139 / 144
どうして嘘をつくんだ?
ヒモネスはなぜ捕虜をしているのか? 《直観》の魔法で強化された第六感によりミレイに勝てないことを悟ったヒモネスは、同時にミレイが自分を異性として欲していることも悟り、それを逆手に取って自分の目的を達成しようとしたのだ。
興味を隠そうともせず自分を値踏みするようにジロジロと眺めるミレイに、ヒモネスは単刀直入に言った。
「降伏するから部下の命を助けてくれないか?」
ヒモネスの読み通りミレイは即座に対話に応じた。 あまりにも読み通りなので、いっそ可愛らしいほどである。
「部下の命ですって?」
「そこに倒れている部下の幾人かがまだ生きてるんだ」
「そんな面倒な条件を受け入れずとも、私がオマエを捕らえれば済む話よ」
その次の瞬間には、ミレイの剣先がヒモネスの喉元にピタリと押しあてられていた。 《加速》を使用中のヒモネスにすら反応できない素早さでミレイは間合いを詰めたのだ。
「近くで見ても、やっぱりイイ男。 それに、芳香のような体臭。 ...血の味はどうなのかしら?」
そう言ってミレイはヒモネスの首にプスリと剣を浅く突き刺し、出血部分に口をあてがう。 かぷり。
女の熱い口腔に傷口を覆われて、ヒモネスは思わず呻く。
「っ!」
ミレイはヒモネスの血を吸ったり傷口を舌で探ったり。 傷口に舌をねじ込まれ、ヒモネスは再び呻き声を上げる。 うっ。 ミレイはヒモネスの攻撃をいささかも恐れていない。 ヒモネスが何をしようと瞬時に対応する自信がある。 この場においてミレイは絶対的な強者であった。
ようやくヒモネスの傷口から唇を離し、血に汚れた口元を拭いながらミレイが言う。
「血は美味しくないわね」
ミレイは吸血が趣味というわけではない。 彼女が血を口にしたのは今回が初めてだ。 水も滴る美男子たるヒモネスにむしゃぶりつきたいという衝動と、ここはいちおう戦場だという意識が衝突した所産が今しがたの吸血活動である。
「でも、あなたの汗は美味しかったわ。 とってもセクシーな味わいで、ミレイ興奮しちゃった」
そう言ってミレイは右手に剣を持ったまま左腕でヒモネスの頭部を抱え込み、息を荒げて彼の頬を舐め始める。 ヒモネスは身を硬くして耐えていたが、頬を這うミレイの舌の動きが彼の唇の端に及んだとき、たまりかねてミレイを突き離そうとした。
意外に可愛い「きゃっ!」という声をあげてミレイは突き飛ばされた... と思っただろうか? 彼女はそんな甘い玉ではない。 ヒモネスの手に突き離されかけるや否や、ミレイは恐るべき反応速度でその手を自分の手で払い、瞬時にして再びヒモネスに密着した。
そして左手でヒモネスの頭髪を荒々しく掴んで乱暴に顔を上げさせ、オデコとオデコをごっつんこ。 彼我の唇が触れ合わんばかりの距離でヒモネスに言葉をねじ込む。
「つ・き・は・な・す・な。 いいか? ワタシを拒絶するな」
ミレイから顔をそむけたヒモネスの目に地面に倒れる部下たちが映る。 ショーンアンは足が変な方向に曲がった状態で倒れているが微かに胸が上下している、マヤカは首が変な方向に曲がっているので生きていないだろう。 ナヤスはわき腹を抑えて呻き声を上げているので生きているのは確かだが、放っておけば死んでしまうのもまた確か。 パルバ、ドルジ、イショナ、ヘテランテラ... 《直観》で強化されたヒモネスの第六感は何人もの生命の灯が消える寸前にあるのを感じ取っていた。
ヒモネスは顔の向きをミレイのほうに戻し、超至近距離での発言を敢行する。
「部下を手当してくれ。 そうすれば要求に応じよう」
それはミレイが自分に抱く欲望を見透かした申し出であった。 部下を助けさえすればミレイを受け入れよう。 ヒモネスはそう言っているのだ。
しかしミレイはヒモネスの提案に乗り気ではなかった。 ミレイ自身の部下もヒモネスにやられて死傷しており、負傷者には手当が必要だ。 そして帝国軍で《治癒》の使い手は稀少である。 敵方の負傷者が何人いるとも知れないのに易々と承諾はできない。 だいいち《治癒》で回復させたりしたら捕虜にせねばならない。
ミレイはヒモネスの額から自分の額を引き離し、ヒモネスの頭髪を掴んだまま荒々しく言葉を投げつける。
「わかってないようだな。 オマエは条件を出せる立場にはない。 オマエたちの生死の決定権は全面的にワタシにある」
ミレイの言葉は大げさではない。 ヒモネスと彼の部下の命運は大体においてミレイの一存にかかっている。 しかし、ミレイの一存に左右されない選択肢も残されていなくはない。 ヒモネスは今なお絶望に沈まぬ目で力強く言い放つ。
「いいや、オレの生死はオレが決める。 部下を助けてくれなければ舌を噛み切って自殺するぞ」
ミレイは困った。 ヒモネスを死なせるわけにいかない。 このように見目麗しく香り高い男性を死なせられようものか。 しかし、舌を噛み切る自殺を阻止するのは難しい。 他人の口の中の出来事だからだ。 しばらくの逡巡ののち、ミレイはヒモネスの要求を承諾した。
「仕方ないわね。 アンタの部下を助けてあげる。 だから大人しくお縄につきなさい」
