王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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白馬の王子様

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 馬車での初めての旅にやはり体は疲れていたのだろうか。いつもより早く眠りについてしまったセシリアが次に目が覚めたのはまだ日が昇る前のほの暗い時間だった。

 肌寒いほどの気温に薄いショールを羽織ると、湖の見える窓辺に寄ってみる。早朝の湖はぼんやりと青みがかって幻想的だ。そんな中をゆっくりとこちらへ向かってくる騎馬が見えた。



──こんなに早い時間に…。



 暗い色の水を湛えた湖を背景に淡い金髪のジークフリートが白い馬に乗ってゆったりと歩いている。少し離れた後ろをレジナルドもまた白い馬に乗ってついて来ているようだ。登り始めた太陽の光が徐々に浮かび上がらせるそれは幻想的でとても美しい光景だった。二人でどこかから戻ってきたところなのだろうか。レジナルドが速度を上げてジークフリートの横に馬を寄せると、馬上の二人は近寄って何かを話し始めた。

 セシリアは気が付けば吸い寄せられたかのようにその光景に見入っていた。何故だか今だけは二人の間に割り込んではいけないような気がした。ただこうして見つめていられるだけで十分だ。

 しばらくそうしていると、窓に張り付くような格好になっていたところを二人が指さすのが見えた。セシリアに気付いた二人は同時に笑顔になり、レジナルドはこちらに向かって手を振っている。

 ジークフリートはレジナルドに何かを告げると馬を降り、手綱を託すとそのまま戻ってくるようだった。

 思いのほか早く見つかってしまったことを残念に思っていると、レジナルドもまた二頭の白馬の手綱を引きながら視界から消えていった。



──もう少しだけ見ていたかったのに。



 間もなくドアを小さく叩く音が聞こえ、ジークフリートが部屋に入ってきた。

「おはようございます。」

「おはよう、もう起きていたんだね?まだ寝ているとばかり思っていたから驚いたよ。」

「昨夜は早く寝付いたものですから、自然と早く目が覚めたようです。」

 ジークフリートはソファーに座らずそのままセシリアのところまで来ると、少しためらった後でぎゅっと抱きしめた。

「ジーク様、冷たい…。」

 早朝に馬で駆けてきた後だからなのかジークフリートの体は冷たく、セシリアは外・の・匂・い・がするのがわかった。

「ごめん、少しだけ我慢して。レジーがいたらできないからね。」

「お二人で朝早くからお出かけでしたか?」

 おずおずと手をジークフリートの腰辺りに沿えるようにすると頭にキスをされるのが分かった。

「二人でこっそりいるところがばれてしまったな。」

「お邪魔をしてしまったようで申し訳ありませんでした。」

「…何をしていたのか聞かないのか?」

 腕を緩め少しだけ身体を離すと、ジークフリートの拗ねたような顔が覗き込んでくる。

「どこかへ馬に乗って出掛けていらしたのでしょう?それが分かれば十分です。」

「そうか…。」

「私はもう少しお二人が馬に乗っているところを見ていたかったです…。とても綺麗でした。」

「綺麗?」

 戸惑ったようなジークフリートにセシリアは満面の笑みで答えた。

「夢の世界から飛び出してきたような幻想的な景色でした。」

「レジーと馬に乗って帰ってきただけなのに?」

「湖と王子様と白馬ですよ?」

 言葉もなくセシリアを見つめていたジークフリートはややあって額をセシリアの額にこつんとつけると真面目な顔をしたまま囁いた。

「リアもそういうことを考える普通の子だったんだな…。」

「…おかしいですか?」

 もはや吐息のかかる距離で会話をしている、どこを見ていいのか分からない…。

 戸惑うセシリアにジークフリートの冷たい唇が重ねられたのはその直後だった。優しく、労わるようなキス。

 唇が離れても額はまた元のようにくっつけたまま、ジークフリートは甘く微笑んだ。

「お姫様には王子から目覚めのキスを贈るものだ。」

「お姫様……。」

「そう、私だけのお姫様だよ。」

 セシリアはもしかしたら自分はまだ夢の中にいるのではないかと考えながら、目を閉じもう一度王子様にぎゅっと抱き着いた。



──夢ならもう少しだけ醒めないで。

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