コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~

好きな言葉はタナボタ

文字の大きさ
138 / 144

エリカの白日夢

勝利の余韻に浸るのもそこそこに、ヒモネス隊は再び心配し始めていた。

「ねえ、ザンス兵がここまで来たってことは...」

「ヒモネス隊長は...」

女子隊員一同はルーケンス相手にエリカがベルチンする音を聞きつけ、近寄ってきて懇願する。

「守護霊様っ、ヒモネス隊長をお助けください!」

さっきの難局をあっさりと解決した守護霊様なら、ヒモネス隊長の救出も朝飯前だろう。

(ヒモネス隊長って誰? どこかで聞いた名前だけど...)

エリカが聞いたことがある名前は「ヒネモス」だ。 「モ」と「ネ」の順番が違う。 ヒネモスはヒモネス隊長の弟で、クーララ王国のエージェントだった。 彼はザルス共和国のミザル市で潜入活動中に、姿の見えない暗殺者の凶刃に命を奪われた。

チン?(ヒモネス隊長って誰?)

そう尋ねたエリカは、ヒモネス隊長が彼女たちの隊長であること、帝国軍がすぐそこまで迫っていること、ヒモネスが金髪のイケメンであること、ヒモネスがとても強くて頼もしいこと、ヒモネスが素敵であること、ヒモネスの声がセクシーであること、ヒモネスの広い背中と整えられた指先も魅力的なことを女子隊員たちに聞かされた。

ヒモネス隊長に関して必要以上の知識を得たエリカは、ヒモネスを救出し、ついでに帝国軍本隊を撃退することにした。 むろん単独で乗り込むのだ。 何万という大軍を相手にするには、エリカ1人のほうが好都合である。

女子隊員たちによると、ヒモネス隊長は帝国の大群を一人で足止めしているらしい。 もう手遅れな気がするが、とりあえず現地に急行しよう。 エリカは十字路を目指して駆け出した。

◇◆◇◆◇

エリカは十字路を右折し北へ向かって走る。 彼女の頼まれ事は2つ、帝国軍の撃退とヒモネス隊長の救出である。 帝国軍撃退のほうが大事おおごとだが、急を要するのはヒモネス救出のほうだ。

(ヒモネスさんが無事だといいけど。 隊長サンが死んでたら、あの子たち悲しむよね)

そういうエリカもヒモネスに興味を持ち始めていた。 人嫌いなうえ誰にも存在を認識されぬ身であるからして色恋沙汰など夢のまた夢だが、それでも1人の女性としてエリカはヒモネスに興味を抱かざるを得なかった。 10人中10人の女性に愛されるなんて、どれほど素敵な男性だというの?

まだ見ぬヒモネスに思いを馳せながら走っていると、前方に数十人が倒れている。 しかし、周辺に戦闘の気配はない。 数十の死体だけが転がっている。

(身なりから察するにクーララ兵と帝国兵かな。 ヒモネスさんもあの中に?)

数々の死体にざっと視線を走らせるが、幸いなことに、倒れている者の中にヒモネスはいなかった。 女子隊員一同にヒモネス隊長に関する知識を詰め込まれたエリカは、今ではすっかりヒモネスのエキスパート。 ヒモネスを一目で見分けることができる。

(いないわね。 金髪の人がいないもの)

エリカは足を止めることなく、死体と死体の隙間を足の踏み場にして一気に走り抜けた。 そうして走り続けて、エリカは帝国兵の大集団に行き当たった。 ずっと先の道まで帝国兵の群れでいっぱいだ。

(あれは帝国軍! ヒモネスさんは?)

帝国軍が進軍を停止しているからには、ヒモネスの足止めは成功したのだろう。 しかしヒモネスの姿が見えない。 誰かが戦っている様子もないし、ヒモネスの死体も転がっていない。

(まだ生きてるといいんだけど)

エリカは帝国軍の内部に侵入して状況を探ることにした。

◇◆◇

誰にも姿が見えないのをいいことに、エリカは帝国軍の先頭集団に無造作に近づき、群がる帝国兵を掻き分けるようにして進む。 エリカは一度ならず敵兵を押しのけたり足を踏んづけたりしたが、誰一人としてエリカの侵入に気付かない。

(もし今ここで私の姿が誰の目にも見えるようになったら...)

エリカの思考は愚にもつかない妄想へと向かう。 いや、愚にもつかなくなどはない。 神様の気まぐれ次第で十分にあり得る話だ。 これまでだって、エリカの透明や不死身がいつ解除されていてもおかしくなかった。

(もしここで私の姿が白日の下にさらされたら... 帝国兵たちも今はのんびりしてるけど、目の色を変えて私に襲い掛かるでしょうね。 私の戦闘力はせいぜい帝国兵1人ぶんだし、あっという間に切り刻まれちゃう)

あるいは、とエリカの妄想は進路を変更する。

(あるいは、私は女の子だから、帝国兵に乱暴に取り押さえられ縛り上げられて指揮官に献上されちゃうかも。 「指揮官殿、若い女を捕まえましたっ!」 で、その指揮官がイケメンで私に一目ぼれで私が溺愛されて、幸せな虜囚生活を送るの。 そんな日々のさなかに第三、いえ第四王子が現れて、そいつも私に一目ぼれ。 そしてイケメンと第四とで私の奪い合いに... そして、イケメン指揮官と第四王子の不和が原因で帝国は瓦解し、私は傾国かつ救国のヒロインとしてクーララ王国に凱旋がいせん...)

愚にもつかない妄想にふけりつつ敵兵を押しのけ帝国軍の奥へ奥へと進んでいると、大きな声が聞こえてきた。 騒々しい軍中にあって、ひときわ大きな声である。 声の主は女性だ。

「ちゃんと面倒みるからっ!」

ヒモネスを探す当てのなかったエリカは、自然と声の出どころに足を向ける。 そうして進んだ先に、エリカは声の主と思われる女性と背の高い金髪の男性の後ろ姿を見つけた。 女性は隣に立つ男性の体に片腕を回している。

(見つけた! あれがヒモネスさんね)

女子隊員たちに聞かされた通りのすらりとした長身と金髪。 顔は見えないが、きっと素敵なお顔なんだろう。 ヒモネスは縄で後ろ手に縛られている。 どうやら帝国軍に殺されず捕まったらしい。

「ねえ、この男を捕虜にしていいでしょう?」

そう訴えた女性はモデルのように痩せていて、ヒモネスと肩を並べるほどの長身である。 とうてい戦士には見えない細い体付きだが、チェイン・メイル鎖かたびらに身を包み剣を腰に帯びているからには戦士なのだろう。

女性の上官らしき男性が答える。

「捕虜にしても、帰国後に処刑することになるぞ? 我が軍の兵を幾人も切り殺したんだからな。 連れ帰るだけ手間が増えると思うが...」

「とりあえずそれでいいから、この男を捕虜にする許可をくれ」
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。