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どうして嘘をつくんだ?
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ヒモネスはなぜ捕虜をしているのか? 《直観》の魔法で強化された第六感によりミレイに勝てないことを悟ったヒモネスは、同時にミレイが自分を異性として欲していることも悟り、それを逆手に取って自分の目的を達成しようとしたのだ。
興味を隠そうともせず自分を値踏みするようにジロジロと眺めるミレイに、ヒモネスは単刀直入に言った。
「降伏するから部下の命を助けてくれないか?」
ヒモネスの読み通りミレイは即座に対話に応じた。 あまりにも読み通りなので、いっそ可愛らしいほどである。
「部下の命ですって?」
「そこに倒れている部下の幾人かがまだ生きてるんだ」
「そんな面倒な条件を受け入れずとも、私がオマエを捕らえれば済む話よ」
その次の瞬間には、ミレイの剣先がヒモネスの喉元にピタリと押しあてられていた。 《加速》を使用中のヒモネスにすら反応できない素早さでミレイは間合いを詰めたのだ。
「近くで見ても、やっぱりイイ男。 それに、芳香のような体臭。 ...血の味はどうなのかしら?」
そう言ってミレイはヒモネスの首にプスリと剣を浅く突き刺し、出血部分に口をあてがう。 かぷり。
女の熱い口腔に傷口を覆われて、ヒモネスは思わず呻く。
「っ!」
ミレイはヒモネスの血を吸ったり傷口を舌で探ったり。 傷口に舌をねじ込まれ、ヒモネスは再び呻き声を上げる。 うっ。 ミレイはヒモネスの攻撃をいささかも恐れていない。 ヒモネスが何をしようと瞬時に対応する自信がある。 この場においてミレイは絶対的な強者であった。
ようやくヒモネスの傷口から唇を離し、血に汚れた口元を拭いながらミレイが言う。
「血は美味しくないわね」
ミレイは吸血が趣味というわけではない。 彼女が血を口にしたのは今回が初めてだ。 水も滴る美男子たるヒモネスにむしゃぶりつきたいという衝動と、ここはいちおう戦場だという意識が衝突した所産が今しがたの吸血活動である。
「でも、あなたの汗は美味しかったわ。 とってもセクシーな味わいで、ミレイ興奮しちゃった」
そう言ってミレイは右手に剣を持ったまま左腕でヒモネスの頭部を抱え込み、息を荒げて彼の頬を舐め始める。 ヒモネスは身を硬くして耐えていたが、頬を這うミレイの舌の動きが彼の唇の端に及んだとき、たまりかねてミレイを突き離そうとした。
意外に可愛い「きゃっ!」という声をあげてミレイは突き飛ばされた... と思っただろうか? 彼女はそんな甘い玉ではない。 ヒモネスの手に突き離されかけるや否や、ミレイは恐るべき反応速度でその手を自分の手で払い、瞬時にして再びヒモネスに密着した。
そして左手でヒモネスの頭髪を荒々しく掴んで乱暴に顔を上げさせ、オデコとオデコをごっつんこ。 彼我の唇が触れ合わんばかりの距離でヒモネスに言葉をねじ込む。
「つ・き・は・な・す・な。 いいか? ワタシを拒絶するな」
ミレイから顔をそむけたヒモネスの目に地面に倒れる部下たちが映る。 ショーンアンは足が変な方向に曲がった状態で倒れているが微かに胸が上下している、マヤカは首が変な方向に曲がっているので生きていないだろう。 ナヤスはわき腹を抑えて呻き声を上げているので生きているのは確かだが、放っておけば死んでしまうのもまた確か。 パルバ、ドルジ、イショナ、ヘテランテラ... 《直観》で強化されたヒモネスの第六感は何人もの生命の灯が消える寸前にあるのを感じ取っていた。
ヒモネスは顔の向きをミレイのほうに戻し、超至近距離での発言を敢行する。
「部下を手当してくれ。 そうすれば要求に応じよう」
それはミレイが自分に抱く欲望を見透かした申し出であった。 部下を助けさえすればミレイを受け入れよう。 ヒモネスはそう言っているのだ。
しかしミレイはヒモネスの提案に乗り気ではなかった。 ミレイ自身の部下もヒモネスにやられて死傷しており、負傷者には手当が必要だ。 そして帝国軍で《治癒》の使い手は稀少である。 敵方の負傷者が何人いるとも知れないのに易々と承諾はできない。 だいいち《治癒》で回復させたりしたら捕虜にせねばならない。
ミレイはヒモネスの額から自分の額を引き離し、ヒモネスの頭髪を掴んだまま荒々しく言葉を投げつける。
「わかってないようだな。 オマエは条件を出せる立場にはない。 オマエたちの生死の決定権は全面的にワタシにある」
ミレイの言葉は大げさではない。 ヒモネスと彼の部下の命運は大体においてミレイの一存にかかっている。 しかし、ミレイの一存に左右されない選択肢も残されていなくはない。 ヒモネスは今なお絶望に沈まぬ目で力強く言い放つ。
「いいや、オレの生死はオレが決める。 部下を助けてくれなければ舌を噛み切って自殺するぞ」
ミレイは困った。 ヒモネスを死なせるわけにいかない。 このように見目麗しく香り高い男性を死なせられようものか。 しかし、舌を噛み切る自殺を阻止するのは難しい。 他人の口の中の出来事だからだ。 しばらくの逡巡ののち、ミレイはヒモネスの要求を承諾した。
