拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~

日暮ミミ♪

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第2章 高校2年生

恋する表参道♪ ②

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「――はい、愛美ちゃん。カフェオレでよかったかな?」

 純也さんは、途中の自動販売機で買ってきた冷たい缶コーヒーを愛美に差し出す。自販機ではクレジットカードなんて使えないので、もちろん小銭で買ったのだ。
 愛美は紅茶も好きだけれど、カフェオレも好きなので、ありがたく受け取った。

「ありがとうございます。いただきます」

 プルタブを起こし、缶に口をつける。純也さんも同じものを買ったようだ。

「――愛美ちゃん、お目当ての本、見つかってよかったね」

「はい。純也さんは何も買われなかったんですか? 読書好きだっておっしゃってたのに」

 書店で商品を購入したのは愛美だけで、純也さんは本を手に取るものの、結局何も買っていないのだ。

「うん……。最近は仕事が忙しくてね、なかなか読む時間が取れないんだ。それに、このごろはどんな本を読んでも面白いって感じられなくなってる。昔は大好きだった本でもね」

 悲しそうに、純也さんが答えて肩をすくめる。――大人になると、価値観が変わるというけれど。好きだったものまで好きじゃなくなるのは、とても悲しいことだ。

「じゃあ、わたしが書きます。純也さんが読んで、『面白い』って思ってもらえるような小説を」

「愛美ちゃん……」

「あ、もちろん今すぐはムリですけど。小説家デビューして、本を出せるようになったら。その時は……、読んでくれますか?」

 この時、愛美の中で大きな目標ができた。大好きな人に、自分が書いた本を読んでもらうこと。そして、読んだ後に「面白かったよ」って言ってもらうこと。目標ができた方が、夢を追ううえでも張り合いができる。

「もちろん読むよ。楽しみに待ってる。約束だよ」

「はい! お約束します」

 この約束は、いつか必ず果たそうと愛美は決意した。

「――それにしても、純也さんってよく分かんない人ですよね」

「え……? 何が?」

 唐突に話が飛び、純也さんは面食らった。

「だって、ブラックカードでホイホイお買いものするような人が、ちゃんと小銭も持ち歩いてるんですもん。確か、交通系のICカードもスマホケースに入ってましたよね」

「見てたのか。――うん、今日も電車で来た。僕はできるだけ、〝人並みの生活〟をするようにしてるんだ」

「〝人並みの生活〟……?」

 愛美は目を丸くした。〝人並み以上の生活〟ができている人が、何を言っているんだろう?

「うーんと、僕の言う〝人並みの生活〟っていうのはね、世間一般の常識からズレない生活ってこと。コンビニで買いものしたり、自炊したり、公共の交通機関を利用したり。車の運転もそう。――金持ちだからって、世間知らずだと思われたくないんだ。特にウチの一族は、一般の常識からはズレた考え持ってる連中の集まりだからね」

「……そこまでサラッとディスっちゃうんですね。自分のお家のこと」

 愛美も心配になるくらい、純也さんは辛辣しんらつだった。自分があの一族に生まれ育ったことがイヤでイヤで仕方がないんだろう。

「だって、事実だからさ。……あっ、ココだけの話だからね? 珠莉には言わないでほしいんだけど」

「分かってます。わたし、口は堅いから大丈夫です」

「よかった」

 彼も一応は、言ってしまったことを少なからずやんでいるらしい。愛美が「口が堅い」と聞いて、ホッとしたようだ。

(口が堅いっていえば、珠莉ちゃんもだ)

 彼女は絶対に、愛美に対して何か隠していることがある。でも、いつまで経っても打ち明けてはくれないのだ。――ことの発端ほったんは、約一ヶ月前に純也さんが寮を訪れたあの日。

「――ところで純也さん。先月寮に遊びに来られた時、帰り際に珠莉ちゃんと二人で何話してたんですか?」

「ん?」

 とぼけようとしている純也さんに、愛美は畳みかける。

「純也さん、わたしに何か隠してますよね?」

「……ブッ!」

 ズバリ問いただすと、純也さんは動揺したのか飲んでいたカフェオレを噴き出しそうになった。

「あ、図星だ」

「ゴホッ、ゴホッ……。いや、違うんだ。……確かに、大人になったら色々と秘密は増える。愛美ちゃんに隠してることも、あるといえばある……かな」

 むせてしまった純也さんは必死に咳を止めると、それでも動揺を隠そうと弁解する。

「何ですか? 隠してることって」

「愛美ちゃんのこと、可愛いって思ってること……とか」

「え…………。わたしが? 冗談でしょ?」

 さっきまでの動揺はどこへやら、今度はサラッとキザなことを言ってのける純也さん。愛美は顔から火を噴きそうになるよりも、困惑した。

(やっぱりこの人、よく分かんないや)

