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第二章 空中編

第二十一話 あと一日

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 翌朝、ラルドは目を覚ました。他の三人とほとんど同じタイミングで起きた。

「ラルド君、おはよう。何か夢は見た?」
「ニキスと夢の中で会ったんですよ。姉さんがまだ天界にいることと、昨日ボコボコにされてたあの子が生きていることを教えてもらいました」
「そう。昨日のあれは酷かったわね。地上人をサンドバッグにするなんて。でも、あの子が無事なら何よりだわ。さて、朝ご飯を作ろうかしらね」

 ジシャンは奥の部屋で朝食を作り始めた。二階からレイフとウォリアが降りてくる。

「二人ともおはようございます」
「ああ、おはよう」
「おはようラルド君」
「みんな起きたわね。さあ、朝ご飯にしましょ」

 ジシャンは焼いたサウスウオを持ってきた。

「うーん、パリパリしてて美味しいなぁ」
「生とはまた一味違うでしょう?」
「そうですね。中身はホクホクでメリハリがついてます」

 サウスウオを食べ終えた一行は、今日をどう過ごすかについて話し合っていた。

「私は一日中だらりとしていたいわね。明日はきっと激闘になるでしょうし」
「俺は逆に動き回りたいな。身体をほぐしたい」
「ラルド君、君はどうしたい?」
「僕は、テイムしてる奴らと話し合いたいです。きっと明日から使うことになるでしょうし、奴らの士気を高めたいです」
「なるほど。俺が何をやるかは後で決めるから、みんな、好きにしろ」
「この家の中に召喚すると邪魔になりそうだから、僕は外へ行きます」
「俺はこの国を走り回るかな、重い岩を持ちながら」
「じゃあ、二人は外へ出ていくんだな。俺もとりあえず外に出るか」
「レイフー。外に出るならついでに昼ご飯と夜ご飯になりそうなものを買ってきて」
「わかった。じゃあ、外へ出るか」

 男たちはジシャンの家を出ていった。
 ラルドはサウスから出て、テイムしている魔物たちと話し合っていた。

「ラルド、久しぶりだな。何か進展はあったか?」
「ああ。スカイで行われるトーナメントに出ることになった。絶対優勝して、天界に行くことと地上人への差別を無くすことを目標にしてる」
「それ、俺たちも出なきゃいけないか?」
「うん。みんなで協力して、優勝を目指そう」
「それに優勝すれば、いよいよサフィアの首を……ぐふふふふ」
「ヴィヒーン!」
「なんというか、個性的なメンバーだな……」

 エメたちを見たニキスは、困惑していた。

「ラルドよ、こいつらを使うなら私だけで大丈夫なんじゃないか? レイフたちもいるのだし」
「おー? ニキス、わかってるじゃないか。俺も出来れば戦いたくないから、その案を……」
「エメ、絶対出てもらうからな。もし出なかったら……」
「へへっ、冗談だよ。しかし、どうやって勝つつもりなんだ? 相手は未知の存在だぞ」
「エメは知らなかったな。僕たち、スカイにある闘技場でスカイ人の戦い方を見たんだ。対策は十分出来てる」
「それなら良いが。トーナメントって言うくらいだから、適当に行われてる戦闘に出る奴らとはわけが違う奴らが出てくるんじゃないか」
「うーん確かに。でも、お前たちがいれば負けるはずないさ。地上人を差別する奴らの度肝を抜いてやる」
「そういえば地上人だとバレちゃいけないんだったな。でもだとしたら、トーナメントにはスカイ人に化けて出るのか?」
「いいや。地上人でもトーナメントに出られる紙をもらってるんだ。だから明日は地上人として足を運ぶ」
「行くのは空だけどな。ははは!」

 ニキス渾身のギャグで、周りの空気が凍りついた。ニキスは察して謝った。

「……すまん、話を続けてくれ」
「スカイ人の戦い方を見たって言ったな。どんな戦い方だったか、俺たちに教えてくれないか? ほら、フンスもメジスもこっちこい」
「あ?」
「ヴィヒーン!」
「まず、翼のはえてる奴らは、当然空から攻撃しようとしてくる。これはニキスを倒したときと同じやり方で良いだろう。問題は翼のはえてない者たちだ。奴らはリーチの長い武器を使って戦う。これは僕たちが呪文でなんとかするから、お前たちは奴らの攻撃を受け流してくれ」
「わかった。じゃあ、これで作戦会議はおしまいか?」
「うん。話したいことは全部話した」
「じゃあ最後、誓おう」

