王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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消えかけた記録

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「私の母についてお調べになったのですか?」
「ビューロー侯爵についてはヴィルヘルムで記録があるからすぐに分かったけれど、リアの母上は謎に満ちていたからね、調べさせてもらったよ。ヴィルヘルムの貴族年鑑はもう見た?」
 ジークフリートは机の上にあるもう一冊の分厚い本を手に取るとぱらぱらとめくり出した。
「いいえ。まずはステーリアから調べていましたので。」
「あ、これだ。ここ見てごらん。」
 ジークフリートはヴィルヘルムの貴族年鑑からビューロー侯爵の系譜図をすぐに探し出すとセシリアに一点を指し示す。
 そこには斜線が引いてあるセシリアの母、カーラの名前があった。
「本来ならどこから嫁いで来たのか家名や爵位が書いてあるところだが君の母上には肩書も何も書いてない。」
 その通りだった。ステーリアの侯爵家からわざわざ隣国に嫁いできたというのに、一体どうしてなのだろうか?
 答えを求めてジークフリートを見るが、見つめ返されるばかりで何も答えてくれそうにない。それどころかジークフリートは照れたような笑みを浮かべると目を逸らし、口元を隠すように押さえた。
「以前から気になっていたのだが、リアはどうしてこういう大事なことを侯爵に直接聞こうとしない?侯爵なら確実に理由を説明できると思うのだが…。」
 セシリアもまたジークフリートから目を逸らすと、ステーリアの貴族年鑑のページを再びめくり出した。
「それは…そうなのでしょうが…。父には期待しないことに決めていますので…。」
 ページをめくっていた手が止まる。ウォーレン侯爵について書かれたページだ。建国時は公爵だったようだが…。その末端近く、前ウォーレン侯爵には子供が三人いる。現侯爵、それにつづくのがジャンヌ王妃、そして三番目がセシリアの母カーラである。カーラには亡くなった印である斜線が引かれているが、こちらにも本来書かれているべき嫁ぎ先の事は何も記されていない。
「私…ただ母がどういう家で生まれたのかを知りたかっただけなのですが…。これは何か触れてはいけない事だったのでしょうか?」
 戸惑うセシリアをジークフリートはそっと引き寄せると抱きしめた。
「──それを侯爵でなく私に聞くの?」

「ジーク、中にいるんだろう?」
 扉を叩く音がしてレジナルドの呼ぶ声が聞こえた。
「レジーか…あいつはどこかで私の行動を監視でもしているのか?」
 ジークフリートは小声で毒づくとセシリアの頭に優しく口付けてそのまま離れていく。それと同時にレジナルドが部屋に入ってきた。
「やっぱりリア様と一緒だ。外で侍女が困ってたよ?二人で籠ったまま中々出てこないってさ。勘弁してよ、こういう時呼び出されるの決まって俺なんだからさ!」
「分かっているならもう少し遠慮してもいいんだぞ?」
「そういう気は使わないって決めてるの!さぁ、用が済んだなら行くよ?」
「…わかった。リア、また後で。」
「リア様、今日もお菓子準備させるからお茶においでよ、ね?」
「あ…はい…では後で伺います。」
 嵐のように去って行く二人を見送ると、もう一度本に目を落とす。それらはあまり関係のないことばかりのようだったが──その中のある一文で目が留まる。

『領土はステーリア東部に位置し、東の森林地帯はヴィルヘルム領とつながっており──』

 ステーリアとヴィルヘルムの国境にある大森林地帯。そのヴィルヘルム側の領地を治めるのは父であるビューロー侯爵だ──。
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