「いや、冗談なんかじゃないよ。僕は冗談でこんなこと言わない」

「あー…………、ハイ」

 どうやら本心から出た言葉らしいと分かって、愛美は嬉しいやらむず痒いやらで、俯いてしまう。

(コレって喜んでいいんだよね……?)

 生まれてこのかた、男性からこんなことを言われたことがあまりないので(治樹さんにも言われたけれど、彼はチャラいので別として)、愛美はこれをどう捉えていいのか分からない。

「……純也さんって、女性不信なんですよね? 珠莉ちゃんから聞いたことあるんですけど」

「珠莉が? ……うん、まあ。〝不信〟とまではいかないけど、あんまり信用してはいないかな」

「どうして? ――あ、答えたくなかったらいいです。ゴメンなさい」

 あまり楽しい話題ではないし、純也さんの事情にあまり踏み込んではいけない。だから、本人が答えたくないなら愛美は知る必要もなかったのだけれど。

「う~~ん、どう言ったらいいかな……。昔から、僕は打算で近づいてくる女性としか付き合ったことがないんだ。『僕と結婚したら、辺唐院一族の一員になれる』って計算があったり、財産が目当てだったり。言ってる意味分かる?」

「なんとなくは。つまり、本気で好きになってもらったことがないってことですよね」

「うん、そういうこと。大人になってからは特にひどい」

(純也さん、かわいそう……)

 愛美は思わず、彼に同情した。そんな恋愛ばかり経験してきたら、女性と知り合うたびに「この女もどうせ打算なんだろう」と穿うがった見方しかできなくなるのも当然だ。それくらいのこと、恋愛未経験者の愛美にも分かる。

「でも愛美ちゃんは、僕が今まで出会ったどんな女性とも違った」

「えっ?」

 愛美が不思議そうに瞬くと、純也さんは嬉しそうに続けた。

「君には打算なんてひと欠片もないし、逆に『生まれ育った環境なんてどうでもいい』って感じだよね。君は純粋でまっすぐで、僕のことを〝資産家一族の御曹司〟じゃなく、〝辺唐院純也〟っていう一人の人間としていつも見てくれてる。そういう女の子に、今まで出会ったことなかったから嬉しいんだ」

「純也さん……」

 愛美は人として当然のことをしているつもりなのに。今まで偏見やイジメに苦しめられてきたからこそ、自分は絶対にそういう人間にはなるまいと心がけてきただけだ。
 でも――、純也さんは愛美のそんな心がけを〝嬉しい〟と言ってくれた。

「愛美ちゃん、ありがとう。僕は君に出会えてよかったと思ってるよ」

「いえいえ、そんな」

 彼のこの言葉は、受け取り方によっては告白とも解釈できるのだけれど。恋愛初心者の愛美には、そんなこと分かるはずもなかった。

「――あ、そうだ。連絡先、交換しようか」

「え……、いいんですか?」

 自分からは、とてもそんなことを言い出す勇気がでなかったので、愛美の声は思いがけず弾んでしまう。

「うん、もちろん。実は、前々から愛美ちゃんに直接連絡取りたいなって思ってたんだ。それに毎度毎度、珠莉を通して色々ツッコまれるのも面倒だし」

「面倒……って」

 前半は愛美も嬉しかったけれど、後半のひどい言い草には絶句した。実の叔父から「面倒だ」と言われる姪ってどうなの? と思ってしまう。けれど。

「……まあ確かに、直接連絡取り合えた方が便利は便利ですよね」

 という結論に達し、二人はお互いのスマホに自分の連絡先を登録するという方法で、アドレスを交換した。

「――愛美ちゃん、スマホ使い始めて二年目だっけ? ずいぶん慣れてるね」

 純也さんのスマホに自分の連絡先をパパパッと打ち込んでいく愛美の手つきに、彼は感心している。

「だって、もう二年目ですよ? 一年前のわたしとは違って、一年も経てば色々と使いこなせるようになってますから」

 この一年で、愛美はスマホの色々なアプリや機能を使いこなせるようになったのだ。動画を観たり、音楽を聴いたり、写真を撮ったり、メッセージアプリでさやかや珠莉と連絡を取り合ったり。スマホでできることは、電話やメールだけじゃないんだと実感できて、今ではすっかり楽しんでいる。

