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王立貴族学院 一年目
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「これって売り物みたい、……って売ってたんだっけ?」
ハンカチに縁どられた繊細な色とりどりの花の数々。
なんとかステッチ、かんとかステッチの細かな作業が素晴らしい刺繍。
実はこれ、芸術品とも思える逸品をマリアが仕上げたらしい。
季節は廻り、もう夏休み目前。
学期を締めくくるテストも終わり、第2回となる成績発表がつい先日行われた。
オーラ組の騎士くんを除く面々は相変わらずの上位でマリアも騎士くんもどっこいどっこい。
わたしは前回の失敗を踏まえてがんばったものの結果は少し上昇した程度。
でもメアリは今回11位にまで上り詰めた! トップ10まであと少しっ!
そんな折、テストとは別に提出課題としてハンカチの刺繍があった。
これは淑女のたしなみの一環として身に付けなければならないものなんだけど、う~ん。
人には得手不得手があるといいたい。はい、わたしには向いてない。
もちろん苦手なお嬢様方もいることだし、とりあえずは及第点ギリギリラインのワンポイント刺繍でクリアした。
けど、マリアは違う。ワンポイントで苦戦するどころかもう作品といわんばかりの仕上がり。
訊けば平民時代にお母さんと一緒に縫物で生計を立ててたらしく針仕事が得意らしい。
で、実際に刺繍したものを買い取って貰って売ってたとか。うん、確かに売り物レベルだね。
ドジっ子と思ってたマリアにもこんな特技があったとは恐れ入りますっ!
もうずば抜けた才能だと思うし、学園でもトップな技術の持ち主なのではないかと思う。
先生がべた褒めしてたしね。さすがのお貴族令嬢様方も羨望の眼差しだった。
あのソフィアさんでさえ、何も言えず狼狽えてたし。
「うちで注文しようかしら……」
「メアリにそんな風に言ってもらえるなんて嬉しい」
マリアは目利きに優れてるメアリの誉め言葉として喜んでる。いや、そうじゃない、マジだよ、きっと。
メアリは片手を頬に当てながら本気の笑みを浮かべてた。
意外にもメアリもお裁縫は苦手らしい。同じく及第点ギリギリだったとか。
「もうすぐ夏期休暇だしね。時間もいっぱいあるからちょうど良かったりして」
学期末を無事に乗り切ったわたしは安堵感に溢れかえって浮かれている。
テストも課題もどうにか終わったし、重苦しい学院生活もしばらくはお休みでひやっほーい!
約1か月半ある長期休みを満喫するぞー! と開放感に満たされる。
休み中、二人に数回は会う約束を取り付けたものの、それ以外は特に何もない。
領地に引き篭もって勝手気ままに過ごせる! 何しようかなとワクワク。
はっきりいって宰相くん攻略のことは頭からすっぽ抜け。
しばらくは物理的にアイネさんたちと接触も断つことだし、問題ないよね?
という訳で今のところ、思いつくことといえば小豆の件。
手配してから早速餡子を作り、アンパンを二人に提供したら驚愕された。
豆を甘く煮るという発想がなかったこの世界では画期的なものだったらしい。
メアリの店ではこれを商品化して売りたいと許可申請まで取り付けようとする始末。
手続きに時間がかかるから流通するのはまだ先だろうけど、休みを利用してもっと極めてもいいかも。
餡子を使ったお菓子。和菓子の材料を見つけられたらもっと広がると構想は膨らむ。
と思ってたのに、何で?
「ラペーシュさん、貴方をお招きいたしますわ」
浮かれ気分で廊下を歩いていた時に突然、セレーヌさんからの招待状を差し出される。
「もちろん、参加されますわよね?」
何とも言えない圧のある微笑みを向けられ、わたしは固まる。
えっと、メアリじゃないよ。相手間違ってませんか?
思わず余計なことが過ぎり、現実逃避してしまう。
これは直接の申し出でほぼ拒否できない強制参加である招待だよね?
嫌々ながらも恭しく両手で受け取り、是非と優雅に笑ったつもり。
「……では楽しみにお待ちしておりますわ」
セレーヌさんは不敵な笑みを漏らし、踵を返すとその場から去っていく。
うおおぉ、なんてこったーい! 何故にわたしにこんなものを?
周囲を見回しながら誰もいなくなったのを確認し、思わず招待状を雑に開封してしまった。
一体、何の招待なのか。全くもって見当もつかない状況に困惑。
ウキウキだった気持ちが一転、思いっきり爆弾が投下される。
な、なんと夏期休暇中にセレーヌさんの領地、フラーグム領への滞在を示唆するものだった!!!
一度きりならまだしも毎週末ごとの滞在。
何が悲しくて夏休み期間、毎週公爵家へお泊りに行かなきゃならないのおおお?!
せっかく学院から物理的に解放され、誰にも会わないという休息期間だったのに、何で?
これじゃあ、何のための長期休暇なのかわかりゃしないよぉ。
がっくりと項垂れながらも同じようなご招待はマリアとメアリにもあったと翌日知った。
結局は何かこれもヒロインのしがらみっていう奴なのかい?
