走り屋Rё:mix

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第1章 第1話「走り屋の教師」

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学校のチャイムがなり、私、水城雪姫乃は教室に入った。
(初めての学年が、まさか3年生の担任になるとは思わなかったわね…)
私はどことなく緊張を覚えていた。3年生の生徒と接するということは、出会いの一年であると共に別れを経験する1年なのだ。
「今年度からこの3年2組の担任になりました、水城雪姫乃です。よろしくお願いします。」
それに、生徒の運転免許証を取れるためのサポートもしなければならないと聞いている。と言っても、印を押したりするだけなのだが。
「ユッキーせんせー!彼氏とかいるんですかー?」一人の女の子がやっぱりかと思うほどの内容の質問してきた。私は予想通りに来た質問には予想通りの言葉を返すだけである。「えーっと、篠原…雪乃ちゃんだね、名前は違えど同じ名前ね。彼氏はいないわよ。」
「「「えーっ!?」」」「何でー?」「先生かわいいのにー」
さすが女子高、お決まりの如く恋の話ばかりだった。
「私は…走ってる方が楽しいのよ。」
「走る?ジョギングってことですか?」
「ええ、そうよ。」
学生の前で夜な夜な車で飛ばすのが好きとか言えないわね、だからジョギングと言われたのでそのまま話を続けた。
「だから先生スタイルいいんだー!」
「ありがとうね、みんな。」
最初のコミュニケーションはこんな所でいいかなと思い、みんなの事を知ることにした。
「じゃあみなさんの自己紹介お願いできるかしら?出席番号一番の伊野さんから。」
「はい、ウチは伊野 彩奈、生まれは大阪、今年編入したばっかであんまこっちのこと知らへんけど友達できたらええなー思ってます、よろしくな~」
伊野彩奈はとても元気のいいショートボブの子で、スポーツも得意と聞いているが前の学校で問題を起こし中退、唯一20歳で高校に通っている。職員会議で名前のあった問題児の一人と聞いているが。
ほかのクラスメイトも次々と自己紹介を進めていく中で、一人気になる生徒を見つけた。
「簓木 瑞葉です、将来の夢は誰かの上に立つ人間になりたいと思っています。」
簓木…簓木、前に聞いたことある、確か…
「簓木さんのお母様って殆どの会社に手を組んでる簓木グループの簓木優華さん?」
「え?あっ、はい。お母さんを知ってるんですか?」
「えっ!?いえ、お母さんがね、優華さんにはいつもお世話になってたという話よ。」
「へぇ、そうなんですね。」
簓木 優華、私の母 水城 那乃果と毎晩峠を走っていた仲であり、チームを旗上げしたが、二人は同じ男性を好きになってしまい、その男性をかけたバトルをしたあと二人は音信不通になった…と聞いている、詳しくは教えてもらってない。
「あの、先生?うちのお母さんがどうしましたか?」
「いえ、簓木っていう苗字が珍しくてもしかしたらと思っただけよ、はい次行ってみようか。」
「はいはーい、篠原雪乃でーす!将来の夢はいいお嫁さんになりたいと思ってまーす!」
「なにそれー」「雪乃安直過ぎ~(笑)」
「クスッ」
「あー、先生笑ったね?」
「い、いえ、なんかいいなーって、私お父さんが物心つく前にいなくて羨ましいなぁと思ったの。」
「なら別れてもらわないように私がんばるねせんせー。」
「ふふっ、そうね。先生も応援するけど、流石に校則違反は寛容できないわよ?」
「分かってますよーユッキーせんせー。」
「それもそうね。では、次の人は瀬登…あれ?今日は瀬登さんはお休み?」
「今日は、じゃなくていつもですよ先生。」
ま、まさか、不登校児?教師として一番の難点とされる問題に…
「まぁ、桜那は車触ってた方が楽しいって言ってたもんね。」
「かわいいのにツナギ油まみれでさ、男とは無縁の世界というか…」
車が好き?なら多分仲良くなれそうね。
そう思った矢先にホームルーム終了のチャイムがなった。
「では、明日は日曜日なので学校ではないので月曜日に残りの自己紹介とクラス役員を決めたいと思います。」
「「はーい」」
「それでは 起立、礼。」
「「さようならー」」
「はい、また月曜ね。」
皆、いい生徒であり初めての顔合わせも一時はどうなるかと思っていたが事無く終わったので安堵した。