「仕方ないわね。 アンタの部下を助けてあげる。 だから大人しくお縄につきなさい」
それはヒモネスが望んでいた回答。 そのはずだったが、彼の表情は苦々しげだ。
「どうして嘘をつくんだ?」
興味を隠そうともせず自分を値踏みするようにジロジロと眺めるミレイに、ヒモネスは単刀直入に言った。
「降伏するから部下の命を助けてくれないか?」
ヒモネスの読み通りミレイは即座に対話に応じた。 あまりにも読み通りなので、いっそ可愛らしいほどである。
「部下の命ですって?」
「そこに倒れている部下の幾人かがまだ生きてるんだ」
「そんな面倒な条件を受け入れずとも、私がオマエを捕らえれば済む話よ」
その次の瞬間には、ミレイの剣先がヒモネスの喉元にピタリと押しあてられていた。 《加速》を使用中のヒモネスにすら反応できない素早さでミレイは間合いを詰めたのだ。
「近くで見ても、やっぱりイイ男。 それに、芳香のような体臭。 ...血の味はどうなのかしら?」
そう言ってミレイはヒモネスの首にプスリと剣を浅く突き刺し、出血部分に口をあてがう。 かぷり。
女の熱い口腔に傷口を覆われて、ヒモネスは思わず呻く。
「っ!」
ミレイはヒモネスの血を吸ったり傷口を舌で探ったり。 傷口に舌をねじ込まれ、ヒモネスは再び呻き声を上げる。 うっ。 ミレイはヒモネスの攻撃をいささかも恐れていない。 ヒモネスが何をしようと瞬時に対応する自信がある。 この場においてミレイは絶対的な強者であった。
ようやくヒモネスの傷口から唇を離し、血に汚れた口元を拭いながらミレイが言う。
「血は美味しくないわね」
ミレイは吸血が趣味というわけではない。 彼女が血を口にしたのは今回が初めてだ。 水も滴る美男子たるヒモネスにむしゃぶりつきたいという衝動と、ここはいちおう戦場だという意識が衝突した所産が今しがたの吸血活動である。
「でも、あなたの汗は美味しかったわ。 とってもセクシーな味わいで、ミレイ興奮しちゃった」
そう言ってミレイは右手に剣を持ったまま左腕でヒモネスの頭部を抱え込み、息を荒げて彼の頬を舐め始める。 ヒモネスは身を硬くして耐えていたが、頬を這うミレイの舌の動きが彼の唇の端に及んだとき、たまりかねてミレイを突き離そうとした。
意外に可愛い「きゃっ!」という声をあげてミレイは突き飛ばされた... と思っただろうか? 彼女はそんな甘い玉ではない。 ヒモネスの手に突き離されかけるや否や、ミレイは恐るべき反応速度でその手を自分の手で払い、瞬時にして再びヒモネスに密着した。
そして左手でヒモネスの頭髪を荒々しく掴んで乱暴に顔を上げさせ、オデコとオデコをごっつんこ。 彼我の唇が触れ合わんばかりの距離でヒモネスに言葉をねじ込む。
「つ・き・は・な・す・な。 いいか? ワタシを拒絶するな」
ミレイから顔をそむけたヒモネスの目に地面に倒れる部下たちが映る。 ショーンアンは足が変な方向に曲がった状態で倒れているが微かに胸が上下している、マヤカは首が変な方向に曲がっているので生きていないだろう。 ナヤスはわき腹を抑えて呻き声を上げているので生きているのは確かだが、放っておけば死んでしまうのもまた確か。 パルバ、ドルジ、イショナ、ヘテランテラ... 《直観》で強化されたヒモネスの第六感は何人もの生命の灯が消える寸前にあるのを感じ取っていた。
ヒモネスは顔の向きをミレイのほうに戻し、超至近距離での発言を敢行する。
「部下を手当してくれ。 そうすれば要求に応じよう」
それはミレイが自分に抱く欲望を見透かした申し出であった。 部下を助けさえすればミレイを受け入れよう。 ヒモネスはそう言っているのだ。
しかしミレイはヒモネスの提案に乗り気ではなかった。 ミレイ自身の部下もヒモネスにやられて死傷しており、負傷者には手当が必要だ。 そして帝国軍で《治癒》の使い手は稀少である。 敵方の負傷者が何人いるとも知れないのに易々と承諾はできない。 だいいち《治癒》で回復させたりしたら捕虜にせねばならない。
ミレイはヒモネスの額から自分の額を引き離し、ヒモネスの頭髪を掴んだまま荒々しく言葉を投げつける。
「わかってないようだな。 オマエは条件を出せる立場にはない。 オマエたちの生死の決定権は全面的にワタシにある」
ミレイの言葉は大げさではない。 ヒモネスと彼の部下の命運は大体においてミレイの一存にかかっている。 しかし、ミレイの一存に左右されない選択肢も残されていなくはない。 ヒモネスは今なお絶望に沈まぬ目で力強く言い放つ。
「いいや、オレの生死はオレが決める。 部下を助けてくれなければ舌を噛み切って自殺するぞ」
ミレイは困った。 ヒモネスを死なせるわけにいかない。 このように見目麗しく香り高い男性を死なせられようものか。 しかし、舌を噛み切る自殺を阻止するのは難しい。 他人の口の中の出来事だからだ。 しばらくの逡巡ののち、ミレイはヒモネスの要求を承諾した。
「仕方ないわね。 アンタの部下を助けてあげる。 だから大人しくお縄につきなさい」
それはヒモネスが望んでいた回答。 そのはずだったが、彼の表情は苦々しげだ。
「どうして嘘をつくんだ?」
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