それはヒモネスが望んでいた回答。 そのはずだったが、彼の表情は苦々しげだ。
「どうして嘘をつくんだ?」
興味を隠そうともせず自分を値踏みするようにジロジロと眺めるミレイに、ヒモネスは単刀直入に言った。
「降伏するから部下の命を助けてくれないか?」
ヒモネスの読み通りミレイは即座に対話に応じた。 あまりにも読み通りなので、いっそ可愛らしいほどである。
「部下の命ですって?」
「そこに倒れている部下の幾人かがまだ生きてるんだ」
「そんな面倒な条件を受け入れずとも、私がオマエを捕らえれば済む話よ」
その次の瞬間には、ミレイの剣先がヒモネスの喉元にピタリと押しあてられていた。 《加速》を使用中のヒモネスにすら反応できない素早さでミレイは間合いを詰めたのだ。
「近くで見ても、やっぱりイイ男。 それに、芳香のような体臭。 ...血の味はどうなのかしら?」
そう言ってミレイはヒモネスの首にプスリと剣を浅く突き刺し、出血部分に口をあてがう。 かぷり。
女の熱い口腔に傷口を覆われて、ヒモネスは思わず呻く。
「っ!」
ミレイはヒモネスの血を吸ったり傷口を舌で探ったり。 傷口に舌をねじ込まれ、ヒモネスは再び呻き声を上げる。 うっ。 ミレイはヒモネスの攻撃をいささかも恐れていない。 ヒモネスが何をしようと瞬時に対応する自信がある。 この場においてミレイは絶対的な強者であった。
ようやくヒモネスの傷口から唇を離し、血に汚れた口元を拭いながらミレイが言う。
「血は美味しくないわね」
ミレイは吸血が趣味というわけではない。 彼女が血を口にしたのは今回が初めてだ。 水も滴る美男子たるヒモネスにむしゃぶりつきたいという衝動と、ここはいちおう戦場だという意識が衝突した所産が今しがたの吸血活動である。
「でも、あなたの汗は美味しかったわ。 とってもセクシーな味わいで、ミレイ興奮しちゃった」
そう言ってミレイは右手に剣を持ったまま左腕でヒモネスの頭部を抱え込み、息を荒げて彼の頬を舐め始める。 ヒモネスは身を硬くして耐えていたが、頬を這うミレイの舌の動きが彼の唇の端に及んだとき、たまりかねてミレイを突き離そうとした。
意外に可愛い「きゃっ!」という声をあげてミレイは突き飛ばされた... と思っただろうか? 彼女はそんな甘い玉ではない。 ヒモネスの手に突き離されかけるや否や、ミレイは恐るべき反応速度でその手を自分の手で払い、瞬時にして再びヒモネスに密着した。
そして左手でヒモネスの頭髪を荒々しく掴んで乱暴に顔を上げさせ、オデコとオデコをごっつんこ。 彼我の唇が触れ合わんばかりの距離でヒモネスに言葉をねじ込む。
「つ・き・は・な・す・な。 いいか? ワタシを拒絶するな」
ミレイから顔をそむけたヒモネスの目に地面に倒れる部下たちが映る。 ショーンアンは足が変な方向に曲がった状態で倒れているが微かに胸が上下している、マヤカは首が変な方向に曲がっているので生きていないだろう。 ナヤスはわき腹を抑えて呻き声を上げているので生きているのは確かだが、放っておけば死んでしまうのもまた確か。 パルバ、ドルジ、イショナ、ヘテランテラ... 《直観》で強化されたヒモネスの第六感は何人もの生命の灯が消える寸前にあるのを感じ取っていた。
ヒモネスは顔の向きをミレイのほうに戻し、超至近距離での発言を敢行する。
「部下を手当してくれ。 そうすれば要求に応じよう」
それはミレイが自分に抱く欲望を見透かした申し出であった。 部下を助けさえすればミレイを受け入れよう。 ヒモネスはそう言っているのだ。
しかしミレイはヒモネスの提案に乗り気ではなかった。 ミレイ自身の部下もヒモネスにやられて死傷しており、負傷者には手当が必要だ。 そして帝国軍で《治癒》の使い手は稀少である。 敵方の負傷者が何人いるとも知れないのに易々と承諾はできない。 だいいち《治癒》で回復させたりしたら捕虜にせねばならない。
ミレイはヒモネスの額から自分の額を引き離し、ヒモネスの頭髪を掴んだまま荒々しく言葉を投げつける。
「わかってないようだな。 オマエは条件を出せる立場にはない。 オマエたちの生死の決定権は全面的にワタシにある」
ミレイの言葉は大げさではない。 ヒモネスと彼の部下の命運は大体においてミレイの一存にかかっている。 しかし、ミレイの一存に左右されない選択肢も残されていなくはない。 ヒモネスは今なお絶望に沈まぬ目で力強く言い放つ。
「いいや、オレの生死はオレが決める。 部下を助けてくれなければ舌を噛み切って自殺するぞ」
ミレイは困った。 ヒモネスを死なせるわけにいかない。 このように見目麗しく香り高い男性を死なせられようものか。 しかし、舌を噛み切る自殺を阻止するのは難しい。 他人の口の中の出来事だからだ。 しばらくの逡巡ののち、ミレイはヒモネスの要求を承諾した。
「仕方ないわね。 アンタの部下を助けてあげる。 だから大人しくお縄につきなさい」
それはヒモネスが望んでいた回答。 そのはずだったが、彼の表情は苦々しげだ。
「どうして嘘をつくんだ?」
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。