君を知るということ

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夢旅路

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首都圏と吾妻線沿線に点在する温泉地を結ぶ特急「草津」
二人掛けのゆったりとした指定席のシート、隣の席の凪は長旅の疲れかぐっすりと眠っている。
休日ダイヤでも一日で三本しかない以上、どうしても朝早くの便を利用する必要があった。

(お前こそ疲れてんじゃん)

人の心配ばかりして、少しは自分を気にしろと思う。
宿泊券が凪名義なためか、予約関連の手続き等は任せっきりになってしまった。
穏やかな寝息を立てる姿は、無防備な幼さが引き立つ。
しつこく俺の恋愛事情を聞き出そうとする先輩らにこの可愛いご尊顔を見せつけてやろうかと、ふと柄にも無い事を考えながらこっそりスマホのシヤッターを切った。

(…バレたら怒られるか)

「まもなく、長野原草津口に到着いたします。お忘れ物にご注意ください。」

車内アナウンスが終点を知らせる。
朝の9時に上野駅を出発して約二時間、窓の外には赤城山を中心に新緑の景色が広がっていた。

「…もう着いた?」

重い瞼を擦る凪に「行くぞ」と声をかける。
駅舎に降りると、都会とは違う新鮮な空気が吹き込む。


長野原草津口からバスに乗り換え三十分。
標高千二百メートル、群馬県の草津温泉街。
独特の匂いと活気が感じられる、レトロな外壁が立つ。
ターミナルの窓口で観光情報を入手し、現地の散策に出かける。

「遠出なんて修学旅行以来かも。」

「俺も大学の卒業旅行ぶりだな。」

就職してから遠出する機会もなくなった。
今日ぐらいは普段の生活を忘れて、羽を伸ばしてもいいだろう。
周囲の観光客の寛ぐ様子と共に歩を進める。

「あれ全部源泉か?」

「毎分四千リットルって、書いてある。」

凪が読み上げるガイドブックによると、ランドマークのような存在の湯畑は、辺りを一周出来るように石畳や木で造られた遊歩道に囲まれているらしい。
エメラルドグリーンの湯に光が反射して、幻想的な雰囲気だ。
しばらく歩くと、露店がずらりと並んだ道へ着く。

「腹減っただろ?亅

屋台で買ってきた揚げ饅頭と串焼きを持って来る。 
湯気の立つ地鶏を囓ると、柔らかい食感と香ばしい炭火の風味。

「こっちも食うか?亅

串を差し出すと凪は一瞬たじろぎながらも、一口頬張り「美味い亅と呟いた。
小動物のような仕草に笑みが綻ぶ。

「…ほら、不公平だろ?亅

代わりにと饅頭が口元に近づく。
これが俗に言うところの「あーん亅という奴か。
照れ隠しか、凪は目を反らしている。

「美味いよ、ありがとな。亅

馴れ初めらしい距離も相まって、一人の時よりも不思議と美味しく感じられる。

包み紙を指定のゴミ箱に捨て、同じ店でお土産用のお菓子を購入した。
俺は職場と親、凪も友達や寮に配るために買い、紙袋に入れてもらう。

「次はどうする?亅

「ガラス細工の工房を予約してある。お前、そういうの好きだろ?亅

「龍一の行きたい所じゃなくていいのかよ。亅

「誰と行くかの方が重要なんだ。亅

可愛い恋人の前では常に優位でいたい。
童心に帰った気持ちに成れるのも凪の隣だけだ。

「…ホント、ずるいんだよ。」

時間の許す限り、この夢旅路を楽しませてもらうとしよう。







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