりにして、私は胸がいっぱいになって俯いてしまいました。
「それで、もし良かったら収穫祭の日は離宮を出て王都を回ってみないか」
「え」
「もうすでにカサヴェテス竜王国中から民が集まっていて活気があるし、祭りとなれば出店も並び他国の遊戯団などもやって来るだろう」
「は、はあ……」
竜王陛下の真意がわかりません。
収穫祭ともなれば国王であるこの方は多忙なはずです。
けれどお言葉を聞いていると、陛下自らが私を案内してくださるように思えてきます。私は、側で控えてくれているソティリオス様に目を向けました。近衛騎士隊長の務めを越えて私のために働いてくれている彼は、優しく頷いてくれました。
「大丈夫です、妃殿下。収穫祭のお忍びの際は俺がご一緒いたします」
「私は本宮殿でサギニと公務を果たすので同行出来ないが、君にはソティリオスと王都で楽しんで来て欲しい」
「はい。……ありがとうございます」
妙な期待を抱いた自分が恥ずかしくてたまりません。
黄金の髪に黄金の瞳の竜王陛下とお会いするのは久しぶりになります。
夏の終わりに精霊王様とご家族が離宮へ遊びに来てくださっていたとき、陛下はこちらにお出でにならなかったのです。オレステス様のお言葉が真実だったのかどうかは不明ですが、そうでなくても形だけの王妃よりも番を優先するのは当然のことです。
収穫祭でだってそうでしょう。
民に顔を見せて労をねぎらい祝福するのは来年の春にはいなくなる形だけの王妃よりも、これからも竜王陛下を支えていく番のサギニ様のほうが相応しいのです。
お優しい陛下は形だけの王妃にも、お忍びで王都へ行って楽しみなさい、と気を配ってくださったのです。不満などありません。
不満があるとすれば、未だに竜王陛下のことを番だと叫ぶ自分の心に対してです。
陛下のご無事を確認するまでは、形だけの王妃であっても竜王国へ居座るつもりです。
そもそもこの気持ちはただの恋情の置き換えに過ぎないかもしれません。来年の春までと割り切って、この気持ちを捨て去ることは出来ないものでしょうか。
陛下は、私がお出しした香草茶をひと口飲んで満足そうにおっしゃいました。
「ああ、美味しい。君が淹れてくれるお茶を飲むと頭がすっきりする。清々しい香りも心地良い」
「……でしたら……」
お出ししたのはいつもの麝香草のお茶です。精霊王様が私に魔導を教えに来てくださっていたとき、精霊王様に会いに来られた陛下にお出しして気に入っていただいたのを覚えていたのです。
乾かした麝香草がたくさんあるからお持ち帰りになりますか、と言いかけて言葉を飲み込みました。
私が来る前から王宮の庭師が栽培していた香草とはいえ、今は他国の素人王女によって世話されているものです。竜王陛下へお渡し出来るようなものではありません。
「ディアナ王女?」
「いいえ、なんでもありません。ありがとうございます、竜王陛下。収穫祭の日が楽しみですわ」
収穫祭の日、精霊王様はカサヴェテス竜王国を祝福するために本宮殿へ行くと先日聞きました。
孤独に離宮で過ごしながら本宮殿の賑わいに耳をそばだてているよりも、ソティリオス様と王都へお忍びで遊びに降りていたほうが楽しいに決まっています。
どちらにしろ私が竜王陛下の隣に立つことはないのです。
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