「いや……、でもスゴいよ。やっぱり若いなぁ」

「そんなことないです。純也さんだってまだまだ若いですよ。――はい、登録完了、と」

 愛美はデニム調のスマホカバーを閉じ、純也さんに返した。愛美のスマホには、先に彼が連絡先を登録してある。

「ありがとう。――おっ? さっそく『友だち登録』の通知が来た」

「あ、わたしにも。……フフッ、なんか嬉しいな」

 思わず笑みがこぼれる。
 純也さんは友達の叔父さんで、十三歳も年上で。一年前には近づくことすらできなかった人。でも今こうして、二人で並んでベンチに座って話をして、SNSの上でも繋がりができた。
 愛美の恋は、少しずつだけれど確実に前に進んでいる。

「これで珠莉に気がねすることなく、いつでも連絡できるね」

「はい!」 

 なんだかんだで、純也さんも嬉しそうだ。

(もしかして珠莉ちゃんたち、わざわざわたしと純也さんが二人きりになれるように気を利かせてくれたのかな……?)

 愛美はふとそう考えた。「ブランドものには興味がない」と言っていたさやかまでが、珠莉について行った理由もそう考えれば辻褄つじつまが合う。
 さやかは元々友達想いな優しいコだし、場の空気を読むのもうまい。そして何より、彼女は愛美の純也への想いも知っているのだ。

(そのおかげで、こうして純也さんとの距離をちょっとだけ縮めることもできたワケだし。二人にはホント感謝だなぁ)

 愛美が親友二人の大事さを、一人噛みしめていると――。

 ♪ ♪ ♪ …… 愛美のスマホが着信音を奏でた。

「――あ、電話? さやかちゃんだ。出ていいですか?」

 人前で電話に出るのは失礼にあたる。いくら一緒にいるのが純也さんでも。――愛美は彼にお伺いを立てた。

「うん、どうぞ」

「はい。――もしもし、さやかちゃん?」

『愛美、今どこにいんの?』

「今? えーっと……、メトロの表参道駅の近く。純也さんと本屋さんに行って、ちょっとベンチでお話してたの」

 愛美は純也さんに申し訳なさそうにペコリと頭を下げると、少し離れた場所へ移動する。この後、彼に聞かれたら困る話も出てくるかもしれないと思ったからである。

『そっか。あたしたちもやっと買いもの終わったとこでさぁ、ちょうど表参道沿いにいるんだ。――で、どうよ? 二人っきりになって。何か進展あった?』

「えっ? 何か……って」

 明らかに〝何か〟があって動揺を隠しきれない愛美は、「やっぱり純也さんと離れてよかった」と思った。

「……えっと、純也さんに『可愛い』、『出会えてよかった』って冗談抜きで言われた。あと、連絡先も交換してもらえたよ」

『えっ、それマジ!? それってほとんど告られたようなモンじゃん!』

「え……、そうなの?」

『そうだよー。アンタ気づかなかったの? もったいないなー。じゃあ、アンタから告白は?』

「…………してない」

 そう答えると、電話口でさやかにため息をつかれた。それでやっと気づく。さやかたちが愛美を純也さんと二人きりにしてくれたのは、愛美が告白しやすいようなシチュエーションをお膳立てしてくれたんだと。

『なぁんだー。ホントもったいない。せっかく告るチャンスだったのに。……でもまあ、ほんのちょっとでも距離が縮まったんならよかったかもね』

「……うん」

 愛美は恋愛初心者だから、告白の仕方なんて分からない(小説では読んでいるけれど、現実の恋となると話は別なのである)。だから、純也さんと少しでも近づけただけで、今日のところは大満足なのだ。

