死に別れた縁と私と異界の繋

海林檎

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 ここの住人になる。



 妖ばかりがいる世界の住人。




「················」



「おい。聞いてんのか?」



 聞いている。

 聞いているから言葉が出ない。



 結の中での妖は人に害をもたらす者が多い。小さな頃から聞かされた妖怪の話はそんなのばかりだ。


 そんな世界に人間が一人紛れて生きていくなんて大丈夫なのだろうか。


 ここに来るまでに遭遇した怨念の集合体とやらもいる中で無事に生きていける自信なんて結にはなかった。


「·····【火ノ神】さんならもしかしたら元に戻れる方法を知っているかもなァ」


「火ノ神?」


 この世界の今結達がいる国土は四人の神によって統治されている。
 北の風の神。
 東の水の神。
 西の火ノ神。
 そして南の時の神。


 自分達がいるこの地は西であり火ノ神が治めている。


「火ノ神さんなら力を貸してくれるだろう」


 ただ、普段から多忙な方だから余程の事がない限り謁見出来るのは先になるだろう。

「······先ってどのくらい···ですか?」


「数ヶ月か数年か····はたまた数十年後か·····」




 数年から数十年後だなんて既に人間界では死亡認定されている。



「····まぁ、謁見出来る手続きはするけど、気長に待つしかねぇよ」


 気長に待っていれば人間なんて直ぐに老人になってしまう。


 項垂れる結に繋はきょとんとして人間と自分達の寿命の違いに気づく。


「人間の寿命は短いんだな」



 妖や神とは違う不完全な生き物だから。


「······あの····どうしました?」


 人間なんてこの世界ではお目にかかれるものではない。
 観察する様に繋は結を真横でじーっと見つめている。

 ただでさえ縁に似たその顔で見つめられると少々気まずさと気恥しさ、懐かしさと何とも言えない感情が込み上げてくる。


「アンタって見れば見る程美味そうだよな」


「··········」


 さっきも言っていた「美味そう」。
 普通に会話をしていたが、目の前の縁に似た繋も妖なのだ。

 見てくれはハロウィンの仮装の小道具にも見えるその羽は間違いなく彼から生えている。



「····ぁの····美味そうって····?」


 この妖も人を食らうのだろうか。


 美味そうと言うならそう言う意味なのだろう。


 顔を強ばらせて蒼白した結に繋は目を細めて口角を少し上げた。
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