コミュ障、異世界転生で存在消失す ~透明人間はスローなライフも思いのままでした~

好きな言葉はタナボタ

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誤解

ヒモネスを解放しようと彼の背後に接近したエリカ。 しかし、ヒモネスを後ろ手に縛るロープの結び目が、傍らに立つ女性の腕で隠れている。

(この女の腕が邪魔なのよね。 とりあえず猿轡を外そう)

エリカはヒモネスの金色の後頭部に手を伸ばす。 猿轡の布は都合の良いことに結びで結ばれていたので簡単にほどけた。 ヒモネスの口から後頭部にかけてぐるりと回されている細長い布切れを取り去り、エリカはヒモネスの背後から正面に回る。

(どんな顔かしら?)

女子隊員たちの間で絶大な人気を誇る顔にエリカも少なからず興味がある。 そしてヒモネスの顔を見て思った。

(そっくりな人を見たことがある!)

しかし、それが誰だったかをエリカは思い出さなかった。 不本意ながら暗殺せざるを得なかったヒモネス中佐の弟ヒネモスの記憶を、エリカは無意識のうちに避けようとしたのだろうか?

(そんなことよりヒモネスさんの口の中にまだ何か入ってるみたい。 口をもごもごさせて苦しそう)

エリカは思い切ってヒモネスの口に人差し指と中指を突っ込み、中に詰め込まれていたものを取り出した。 彼の口中から出てきたのは布切れである。 猿轡の一環として口の中に押し込まれていたようだ。

(これでヒモネスさんは喋れるようになったはず)

そのエリカの思考が《伝心》で伝わったのかどうなのか、上官と話し込むミレイの傍らでヒモネスが叫んだ。

「守護霊様、部下たちを救ってください!」

今のところヒモネス自身は命の危険にさらされているわけではない。 守護霊様にはヒモネスの救出よりも死にかけている部下の救助を優先して欲しかった。

ヒモネスの叫びに真っ先に反応したのはミレイだ。

「どうしてオマエの猿轡が外れている! それに、守護霊様だと?」

次いで、エリカがヒモネスに思念を伝達する。

『安心して。 あなたの部下は見事に帝国兵を撃退したわ。 彼女たちに頼まれてあなたを助けに来たの』

最後に、周囲の士卒が狼狽した。

「IIBがここにっ?」「オレ達を追ってきたのかっ!?」「やれやれ、敗戦決定だな」「マジかよ、何日もかけて歩いてきたのに」

◇◆◇

「誰か猿轡を、新しい猿轡を持って来い! それから将軍をIIBから守れ。 あっちのほうに連れて行け」

ミレイ少佐の指示に従い帝国兵たちが動き始める中で、ヒモネスは先ほどのエリカの言葉について考えていた。

(帝国兵を撃退だって? 戦闘不能で地面に倒れていたのに? それに、守護霊様があいつらを治してくれたにしても、あいつらが戦うべき帝国兵が周辺に...)

そこまで考えてヒモネスは気付いた。

(守護霊様が言った「あなたの部下」とは、無事に十字路までたどり着いた者たちのことじゃないのか?)

ヒモネスがミレイと対峙していたあの短時間のうちに、彼の脇をミレイ隊の隊員が何十人も通り過ぎて十字路を目指すヒモネス隊の後を追っていた。 今に至るまで気に掛ける余裕が無かったが、頭の片隅で気にはなっていた。

(そうか、あいつらを守護霊様が助けてくれたのか)

あれだけの数の帝国兵をヒモネス隊が独力で撃退できるはずがない。 守護霊様の助力があったに違いないのだ。 十字路までたどりついた部下たちの無事を知りヒモネスは安堵した。 それによって一層、死にかけのまま放置されている部下を心配する気持ちが強まる。

(守護霊様は勘違いをなさっている。 一刻も早く誤解を解かねば)

守護霊様には一刻も早く部下たちの救出に向かってもらいたい。 ヒモネスは、込み入った状況を簡潔に説明するためのセリフを考え始めた。

◇◆◇

(くっ、この女、細腕なのに怪力!)

ヒモネスを後ろ手に縛る縄をほどくにあたり、エリカはまず邪魔になっているミレイの腕をどけようとしていた。 ところがミレイの力が強いため、エリカが両手でミレイの腕を掴んで動かそうとしてもビクともしない。

(この女に腕をどけるように頼むしかないか)

ミレイとのコミュニケーションに《伝心》を使うかベルチンを使うかをエリカが考えていると、ヒモネスの声が聞こえてきた。 状況を説明するセリフが完成したらしい。

「守護霊様、私の部下は二手に分かれています。 十字路へ向かった者たちと十字路を目指す前に帝国兵にやられんグっ」

ヒモネスの言葉は途中で遮られた。 ミレイの指示で新しく届けられた猿轡が彼の口に押し込まれたのだ。

(くそう、入念に考えたメッセージだったのに。 今のだけで私の言わんとすることが守護霊様に伝わったか? 守護霊様なら分かってくれるかも。 わかって欲しい。 頼む、守護霊様!)

守護霊様はヒモネスの言わんとすることを分かろうと努力はしていた。

『二手に分かれて? 帝国兵にやられんぐ? うーん、どういう意味なのかな?』

意思の伝達が一方通行なのが《伝心》の弱点だ。 エリカが一方的にメッセージを発するだけで、エリカがヒモネスの思考を読み取ることはできない。 再び猿轡を外そうとも考えたが、猿轡の結び目を見てエリカはその案を即座に破棄した。 今度は固結びだったのだ。 ミレイの怪力でギュッと絞められた布は人力ではほどけないだろう。 剣で布を切るという選択肢もあるが、エリカには布だけを上手に切る自信がなかった。

そういうわけでエリカは謎解きを選んだ。 そして、今しがたのヒモネスのメッセージと現在に至るまでの状況を照らし合わせ、ほどなくして、正しいと思われる答えに行き当たる。

(そういえば、十字路からここに来るまでの道に数十の死体が転がってた。 あの中に生きている人が混じってたのかな?)

かなりの憶測だが、ルーケンスたちと別れてからここに至るまで帝国兵しかいなかった。 ヒモネス隊が二手に分かれたと言うなら、その一方として考えられるのは地面に倒れていたクーララ兵だけだ。 そして「救え」というのは、その倒れてる人たちを手当てしろということだろう。 それ以外に考えられない。

エリカは《伝心》でヒモネスに確認を取る。

『この道を南下した先に倒れてる人たちの怪我を治せってこと?』

エリカの《伝心》にヒモネスは激しく首を縦に振る。

『死んでたと思うんだけど』

ヒモネスは今度は横に首を激しく振った。

『死んでるかもしれないけど、とにかくやるだけやってみてくれってこと?』

ヒモネスは激しく首を振る。 首を振る方向はもはや定かではなく、彼の目にはうっすらと涙さえ滲んでいる。

『わかったわ。 方法を考えるから、ちょっと待ってて』

エリカの承諾に感謝しつつも、ヒモネスは一抹の不安をぬぐい切れなかった。

(今から方法を考えるだって? せいぜい10数人の怪我人を治すぐらい守護霊様には朝飯前じゃなかったのか...?)
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