『じゃあ、もうじきそっちに合流できるから。また後でね』

「うん。待ってるね」

 ――電話が切れると、愛美は純也さんのいるベンチに戻った。

「ゴメンなさい。電話、長くなっちゃって」

「さやかちゃん、何だって? なんか、僕に聞かせたくない話してたみたいだけど」

 ちょっとスネたような言い方だけれど、純也さんはむしろ面白がっているようだ。女子トークに男が入ってはいけないと、ちゃんと分かっているようである。

「ああー……。えっと、さやかちゃんと珠莉ちゃんも今、表参道沿いにいるらしくて。もうすぐ合流できるって言ってました」

「それだけ?」

「いえ……。でも、あとは女子同士の話なんで。あんまりツッコまれたくないです。そこは察して下さい」

 純也さんだって、一応は大人の男性なのだ。そこはうまく空気を読んで、訊かないようにしてほしい。

「…………うん、分かった」

 ちょっと納得はいかないようだけれど、純也さんは渋々頷いてくれた。


「――お~い、愛美! お待たせ~☆」

 数分後、さやかが大きな紙袋を抱えた珠莉を引き連れて、愛美たちのいるところにやって来た。

「さやかちゃん、珠莉ちゃん! ――あれ? 珠莉ちゃん、また荷物増えてない?」

「珠莉……。お前、また買ったのか」

 純也さんも、姪の荷物を見てすっかり呆れている。

「ええ。大好きなブランドの新作バッグとか靴とか、欲しいものがたくさんあったんですもの。でも、さやかさんを荷物持ちにするようなことはしませんでしたわよ?」

「いや、そこは自慢するところじゃないだろ。せめて配送頼むとかって知恵はなかったのかよ?」

 わざわざ自分で荷物を持たなくても、寮までの配送を手配すればいいのでは、と純也さんが指摘する。
 個人の小さなショップならともかく、セレクトショップなら配送サービスもあるはずだと。

 ――ところが。

「配送なんて冗談じゃありませんわ。手数料がもったいないじゃないですか」

「珠莉ちゃん……」

 彼女らしからぬ発言に、愛美も二の句が継げない。

(珠莉ちゃんお金持ちなんだから、それくらいケチらなくてもいいのに)

 と愛美は思ったけれど、お金持ちはケチと紙一重でもあるのだ。……もちろん、ほんの一部の人だけれど。

「…………あっそ」

 これ以上ツッコんでもムダだと悟ったらしい純也さんは、とうとう白旗を揚げた。

「――ねえ、珠莉ちゃん、さやかちゃん。ちょっと」

 愛美は少し離れた場所に、親友二人を手招きした。この話は、純也さんに聞かれると困る。

「何ですの?」

「うん?」

「あのね……。さっき、わたしと純也さんを二人っきりにしてくれたのって、もしかしてわたしに気を利かせてくれたの?」

 さやかは電話でそれっぽいことを言っていたけれど、珠莉も同じだったんだろうか?

「だってさやかちゃん、『ブランドものには興味ない』って言ってたよね?」

「うん、そうだよ。でなきゃ、自分が興味ないショップに付き合ってまで、別行動取らないよ」

「ええ。……まあ、純也叔父さまのためでもあったんだけど」

「えっ?」

 〝純也さんのため〟ってどういうことだろう? ――愛美は目を丸くした。

「叔父さまに頼まれていたの。『ほんのちょっとでいいから、愛美さんと二人きりで話せる時間がほしい』って」

「え……。純也さんが? そうだったんだ」

 ……知らなかった。純也さんがそのために、「苦手だ」と言っていた珠莉めいに頼みごとをしていたなんて。
 そして、その頼みを聞き入れた珠莉にもビックリだ。

(やっぱり純也さん、珠莉ちゃんに何か弱み握られてるんじゃ……)

 そうじゃないとしても、純也さんと珠莉の関係に何か変化があったらしいのは確かだ。同じ秘密を共有しているとか。

(……うん。そっちの方がしっくりくるかも)

 叔父と姪の関係がよくなったのなら、その考え方の方が合っている気がする。……それはさておき。 

「そういえばさっき、電話で愛美から聞いたんだけど。二人、連絡先交換したらしいよ」

「えっ、そうだったんですの? 愛美さん、よかったわねぇ」

「うん。……あれ? さっきの電話の時、珠莉ちゃんも一緒だったんじゃないの?」

 電話口のさやかの声は、興奮していたせいかけっこう大きかった。だから、側にいたなら珠莉にも聞こえていたはずなのだけれど。

「私には聞こえなかったのよ。確かに、さやかさんの側にはいたんだけど、周りに人が多かったものだから」

(ホントかなぁ、それ)

