17 / 76
2
決意
しおりを挟む
その頃セシリアは、リーナ王女といつもの庭園でお茶をしていた。
リーナはセシリアにステーリア王太子からの手紙の内容を何処まで伝えるべきか、迷っていた。昨日の今日でジークフリートはまだ何も行動を起こしていないだろう。
「リア、ジークとは最近話をしている?」
まずは当たり障りのないところから探りを入れてみる。セシリアは少し困ったように笑った。
「ジークフリート殿下とは学園でお昼に少しだけお話するくらいです。――殿下が何か?」
『ジークフリート殿下』――王宮に来てから随分経つというのに、その呼び方さえ変わっていないではないか…。まったくあの弟ときたら今まで何をしていたのだろう。陽射しも随分きつくなってきた。気がつけば季節は進んでもう初夏だ。
「リアがここに滞在するようになって2ヶ月程になるかしら?」
「――はい。」
リーナはステーリア王太子妃の座には正直こだわりなどなかった。自分の婚約者候補にもさほど興味を持てないでいる。そういう想いは、正式に婚姻を結んだ後で育んでいけばいいという考えであった。だから、自分と同じ考えだろうと思っていた弟が、あっけなくセシリアに溺れていく様を間近で見ていて、羨ましくもありどこかもどかしくもあった。
「リーナ様」
暫く考え込んでいたリーナに、セシリアが意を決したように呼びかけた。
「?」
「――私、リーナ様の婚約が整い次第、学園を辞めて領地に戻ろうと思っております。」
「領地に?――それはっ 駄目よ!!」
いきなりのことに驚き思わずリーナは声を荒らげてしまった。セシリアもその剣幕に少し驚いているようだ。
「ゴメンなさい、大きな声を出してしまって。でも驚いてしまって。どうして?学園を辞めるだなんてそんな事…」
セシリアはやはり困ったように微笑むと、その思いを口にした。
本来は王都にある侯爵家から学園に通う所が色々な事があり、もう2ヶ月も王宮で世話になっている。リーナ王女と共に語学を学ぶという大義名分があるにせよ、さすがにこれ以上お世話になる訳にはいかない。だがしかし王宮を出て今更王都の邸に戻る訳にもいかないだろう。ならばセシリアには領地より他に行く宛などないのだ。
至極真っ当な考えであった。リーナがセシリアの立場だったとしてもそう考えただろう――。しかし…。リーナはここに来てある事を思い出した。
「リア――学園を辞める必要はないのでは?」
セシリアはその存在を知らないのだろうか?
「ですが…」
「学園には確か寮があったのでは?王家の者は入る事は叶わないけれど侯爵家ならば大丈夫なのでしょう?」
セシリアは恥じ入るように俯いた。
「そのことでしたら一度調べはしたのですが…寮に途中から入るにはそれなりの根回しが必要なのです――それに、身の回りの世話をする者もこちらで用意しなければなりません。」
もちろんセシリアには根回しをしてくれる母親も、寮に連れて行く侍女もいない。父親に頼めばなんとかなるのかも知れないが、侯爵に頭を下げる気にはなれなかった。
「あら、そんなこと?」
リーナは扇子を広げニヤける口許を隠しながらセシリアを見つめた。
「リア、貴方には私が――それにジークもついているのよ?困った事があるならば真っ先に相談して頂戴?私もジークも、貴方の為に何かしたくてしょうがないのよ?」
リーナが綺麗な蒼い瞳でこちらを見つめ甘く囁くと、それはいつかのジークフリートを見ているようで、セシリアは顔が熱くなるのを感じた。
「リ、リーナ様!」
「あらリア、顔が真っ赤よ?」
セシリアはこうして優しくして貰える事への対価を何も差し出すことが出来ない。ただ一方的に施されることにいつまでも慣れることが出来ないでいた。
リーナはセシリアにステーリア王太子からの手紙の内容を何処まで伝えるべきか、迷っていた。昨日の今日でジークフリートはまだ何も行動を起こしていないだろう。
「リア、ジークとは最近話をしている?」
まずは当たり障りのないところから探りを入れてみる。セシリアは少し困ったように笑った。
「ジークフリート殿下とは学園でお昼に少しだけお話するくらいです。――殿下が何か?」
『ジークフリート殿下』――王宮に来てから随分経つというのに、その呼び方さえ変わっていないではないか…。まったくあの弟ときたら今まで何をしていたのだろう。陽射しも随分きつくなってきた。気がつけば季節は進んでもう初夏だ。
「リアがここに滞在するようになって2ヶ月程になるかしら?」
「――はい。」
リーナはステーリア王太子妃の座には正直こだわりなどなかった。自分の婚約者候補にもさほど興味を持てないでいる。そういう想いは、正式に婚姻を結んだ後で育んでいけばいいという考えであった。だから、自分と同じ考えだろうと思っていた弟が、あっけなくセシリアに溺れていく様を間近で見ていて、羨ましくもありどこかもどかしくもあった。
「リーナ様」
暫く考え込んでいたリーナに、セシリアが意を決したように呼びかけた。
「?」
「――私、リーナ様の婚約が整い次第、学園を辞めて領地に戻ろうと思っております。」
「領地に?――それはっ 駄目よ!!」
いきなりのことに驚き思わずリーナは声を荒らげてしまった。セシリアもその剣幕に少し驚いているようだ。
「ゴメンなさい、大きな声を出してしまって。でも驚いてしまって。どうして?学園を辞めるだなんてそんな事…」
セシリアはやはり困ったように微笑むと、その思いを口にした。
本来は王都にある侯爵家から学園に通う所が色々な事があり、もう2ヶ月も王宮で世話になっている。リーナ王女と共に語学を学ぶという大義名分があるにせよ、さすがにこれ以上お世話になる訳にはいかない。だがしかし王宮を出て今更王都の邸に戻る訳にもいかないだろう。ならばセシリアには領地より他に行く宛などないのだ。
至極真っ当な考えであった。リーナがセシリアの立場だったとしてもそう考えただろう――。しかし…。リーナはここに来てある事を思い出した。
「リア――学園を辞める必要はないのでは?」
セシリアはその存在を知らないのだろうか?
「ですが…」
「学園には確か寮があったのでは?王家の者は入る事は叶わないけれど侯爵家ならば大丈夫なのでしょう?」
セシリアは恥じ入るように俯いた。
「そのことでしたら一度調べはしたのですが…寮に途中から入るにはそれなりの根回しが必要なのです――それに、身の回りの世話をする者もこちらで用意しなければなりません。」
もちろんセシリアには根回しをしてくれる母親も、寮に連れて行く侍女もいない。父親に頼めばなんとかなるのかも知れないが、侯爵に頭を下げる気にはなれなかった。
「あら、そんなこと?」
リーナは扇子を広げニヤける口許を隠しながらセシリアを見つめた。
「リア、貴方には私が――それにジークもついているのよ?困った事があるならば真っ先に相談して頂戴?私もジークも、貴方の為に何かしたくてしょうがないのよ?」
リーナが綺麗な蒼い瞳でこちらを見つめ甘く囁くと、それはいつかのジークフリートを見ているようで、セシリアは顔が熱くなるのを感じた。
「リ、リーナ様!」
「あらリア、顔が真っ赤よ?」
セシリアはこうして優しくして貰える事への対価を何も差し出すことが出来ない。ただ一方的に施されることにいつまでも慣れることが出来ないでいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる