王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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胸の高鳴る思い

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 エリックは早朝、こっそりと侯爵家にソフィアを送り届けた所を見張っていた騎士によって確保された。青い顔をして団長親子の前に引きずるように連れてこられたが、両脇を支えていた騎士が出て行くと、その場に崩れるように四肢を投げ出した。
「団長、自分は…。とんでもないことを…。」
「エリック、とりあえず落ち着いて状況を説明しろ。」
「座れ、エリック。」
 レジナルドはエリックの大きな肩を叩くと、自分の隣の椅子に座らせた。
 エリックは言われるままに座ったものの顔を上げることができないでいる。
「身代わりを勝手に押し付けたのは俺たちだ、責任はこちらにもある。それにソフィア嬢が持参したチョコレートからは媚薬が検出された。お前はあれを食べたんだな?」
「え?媚薬?」
 エリックが唖然とした様子で顔を上げるとレジナルドを見た。
「食べて何も気が付かなかったか?」
「いえ、全く…。」
「どのくらい食べた?貰ったのは一箱だろう?」
「…全部食べました。チョコレート12個くらいあっという間でしょう?」
 スコールとレジナルドは全身からどっと汗が噴き出すのを感じた。
「じゅ、12個食べて何も異変に気付かないものか?」
「まぁ騎士だから身体も大きいし効き目が薄いのかもしれんが…。」
「動悸がして気が高ぶっているのは…その…『恋』なのだと…。」
 レジナルドは目が点になった。そうか、エリックはこういうヤツだった。それに恋とは確かに…そういうものなのかもしれない。
 スコールが一つ咳払いをすると話を先に促した。
「…チョコレートを食べて、馬車でソフィア嬢をどこまで送って行った?侯爵邸には向かわなかったのだろう?」
「それは…。」
「何人か騎士を探しに出させたが一晩見つからなかった。遠くまで出ていたのか?」
「いえ、王都の商店街の外れにある…小さな宿屋です…。」
「商店街…?」
 商店街と言えばエリックのホームグラウンドではないか…失念していた。エリックは甘いものを求めて、休みの日にはよく王都にある商店街を訪れていた。そこで様々な出会いがあったと話を聞いていたというのに。
 レジナルドが肩を落としている横でエリックが少し落ち着いて来たのかおずおずと切り出した。
「ソフィア様は…自分の事をまだレジー殿だと思っています。」
「エリック?」
「まさか、まだばれてないのか?っていうかなんで名乗らないの?」
 泣きそうな表情の騎士はレジナルドに体ごと向き直ると深く頭を下げた。
「本当に申し訳ありません。ですがさすがに…公爵と伯爵では身分が違いすぎます。だから自分もレジー殿の身分を利用させてもらったんです。本当の事を言って好きな人に拒絶されたら自分は…。」
「…」
「それで…その…男女の関係を持ったのか?」
 エリックはレジナルドに向って首を縦に振った。
「ソフィア嬢の同意はあったということでいいのだな?」
「…はい。」
「他にソフィア嬢は何か言ってなかったのか?」
 何かを思い出したのか顔を赤くしながらエリックは少し嬉しそうに話し出した。
「必ず迎えに来てほしいと…。」
「ではやはりに責任を取れと言ってくるつもりか…。」
「…せめてそこで名乗って欲しかった。」

 早朝にも関わらず執務室にいたジークフリートを見つけると、レジナルドは早速愚痴とも言えるような報告を済ませた。エリックは騎士団で待機させているし、スコールは今頃国王の所に報告に上がっているはずだ。
「私の所にはまだソフィア嬢からもビューロー侯爵からも何も連絡はない。」
「そっか、じゃあ陛下の方に行くのかもね。」
「ステーリアの侯爵家にヴィルヘルムの伯爵家嫡男が婿に行く訳にはいかんからな。ソフィア嬢が伯爵夫人に収まれば何も問題はない。エリックの年齢からしても遅すぎるくらいで、本来ならむしろ喜ばしいことなんだが…。」
 レジナルドが口を開こうとしたとき、執務室の扉を叩く音がして侍女がセシリアの来訪を告げる。
 ジークフリートは立ち上がると自ら扉を開きに行き、そのまま抱き着かんばかりの勢いでセシリアを部屋へ迎え入れる。
「ジーク、朝から相変わらず距離近すぎるだろう…。」
「そうか?これが私には普通だ。レジーもそろそろ分かっているんだろう?」
 セシリアが部屋に入ったところでその後ろにいたピンクの人影が目に入った。
「…こちらはエリック様ではないのですか?」
「あ、ソフィア嬢…。おはようございます。」
 困惑した様子で挨拶を交わすレジナルドを見ながら、セシリアが詫びるように話し出した。
「申し訳ありません。私の部屋にソフィア様が訪ねていらして、レジー様にどうしても会わせて欲しいと言われましたので、ジーク様に伺おうと…。」
「ソフィア嬢はレジナルドを訪ねていらっしゃたのですね?」
 セシリアは悪くないとでも言うようにジークフリートが間髪入れず話を引き継ぐ。
「はい。」
「でも貴方の探しているレジーはここにいないと?」
 ソフィアは一瞬困ったような顔でレジナルドを眺めたが、はっと何かに気が付いたように目を見開くと口を両手で覆った。
「まさか…そんな!」
「どうかされましたか?」
 やっと気が付いたかと言いたげにニヤリと笑うと、ジークフリートはセシリアの手をとり共にソファーに座った。
 レジナルドはいつもの場所に黙って腰を下ろすとなんとなくセシリアとジークフリートのつながれたままの手を見ていた。
められたのですね?私を。」
 座るように誰も言わないのでその場に立ち尽くしたままのソフィアだったが、その目は怒りに満ちて遠慮なくジークフリートを睨みつけていた。
「何の話でしょうか?」
「本物のレジナルド様はこちらの方なのでしょう?ではもう一人は?あれは一体誰なのです?」
「同じく私に仕える騎士です、言いませんでしたか?エリックと。」
「だから幼馴染の公爵子息がこちらなのでしょう?エリックは一介の騎士なのですね?」
「いえ、一介の騎士ではありません。歴史のある伯爵家の嫡男です。」
「伯爵家?そんなもの取るに足りませんわ!」
 ソフィアは怒りの余りその場に崩れ落ちると顔を真っ赤にして声を上げて泣き始めた。
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