 珠莉の言ったことはウソかもしれないと、愛美は疑った。でも、聞こえなかったことにしてくれたのなら、珠莉にしては気が利く対応だったのかもしれない。

「……そうなんだ。じゃあ、そういうことにしとくね」

 何はともあれ、愛美は純也さんといつでも連絡を取り合えるようになり、親友二人にもそのことを喜んでもらえた。それだけで愛美は万々ばんばんざいである。

「――さて。日が傾いてきたけど、みんなどうする? まだ行きたいところあるなら、付き合うけど」

 純也さんが腕時計に目を遣りながら、愛美たちに訊ねた(ちなみに、彼の腕時計はブランドものではなくスポーツウォッチである)。
 時刻はそろそろ夕方五時。今から電車に飛び乗って帰ったとしても、六時半からの夕食に間に合うかどうか……。

「あっ、じゃあクレープ食べたいです! チョコバナナのヤツ」

「わたしも!」

「私も。ヘルシーなのがいいわ」

 〝原宿といえばクレープ〟ということで、女子三人の希望が一致した。

 甘いもの好きの純也さんが、この提案に乗らないわけはなく。というか、思いっきり乗り気になった。

「実は俺も食べたかったんだ。じゃあ決まり☆ 行こうか」

「「イェ~イ!!」」

「…………いぇーい」

 愛美とさやかは大はしゃぎで、珠莉は恥ずかしいのか小声でボソッと言い、四人は竹下通りまで戻ってクレープのお店に足を運んだ。
 ここは券売機で注文するシステムのようで、各々好みの商品の券を買った。

「あたし、ばななチョコホイップ。プラス百円でドリンクつけよう」

「わたしも」

「僕も同じので」

「私はツナチーズサラダ、っと」

 ドリンクは愛美・純也さん・さやかはタピオカミルクティーをチョイスした。珠莉はドリンクなしだ。

「愛美は初タピオカだねー」

「うん!」

 山梨のド田舎にいた頃は飲んだことはもちろん、見たことすらなかったタピオカドリンク。愛美はずっと楽しみにしていたのだ。

「実は、僕も初めて」

「「えっ!?」」

 純也さんの衝撃発言に、愛美とさやかは心底驚いた。

「いや、男ひとりで買うの勇気要るんだよ」

「はぁ~、なるほど……」

 分からなくはない。女子が「える~!」とかいって、こぞってSNSに写真をアップしているのはよく見かけるけれど。男性がそれをやっていたら、ちょっと引く……かもしれない。 

「ちょうどいいや。写真撮って、SNSにアップしよ♪」

「あー、それいいね」

 愛美とさやかはクレープとタピオカミルクティーを並べてスマホで撮影し、さっそくSNSに載せた。

「……なんか以外だな。愛美ちゃんも、SNS映えとか気にするんだ?」

「毎回ってワケじゃないですよ。今回は初タピオカ記念で」

 純也さんの疑問に、愛美はちょっと照れ臭そうに答える。流行に疎いということと、流行に興味がないこととは別なのだ。

「純也さん、……引きました?」

 うわついた女の子に見えたかもしれないと、愛美は気にしたけれど。

「いや、別に引かないよ。ただ、君もやっぱり今時の女子高生なんだなーと思っただけだ」

「……そうですか」

 その言葉を、愛美はどう受け取っていいのか迷った。「女子高生らしくて可愛い」という意味なのか、「すっかり世慣れしてる」という意味なのか。
 ……愛美としては、前者の意味であってほしい。

 愛美とさやかの二人が満足のいく写真をアップできたところで、四人はクレープにかぶりついた。

「「「お~いし~~い☆」」」

「うま~い!」

「ばななチョコ、とろける~♪ ホイップもいい感じだねー」

「ねー☆ やっぱチョコはテッパンだねー」

 最後の感想は、もちろんチョコ好きのさやかである。他にも美味しそうなクレープが何種類かあった中で、何の迷いもなくチョコ系を選んだのがいかにも彼女らしい。

「ツナチーズもいけますわよ」

「えっ、マジ? 一口ちょうだい! あたしのも一口あげるから」

「……そっちは太りそうだからいいですわ」

 さやかと珠莉は、お互いのメニューをシェアし始める。 

「――純也さん、美味しいですか?」

「うん、うまいよ」

 愛美が感想を訊ねると、純也さんは子供みたいにホイップがついた口を拭いながら答えた。

(純也さん、可愛い)

