死に別れた縁と私と異界の繋

海林檎

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 結の頭に刺さっている簪を見て姫雛が「どうしたの?それ」と、聞けば

「····あ、長に買って貰いました」

 と、照れくさそうにする結に姫雛の下瞼がピクリと動く。


「····へぇ···良かったわね~」


 それだけ言って姫雛は結の元から離れていった。








「姫雛」

 廊下を歩く姫雛をムギが呼び止める。
 機嫌の悪そうな表情を隠しもせずに姫雛がムギに振り返った。


「何でそんなに怒ってんの?」

「····アンタ。何も思わないの??」


 自分の町の長が人間に現を抜かしている事に。

「····あ~。うん、やっと長にも春が来たなって思ってるよ」

「はぁ!?」

 今まで意中の相手と言う者はいなかった繋がやっと興味を持ったのだ。


「相手は人間よ!?」

「人間でもいいじゃん」


 例え寿命の長さが違くても繋に大切な者が出来て心穏やかに送れるのならムギは二人の行方を応援するを言う。


「ありえないわ」

「寧ろ何で姫雛は反対なの?」


 首を傾げながらムギが問う。
 あえて問うているのだ。


 姫雛の気持ちを知っているから。
 けれど、姫雛には繋の心を射止める事は出来ない。


「あの娘は縁と言う死んだ恋人と長を重ねているだけじゃない」

「今はそうでも長が言ってたんじゃないの?」



 上塗りすればいいと····




「私は結がいつかその縁って子じゃなくて長自身を見てくれる事を信じてるよ」


「······でもさ···あの娘は」


 いつか、元の世界に帰る事を願っているのではないのか?
 帰れる事が出来た時、彼女は繋の事なんて忘れて人間の世界に帰るだろう。
 その時、置いていかれる繋の気持ちはどうなるのだ。


「だから、私は認めない」


「····そうだね。そうなった時は」



 繋が結を完全に射止める事が出来なかっただけだ。
 確かに、この世界に結を無理やり引き止めておく事は出来る。
 要は帰る手がかりがあっても隠蔽すればいいだけの事。
 それをしないのは公平ではないから。


「長は長自身の力で結を繋ぎ止めるつもりだよ」


 だから、邪魔をするなとムギは姫雛に忠告した。


「····アンタは悔しくないの?」

「全然。私は長に幸せになってほしいだけだもん」


 自分は仕事があるからと、手をヒラヒラしながらムギは自分の持ち場へと戻って行った。








 ------








「付けてくれてんだな」

「え?」

「簪」

 制服には似合わないかなと、思ったが
 意外と変ではなかったからせっかくだからと付けてみた。

「やっぱり似合っている」

「·········ぁりがと」


 照れる結をみて機嫌が良さそうに繋は仕事を再開した。
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