王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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笑顔

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「またセシリア嬢か?」
「あぁ…」
 レジナルドが王宮にある王太子の執務室に入ると、ジークフリートはぼんやりと庭園の方を眺めていた。その視線の先には庭園でリーナ王女と楽しそうに何やら笑い合っているセシリアがいる。
「あぁ…セシリア嬢はあんな風に笑うこともあるんだな――」
 レジナルドはいつもは困ったように笑うばかりのセシリアを思い出し、意外そうな顔をした。
「レジー、お前リアのことよく見てるな…」
 やっとレジナルドの方を向いたジークフリートは少しだけ不満そうだ。
「お前にだけは言われたくないよ!」
 そこでふと、レジナルドは以前から気になっていたことをジークフリートに聞いてみる気になった。
「ジーク…お前セシリア嬢のどこに惚れたんだ?」
 いつの間にかまた窓の外に意識が行っている王太子殿下は、それはそれは甘い笑みを浮かべた。

 あの茶会の日。チョコレートを食べた後からセシリアの様子が徐々に変化するのに気が付いた。それほど外は暑く感じられないのに赤い顔をし、汗をかきはじめたのだ。そして立ち上がろうとしてふらつき、気を失ったセシリアをその手で受け止めると、その頼りないほど細い身体は酷く熱い。――不味い。咄嗟に近くにある部屋に自らの手でセシリアを運ぶことにして、侍女には騎士を呼んでくるよう命じた。
 部屋に入り、ベッドにセシリアをそっと横たえた時だった。ジークフリートのシャツの袖を、セシリアが掴んでいることに気が付いた。
  セシリアは薄く目を開けると、ジークフリートをその紺色の潤んだ瞳で確かに認め、まるで満開に咲く花のようににっこりと笑ったのだ。
 それはほんの一瞬の事だった。しかし、ジークフリートにはそれで充分だった。頭の中が真っ白になった。
  普段は地味で控えめで、笑う時も何処か儚げなセシリア。それがどうだろう、まるで別人の様だった。
 上気して赤い頬、薄らと額に浮かぶ汗、荒い息遣い、僅かに開いた紅い唇…。宝石のように煌めく潤んだ瞳で見上げるその美しい笑顔。
 気が付いた時にはジークフリートはセシリアに口付けていた。唇に一度触れるとその熱をもっと感じたいと欲が出て、二度、三度。次第にそれは深くなって――。
 レジナルドが扉を叩くのがもう少し遅ければ良かったと今でも苦々しく思う程に、気が付けばジークフリートはセシリアに溺れていた。

「…まぁ、その…分からんでもない…かな。」
 レジナルドはあの時のセシリアの様子を思い出して、妙に納得していた。確かに、あの時ベッドに横たわっていたセシリアはいつもと違うように見えた。あの時はジークフリートの様子もおかしかったから此方はそれどころではなかったのだが――。
「…姉上と共に過ごすようになって、やっとリアの自然な笑顔が見れたような気がするんだ…。」
「だからって仕事サボってずーっとデレデレ見てるのもどうなんだ?王太子殿下?」
 レジナルドは手近にある書類をジークフリートに突き出すと、いい笑顔で宣言した。
「無能な男は嫌われるよ?」
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