 愛美は彼の姉になったような気持ちで、またクレープをかじった。
 すると、横からズズーッと何かをすする音がして――。

「――あまっ! タピオカミルクティーってこんなに甘かったのか」

 タピオカ初体験の純也さんが、あまりの甘ったるさに眉をしかめていた。

「そんなに甘いですか? ……うわ、ホントだ」

 愛美も甘いものが大好きだけれど、ここまで甘ったるいのはちょっと苦手だ。こんなに甘ったるいものが、よく人気があるなと思う。

「ホントはソーダみたいなサッパリしたドリンクの方が合うんだけどね。色もキレイだから映えるし」

「えっ、そうなの? じゃあ、そっちにすればよかったかな」

 炭酸が入っている方が、後味スッキリで飲みやすかっただろう。

「でも、コレはコレでいい記念になったから、まあいいかな」

 一ついい勉強になったからよしとしようと愛美は思った。「タピオカミルクティーは甘ったるい」と。

(それに、大好きな純也さんと一緒に飲めたし)

 思い出とは〝何を〟飲んだり食べたりしたかではなく、〝誰と〟が大事なんだと思う。大好きな人と、同じ経験を共有できたことが何よりの思い出になるのだ。

「――ふーっ、お腹いっぱいになったね。じゃあ純也さん、あたしたちそろそろ帰ります。今日はお世話になりました」

「叔父さま、今日はありがとうございました」

 原宿駅の前まで純也さんに送ってもらい、三人はそこで彼と別れた。
 さやかと珠莉は彼にお礼を言い、すぐにでも帰りそうな雰囲気だったけれど、愛美は彼との別れがまだ名残なごり惜しかった。

「愛美ちゃん、今日は楽しかったね。連絡先、教えてくれてありがとう」

「……はい」

「じゃあ、また連絡するよ」

「はい! ……あ、じゃなくて。わたしから連絡してもいい……ですか?」

 恋愛初心者にしては大胆なことを、愛美は思いきって言ってみた。
 今度こそ、引かれたらどうしよう? ――愛美は言ってしまってから後悔したけれど。

「うん、もちろん。待ってるよ」

「はぁー……、よかった。じゃあ、また」

「うん。気をつけて帰ってね」

 愛美は純也さんに大きく頭を下げ、二人の親友と一緒に改札口へ。

「――さやかちゃん、珠莉ちゃん。今日、すっごく楽しかったね」

 帰りの電車の中で、愛美は二人のどちらにとなく話しかけた。

「うん、そうだね。初めて好きな人にプレゼントもらって、初めて劇場に行って、好きな人と連絡先交換してもらって、そんでもって初タピ? 盛りだくさんじゃん」

「……もう! さやかちゃんってば、列挙しないでよ」

 一つ一つはいい思い出だけれど、順番に挙げられると色々ありすぎて目まぐるしい日だった。

 特に愛美自身、大胆すぎると思った言動が多すぎて、思い出しただけでも顔から火を噴きそうなのだ。

「でも、そのおかげで恋も一歩前進したじゃん。よかったんじゃない?」

「う……、それは……まあ」

「っていうか、純也さんのアレってさぁ、『付き合ってほしい』って意味だったんじゃないの?」

「…………」

 さやかの衝撃発言に、愛美は電車内の天井を仰いだ。

「違う……んじゃないかなぁ。ちゃんと言われたワケじゃないし、わたしも告白してないし」

 恋愛が始まる時、キチンとお互いに想いを伝えあって、「ここからがスタートだ」とラインを引けるのが愛美の理想なのだけれど。

「愛美はカタチにこだわりすぎなんだよ。友達から恋愛に発展したりとか、ただ連絡取り合うだけの関係から始まる恋愛もあるんだよ?」

「そうかもしれないけど……。わたし、純也さんより十三歳も年下なんだよ? 姪の珠莉ちゃんと同い年なんだよ? そんなコと付き合いたいとか思うかなぁ?」

 愛美はまだ未成年だし、ヘタをすれば犯罪にもなりかねない。もしそうならないとしても、周りから〝ロリコン〟だと思われたりするんじゃないだろうか?

