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第十六話 密書

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 あの日、ペリクレス様は辺境伯家の騎士団との鍛錬の後で、私の淹れたお茶を飲んで欠伸を漏らされました。疲れが溜まっていらっしゃったのでしょう。
 学園を卒業したからといって学ぶことが無くなるわけではありません。
 ペリクレス様は次期当主として、毎日領地運営の勉強と鍛錬に勤しんでいらっしゃったのです。

 少しお休みになられてはいかがですか、とお勧めした私が体にかける布を持ってくるまでのわずかな時間で、ペリクレス様はすっかりお眠りになられていました。
 執務室のソファに横たわるペリクレス様の体に布をかけようとしたとき、彼は、私の夫は言ったのです。
 ……すまない、セオフィラス、すまない、と。

 それまで、セオフィラス様の件でペリクレス様を疑ったことはありませんでした。
 イロイダ様のことでヤニス王太子殿下やロウバニス様がセオフィラス様を疎ましく思うことがあったとしても、ペリクレス様はセオフィラス様と一緒におふたりを止める側だったのだと思っていました。
 卒業パーティでの婚約破棄にしても、おふたりを止めることが出来なかったので、せめて一緒に行動して少しでも制御しようと思われてのことだと考えていました。

 でも違ったのです。
 ペリクレス様は愛しいカッサンドラ様を手中に収めるために行動していたのです。カッサンドラ様とヤニス王太子殿下の婚約を破棄させるために、イロイダ様を操っていたのです。
 すべて私の想像ですが、結果を見れば間違いではないでしょう。

 そして、その計画の邪魔になるセオフィラス様を……私の夫は愛した人の仇だったのです。

 カッサンドラ様がヌメリウス帝国へ嫁いでペリクレス様の目論見が崩れたからといって、それが彼への十分な罰になるとは思えません。
 だってペリクレス様の想い人は生きていらっしゃるのです。いつか再会出来るかもしれないのです。
 私のセオフィラス様は、もうどこにもいらっしゃらないのに。

 私はペリクレス様に復讐すると心で誓いました。
 調査を始めると、彼がイロイダ様と関係を持っていることはすぐにわかりました。
 イロイダ様がペリクレス様の本命のわけはありませんけれど、このことはなにかに利用出来そうです。

 とはいえ、イロイダ様は王太子妃でいらっしゃいます。
 下手な密告をしたら、どこかで情報は握り潰されてしまうことでしょう。
 絶対に情報が握り潰されず、ペリクレス様に罰を受けさせるにはどうすれば良いのか……私は、ヤニス王太子殿下に一通の密書をお送りしたのです。今度の夜会で、ふたりきりでお会いして話したいことがある、としるして。
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