「先生ちょっといいですか?」
「どうしたの?簓木さん」
「今朝すごくかっこいい車運転してましたよね?アレは、なんという車なんですか?」
「今朝見てたの?」
「はい、教頭先生の車を置いてけぼりにしてましたよね。」
「見られちゃったかぁ、インプレッサという車よ。お母さんからのもらったものだけど。」
「先生は車が好きなんですか?」
「そうね、すきよ。」
「そうなんですか、お母さんと同じですね!」
「今度隣に乗せてあげるわね。」
「ありがとう先生!それじゃあ!」
「はい、それじゃあ月曜日ね。」
初めて請け負う担当が女子校の3年生とは慣れないと言うより心持ちならないなと思っていたが仲良くできそうで安堵した。
「あの、水城先生。」
この人は、私の副担任である原野 行久(はらの ゆきひさ)先生である。男性ながら女子のなかでも一番人気のある体育担当の先生である。イケメンでありながら気取ったところがなく職務を卒無くこなせるいい先輩教師である。
「実は、本日の飲み会の参加を集っているのですが、水城先生はどうされますか?」
「お誘いは嬉しいのですが本日はご遠慮させて頂きます。」
「そうですか、分かりました。ではまた次回機会があったらまた聞きますので。」
「ありがとうございます。失礼しますね。」
お酒はあんまり得意な方ではなく、酔ってしまうと人格まで変わるため飲まない方が得策なのである。
そして、時間は刻々と過ぎ、やっとの思いで、初日の勤務が終わった。
「私はこれで失礼致します、お疲れ様でした。」
『おつかれさまでした。』
教師の椅子は何故か心地が悪い、元教師だった母もこんな感じだったのだろうか。
私は駐車場まで来ると愛車の鍵を開け、座席に座り込んだ。
「なんだかんだ言って車の座席って心地いいわね、クルクル動かないせいかしら。」
やはりセミバケットシートながら、ホールド性のあるこの車のシートが一番落ち着くのだ。
「さてと、仕事も終わったし早く帰りたいわね。」
私の家は峠を越えたあとの民家である、事実交通機関も便利とは言えないが一つ理由をあげるといえば土地代が安いということ。
すると見慣れた制服の女の子が赤いスープラに乗って運転していた。
「あれは、伊野さん?」
派手な赤ながら伊野さんに似合った車だった。
「この時間帯からどこ行くのかしら。問題児と言われた生徒が何をするのかわからないからついて行ってみようかしら。」
私は、恐る恐る伊野彩奈の車について行った。
「(あれ?この道は私がよく走ってる道だけど…もしかして走り屋紛いなことをしてるのかしら。)」
「(ん?なんや、後ろの鷹の目ずっとウチについてきとる…別にええけど、ウチかてこの道はあんまよー知らんし飛ばしてチギるにしてもリスク高いわ、ここは無難に道譲ったる。)」
フォォォン パシュルルル
アクセルを抜いたスープラからバックタービン音が聞こえてきた。相当のパワーが出ているに違いなかった。
刹那、伊野彩奈のスープラからハザードサインが出た。
「あれ、ハザード…バトルとかじゃないのね。」
私は、状況を理解し伊野さんを抜いてあげることにした、伊野さんはこちらを確認するように横目で私を見た。
「(あれ、先生やん、こんなところ来るなんて先生も済に置けへんなぁ。)」
「まだここの走り方を知らないみたいだけど親睦的な意味で走り合えたら楽しそうね。」
私は先に登り、頂上にある喫茶店の入口で伊野さんを待つことにした。
その数分後、伊野さんはやってきた 。
「なんや先生、ウチの事待ってたん?」
「というより、私の家この麓だから必然とココ通るのよ。」
「そうなんや、ところで先生少し軽く走らへん?」
「今から?今からはちょっと、服も着替え帰りたいしそれまで待ってくれるなら。」
「ええよ、うちコーヒー飲んで待っとくわ、5分ね?」
「5分!?それはちょっと早すぎるわ。」
「ははっ、冗談や。」
「びっくりしたぁ、じゃあ今から30分後に来るわ。」
「うん、りょーかい。」
これは生徒と教師として走っていいのか、戸惑いが隠せなかったがしかしながら生徒と同じ趣味を持つことは親睦を深めることができるかもしれないとも感じた。
私は本気で走る事にした、何も考えずただ自分のために。
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