 ニキスは手を前へ出した。

「お前たち、私の手の上に手を重ねなさい。明日に向けてテンションを高めておこう」

 ラルドたちは手を(メジスは前足を)重ねた。そして、ニキスが叫ぶ。

「明日から始まるトーナメント、必ず優勝するぞ!」
「「「おおーー!」」」
「ヴィヒーン!」

 叫ぶと同時に手を天へ掲げた。士気は十分に高まっただろう。

「それじゃあみんな、また明日会おうな」

 ラルドは魔法陣を作り、エメたちを元の場所へ送った。
 その後、ラルドはジシャンの家へ戻ろうとした。そのとき、ふと空を見ると、ワイバーンが飛んでいた。

「そういえばカタラはワイバーンをテイムしてたな。あいつら、結局どうしたんだろう」

 ラルドは視界を前にし、歩いていった。
 一方、家でだらりとすると言っていたジシャンは、ソファに横になりながら、とあることを考え続けていた。

(スカイの魔導機、見てくるの忘れちゃったわ。ラルド君に渡した地図にはスカイのことなんか描いてないし……)
「ジシャン様ー。ラルドです。開けてください」
「はーい、今行くわ」

 ジシャンは起き上がり、玄関に向かった。扉を開け、ラルドを中へ迎え入れた。

「まだレイフ様とウォリア様は帰ってきてないんですね」
「そうね。ウォリアはともかく、レイフは買い物だけならこんなに時間がかかることもないと思うのだけれど」
「何を食べるかで悩んでるのかもしれませんね」
「もうすぐお昼だし、そろそろ二人とも帰ってきてほしいんだけど」

 そのとき、入り口の扉がノックされた。それと同時に声が聞こえた。

「ジシャン、帰ったぞ」
「噂をすれば」

 ジシャンは玄関の扉を開け、二人を迎えた。

「二人ともおかえりなさい。レイフは何を買ってきたの?」
「また魚じゃ飽きると思ったから、ウルフの肉を買ってきた。ちょうど解体ショーをやってたんだ」
「私は解体ショーはあまり好きじゃないわ……」
「そうだったな。すまん、一言余計だった」
「いいえ、大丈夫よ。じゃあ焼くから、その肉ちょうだい」

 レイフはウルフの肉が入ったバッグをもらい、そのまま奥の部屋へ行った。ジシャンが調理をする中、ラルドはウォリアに訊ねる。

「ウォリア様、身体はほぐれましたか?」
「まだ納得いかないな。昼飯を食ったらまた外を走り回ろうと思ってる」
「レイフ様はどうします?」
「俺もちょっと散歩してくるかな。最近戦ってないし、国の外で魔物でも狩ってくる。ラルド君はどうするのかな」
「僕はテイムしてる奴らの士気を高められたし、今日はもう休もうと思ってます」
「そうか。じゃあ、外に出るのは俺とウォリアだけだな」
「はーいおまたせ。焼いてきたわよ」

 話が終わる頃、ジシャンは焼いたウルフの肉を持ってきた。肉の焼けた美味しそうな匂いがする。男三人はあっという間に食べ終えた。

「ふぅ、食った食った。これで今からも運動出来そうだ。じゃあ、ちょっくら行ってくるわ」
「俺も散歩してくる。ラルド君はここに残るらしいから、よろしくな」
「いってらっしゃい。日が沈む前には帰ってきてね」
「俺らは子供じゃねーぞ」

 二人は外へ出ていった。
 家に残ったラルドとジシャンは、しばらくソファに横になっていた。唐突に、ジシャンがラルドに話しかける。

「ラルド君、スカイにも魔導機ってあると思う?」
「あ、そういえば確認してなかったですね。ニキスに聞いてきます」

 ラルドは起き上がり、急いでサウスの外へ出ていった。

「いでよ! ニキス!」
「なんだ? まだ話し足りないことでもあったか?」
「スカイに魔導機ってあるか?」
「それだけのことか。あるぞ、とびっきりのやつがな」
「教えてくれてありがとう。じゃあ、今度呼んだときはよろしくな」

 ニキスは魔法陣の中へ消えていった。

「ジシャン様、どうやらスカイにも魔導機があるらしいです。しかも、とびっきりのやつが」

 息を切らしながら、ニキスから聞いたことを伝えるラルド。ジシャンはそれを聞いて安心したようだ。

「良かった。それなら、あなたでも呪文が使えるわね。はぁ~あ。なんだか安心したら、眠たくなってきちゃったわ。私は寝るけど、ラルド君はどうする?」
「僕も寝ようと思います。もうやることもないですし」
「じゃあ、あかりを消しておくわね。おやすみなさい」

 明日に向けて、一行は準備を整えた。
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