わたしらは拘束される運命ってやつ?
ハンカチに縁どられた繊細な色とりどりの花の数々。
なんとかステッチ、かんとかステッチの細かな作業が素晴らしい刺繍。
実はこれ、芸術品とも思える逸品をマリアが仕上げたらしい。
季節は廻り、もう夏休み目前。
学期を締めくくるテストも終わり、第2回となる成績発表がつい先日行われた。
オーラ組の騎士くんを除く面々は相変わらずの上位でマリアも騎士くんもどっこいどっこい。
わたしは前回の失敗を踏まえてがんばったものの結果は少し上昇した程度。
でもメアリは今回11位にまで上り詰めた! トップ10まであと少しっ!
そんな折、テストとは別に提出課題としてハンカチの刺繍があった。
これは淑女のたしなみの一環として身に付けなければならないものなんだけど、う~ん。
人には得手不得手があるといいたい。はい、わたしには向いてない。
もちろん苦手なお嬢様方もいることだし、とりあえずは及第点ギリギリラインのワンポイント刺繍でクリアした。
けど、マリアは違う。ワンポイントで苦戦するどころかもう作品といわんばかりの仕上がり。
訊けば平民時代にお母さんと一緒に縫物で生計を立ててたらしく針仕事が得意らしい。
で、実際に刺繍したものを買い取って貰って売ってたとか。うん、確かに売り物レベルだね。
ドジっ子と思ってたマリアにもこんな特技があったとは恐れ入りますっ!
もうずば抜けた才能だと思うし、学園でもトップな技術の持ち主なのではないかと思う。
先生がべた褒めしてたしね。さすがのお貴族令嬢様方も羨望の眼差しだった。
あのソフィアさんでさえ、何も言えず狼狽えてたし。
「うちで注文しようかしら……」
「メアリにそんな風に言ってもらえるなんて嬉しい」
マリアは目利きに優れてるメアリの誉め言葉として喜んでる。いや、そうじゃない、マジだよ、きっと。
メアリは片手を頬に当てながら本気の笑みを浮かべてた。
意外にもメアリもお裁縫は苦手らしい。同じく及第点ギリギリだったとか。
「もうすぐ夏期休暇だしね。時間もいっぱいあるからちょうど良かったりして」
学期末を無事に乗り切ったわたしは安堵感に溢れかえって浮かれている。
テストも課題もどうにか終わったし、重苦しい学院生活もしばらくはお休みでひやっほーい!
約1か月半ある長期休みを満喫するぞー! と開放感に満たされる。
休み中、二人に数回は会う約束を取り付けたものの、それ以外は特に何もない。
領地に引き篭もって勝手気ままに過ごせる! 何しようかなとワクワク。
はっきりいって宰相くん攻略のことは頭からすっぽ抜け。
しばらくは物理的にアイネさんたちと接触も断つことだし、問題ないよね?
という訳で今のところ、思いつくことといえば小豆の件。
手配してから早速餡子を作り、アンパンを二人に提供したら驚愕された。
豆を甘く煮るという発想がなかったこの世界では画期的なものだったらしい。
メアリの店ではこれを商品化して売りたいと許可申請まで取り付けようとする始末。
手続きに時間がかかるから流通するのはまだ先だろうけど、休みを利用してもっと極めてもいいかも。
餡子を使ったお菓子。和菓子の材料を見つけられたらもっと広がると構想は膨らむ。
と思ってたのに、何で?
「ラペーシュさん、貴方をお招きいたしますわ」
浮かれ気分で廊下を歩いていた時に突然、セレーヌさんからの招待状を差し出される。
「もちろん、参加されますわよね?」
何とも言えない圧のある微笑みを向けられ、わたしは固まる。
えっと、メアリじゃないよ。相手間違ってませんか?
思わず余計なことが過ぎり、現実逃避してしまう。
これは直接の申し出でほぼ拒否できない強制参加である招待だよね?
嫌々ながらも恭しく両手で受け取り、是非と優雅に笑ったつもり。
「……では楽しみにお待ちしておりますわ」
セレーヌさんは不敵な笑みを漏らし、踵を返すとその場から去っていく。
うおおぉ、なんてこったーい! 何故にわたしにこんなものを?
周囲を見回しながら誰もいなくなったのを確認し、思わず招待状を雑に開封してしまった。
一体、何の招待なのか。全くもって見当もつかない状況に困惑。
ウキウキだった気持ちが一転、思いっきり爆弾が投下される。
な、なんと夏期休暇中にセレーヌさんの領地、フラーグム領への滞在を示唆するものだった!!!
一度きりならまだしも毎週末ごとの滞在。
何が悲しくて夏休み期間、毎週公爵家へお泊りに行かなきゃならないのおおお?!
せっかく学院から物理的に解放され、誰にも会わないという休息期間だったのに、何で?
これじゃあ、何のための長期休暇なのかわかりゃしないよぉ。
がっくりと項垂れながらも同じようなご招待はマリアとメアリにもあったと翌日知った。
結局は何かこれもヒロインのしがらみっていう奴なのかい?
わたしらは拘束される運命ってやつ?
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