「純也さんが、愛美の気持ちに気づいてたとしたらどう?」

「えっ? どう……って」

 愛美はグッと詰まる。もしもそうなら、両想いということで、彼が愛美との交際をためらう理由はなくなるわけだけれど……。

「案外、そうかもしれませんわよ?」

 電車に乗り込んでからずっと黙り込んでいた珠莉が、ここへきてやっと口を挟んだ。

「……珠莉ちゃん、何か知ってるの?」

 もしかしたら、彼女は叔父から彼の愛美への想いを打ち明けられているのかもしれない。愛美は淡い期待を込めて、珠莉に訊ねた。

「知っていても、私からは言えないわ。それはあなたが叔父さまご本人から聞かなければ意味がないことじゃありませんの?」

「……うん、そうだよね」

 珠莉の言うことはごもっともだ。でも、だからといって純也さん本人に「わたしのこと好きなんですか?」と訊く勇気は愛美にはない。

「――あー、やっぱり寮に着く頃には六時半回りそうだな、こりゃ」

 神奈川県に入った時点で、さやかがスマホで時間を確かめて呻く。すでに六時を過ぎていた。

「とりあえず、学校の最寄り駅に着いたら晴美さんに連絡入れとくよ。『あたしたちの晩ゴハン、置いといてほしい』って」

「そうだね。やっぱりクレープだけじゃ、夜お腹すくもんね」

 ――さやかはその後、最寄り駅に着くと、言っていた通り寮母の晴美さんに連絡したのだった。


   * * * *


 ――その日の夜。愛美は部屋の共有スペースで、スマホを持ったまま固まっていた。

「う~~~~ん……、なんて書こうかな……」

 せっかく純也さんと連絡先を交換したので、さっそく彼に連絡しようと思い立ったのはいいものの。この時間、電話は迷惑かも……と思い、メッセージアプリを開いたのはいいけれど、文面が思いつかないのだ。男の人にメッセージを送るのは初めてだし……。

(とりあえず、無難に今日のお礼でいいかな……)

 よし、と気合を入れ、キーパッドを叩いていく。

『純也さん、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです('ω')
 東京にはまだまだ面白そうなスポットがありそうですね。また案内してほしいです。』

 勢い込んで送信すると、すぐに「既読」の表示が出て――。

『メッセージありがとう。
 僕も楽しかったよ。愛美ちゃんたちと一緒にいると、何だか若返った気分になった(笑)
 また一緒にどこかに行こうね。……今度は、できたら珠莉たち抜きで。』

 という返信が来た。

「え……」

 はっきり「好きだ」といわれなくても、この文面だけで何となく分かる。――これは、紛れもないデートのお誘いだ。

「……いやいや! まだそうと決まったワケじゃないよね」

 愛美ははやる気持ちを抑えようと、そう自分に言い聞かせる。まだ本人の口から聞く(もしくは、メッセージで伝えてもらう)までは、百パーセント決まりではないのだ。

「はぁぁぁぁ~~~~……」

 恋にため息はつきものだと、小説で読んだことがある。まさか、自分自身がこんな風になるなんて、一年前には想像もつかなかったのに。

(早く純也さんのホントの気持ちを聞いて、安心したいなぁ)

 それまでは、愛美に心穏やかな日常は訪れないだろう。彼の言動一つ一つにいっ一憂いちゆうさせられて、ハラハラドキドキしっぱなしに違いない。

「……とりあえず、落ち着こう」

 こういう時は、〝あしながおじさん〟に手紙を書くのが一番だ。今日一日の体験を聞いてほしいというのもあるし――。

 愛美は勉強机に向かうと、今日原宿の雑貨屋さんで買ってきたばかりの新品のレターセットを開けた。


****

『拝啓、あしながおじさん。

 お元気ですか? わたしは今日も元気いっぱいです。
 先月のお手紙でもお知らせした通り、今日は純也さんからのお招きでさやかちゃん・珠莉ちゃんと一緒に東京の原宿に行ってきました。
 朝からいいお天気で、絶好のお出かけ日和でした。
 東京って、というか原宿って、楽しい街ですね! 色んなお店や場所に行きました。ミュージカルを鑑賞した劇場、オシャレなカフェ、可愛い雑貨屋さん、古着屋さん、クレープ屋さんに高級ブランドのショップ、レインボーわたあめのお店……。
 どこも面白くて、何から書いていいか分からないくらいです。
 純也さんとは、午後一番でJR原宿駅の前で待ち合わせしてました。いつもはスーツ姿の純也さんも、今日はちょっとカジュアルな私服姿。でも背が高いので、モデルさんみたいでカッコよかったです!
 わたしたち四人は、まずは駅前のオシャレなカフェでランチを頂きました。
 食後はミュージカルの開演時刻まで時間があったので、竹下通りを散策してました。その時に、雑貨屋さんでさやかちゃんが見つけてくれた三人お揃いの可愛いスマホカバーを、純也さんがプレゼントしてくれました! 
 わたしの誕生日が先月の四日だったことを知らなかった純也さんは申し訳なさそうに、「知ってたら、先月寮に来た時に何かプレゼントを用意してたんだけど」っておっしゃってました。でも、わたしは一ヶ月遅れの誕生日プレゼントでも、すごく嬉しかったんです。男の人からのプレゼントなんて初めてだったから(あ、おじさまがお見舞いに送って下さったお花は別です)。
 その後、バッタリ治樹さんに会いました。さやかちゃんはお兄さんとの遭遇にちょっと迷惑そうでしたけど、珠莉ちゃんが何だか治樹さんのこと気に入っちゃったみたいで……。わたしには分かる気がします。もしかしたら、珠莉ちゃんは治樹さんに恋してるんじゃないかって。
 ミュージカルが上演された劇場は、渋谷駅の近くにあります。わたしは劇場に入ったのが初めてで、すごくワクワクしてました。
 上演されたプログラムは、わたしがまだ読んだことのない小説が原作になってる作品でしたけど、すごくいい作品でした。
 歌もダンスもお芝居も、そしてキラキラした舞台装置も素晴らしくて、夢を見てるみたいでした。そして何より、お話の内容にも魅了されました。
 プロの俳優さんってスゴいですね! どんな役柄にもなりきってしまえるんだもん。わたしは多分、女優には向いてないと思います。演技とか、ウソついたりするのが苦手だし、だいいち音楽の成績があんまりよくないから。
 劇場を出た後は、お買いものタイム! わたしも古着屋さんを数軒回って、夏物の洋服とか靴を安く買いました。珠莉ちゃんなんか、両手にいっぱい紙袋を抱えて、それでもまだ買いたいものがあるって言って、セレクトショップへさやかちゃんを引っぱって行きました。
 でもそれは、わたしを純也さんと二人きりにしようっていう二人の作戦みたいで、わたしはその後しばらく純也さんと二人で行動することになりました。
 わたしたちは一緒に本屋さんに行って、表参道駅の近くで休憩。純也さんとは色んなお話をして、連絡先も交換してもらいました。純也さんがそうしたかったらしくて。彼はどうも、珠莉ちゃんに気兼ねすることなくわたしと連絡を取りたかったそうです。わたしの方が、「本当にいいの?」って思っちゃいました。
 最後に四人でクレープを食べて(そのお店では、わたしと純也さんの二人がタピオカ初体験でした!)、それから原宿駅で純也さんとお別れしました。
 珠莉ちゃんはリッチだから、金額なんて気にしないで欲しいものをホイホイ買うことができますけど。わたしは横浜に来てすぐにそれで失敗してるので、キチンと値段を確認して、お財布の中身と相談して安く買えるものは安く買うっていう工夫ができるようになりました。やっぱり、ムダ遣いはよくないし。自分の力で生活できるようになった時に困らないように、〝節約する〟ってことも覚えなきゃ! そうでしょう、おじさま?
 話がれちゃいましたね。今日のお出かけで、わたしの恋は一歩前進したと思います。
 純也さんはわたしに、「出会えてよかった」っておっしゃってくれました。さやかちゃんによれば、それは告白されたも同じことだ、って。
 それはわたしも同じです。わたしも、純也さんに出会えてよかったって思ってます。でも、はっきり「好きだ」って言われたわけじゃないから、彼の気持ちがまだちゃんと分かりません。それでも、わたしと純也さんはお付き合いしてるってことになるんでしょうか? 初めてのことだから、よく分からなくて。
 長くなっちゃいましたね。今日はここまでにします。おじさま、おやすみなさい。

                   五月三日    愛美    』

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漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

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