上 下
38 / 81
第三章 ウスト遺跡編

第三十七話 対立

しおりを挟む
「ふぅ、久々の我が家だ」

 一行の一番前で走っていたレイフは、久しぶりに帰った自分の家を見上げる。以前と変わらず、ピカピカと輝いている。

「さあラルド君。ホースたちをしまってくれ」
「はい」

 ラルドは全員のホースを元の場所へ還した。地面に足をつけたレイフが、入り口に歩き、扉を開いた。

「ご主人様、お帰りなさいませ」
「キャイ、しばらく一人で寂しかっただろう? 久しぶりに帰ってきたぞ」

 レイフはキャイを抱きしめる。キャイはにっこりしている。

「さあみんな、どうぞ上がって」

 一行はレイフの家に入った。いつもの部屋へ連れられ、そこにある椅子に座った。

「はぁ、一ヶ月……か。ここに初めてラルド君が来たときから今までよりも長い時間なんだな。あのときの初々しいラルド君が、今じゃ竜を従えるほどのテイマーだもんなぁ」
「いえ、全てレイフ様がくれたこの本のおかげです。僕自身は何も成長していません」
「あら、呪文が使えるようになったじゃない」
「それはそうですけど、テイマーとしては全く成長出来ていません」
「……そんなに言うなら、一度あの何かをテイムしてみないか? それが出来れば、テイマーとして成長した証になるだろう」
「カタラでも無理だった。僕になんか出来るはずがないです」
「やってみなきゃわからないじゃないか。やっぱり俺たちはウスト遺跡に行くべきだ」

 そう話していると、扉がノックされる音が聞こえた。それと同時に、怒号も聞こえた。

「おい、レイフ! お前がここにいるのはわかってるぞ! 早く出てこい!」
「この声は……父さんか。村から出られないって言ってたのに、なんの用事だろう」
「ラルドでも誰でも良いから、誰か出てこい! さもなくば、こんな家吹き飛ばすぞ!」
「仕方ない、俺が出るよ。みんなはここで待っていてくれ」

 レイフは立ち上がると、玄関に向かった。扉の穴から覗くと、ルビーのみが立っていた。扉を何度も叩き続けるルビーを見て、レイフは唾を飲んだ。そして、扉を開けた。

「はい、何用でしょう」
「お前だな! お前が俺の息子に手を出したんだな!」
「そうでもしないと止まりませんよ、彼は。それで、俺たちになんか用事でもあるんですか」
「大ありだ! レイフ、お前を死刑にしてやる!」

 ルビーは懐からナイフを取り出し、レイフの心臓めがけて突く。しかし、それは簡単に避けられてしまった。レイフはすぐにナイフを奪い、握り潰した。レイフの指から、血がポタポタと垂れる。

「今の手は汚いですね。サフィアの父親とは思えないほどですよ。やるなら正々堂々やりましょう」
「くっ、おのれ……ラルドを呼んでこい。俺はラルドを連れて村へ戻る」
「お断りです。前にも話しましたが、彼は王から選ばれた者です。あなたの権力より王の権力の方が強いのは言うまでもないでしょう」
「ならば勝負だ。ナイフなぞなくてもお前を殺すことは出来る。俺が勝ったら、ラルドを大人しく渡せ」
(そんな権利はないってのに、このじじい……本当にこんな奴の子供がサフィアとラルド君なのか?)
「まあ、良いでしょう。勝敗は見えていますがね。裏へ回ってください。そこでやりあいましょう」

 それを聞いたルビーは、大人しく裏へ向かった。レイフはいつもの部屋へ行き、事情を説明した。

「勝負って、殺し合いではないですよね? もし父さんが死んだら、僕……」
「大丈夫だ。向こうは殺意全開で挑んでくるだろうが、俺は本気を出すまでもないだろうから、死ぬことなんかないよ」
「それなら良いですが……」
「俺の強さは知ってるだろう? 殺す能力に特化した殺し屋なんかじゃなくて、世界を救うための力を振るう勇者だからな」
「急に自慢しだしたな」
「うっ。こ、このくらい言わないとラルド君が心配するだろう?」

 レイフは小声でウォリアにそう言う。恥ずかしくなったレイフは、急いで裏庭に走っていった。

「勝負が過激になったら大変だ。ストッパーとして俺たちが横から見ていよう」

 他の者たちも、裏庭へ向かった。
 裏庭では、既に勝負が行われていた。ルビーはテイムする魔物や動物を大量に呼び出し、数の暴力で押そうとしている。レイフは一匹一匹を風の呪文で気絶させながら、ルビーの元へ少しずつ歩み寄っていく。

「どうしたのですか? これがあなたの本気ですか?」
「くそぉ、おい、お前たち! もっと本気でやるんだ!」

 ルビーは魔物や動物たちを鼓舞する。しかし、レイフの前では本気を出した者たちも軽く気絶させられてしまう。やがて、レイフはルビーの喉元に鞘に収めたままの剣を突きつけた。

「まだやりますか?」
「なぜ剣を鞘に収めているのだ。俺をなめているのか」
「あなたが死ぬとラルド君が悲しむからですよ。ここは大人しく手を引いてくれませんかね」
「……仕方ない」
「あ、それじゃあ手を「俺は本気を出すぞ! レイフ!」
「なに!」

 ルビーはもう一度ナイフを取り出し、至近距離に迫っていたレイフを突き刺そうとした。レイフは間一髪それを避ける。ナイフを奪い、今度は踏み潰した。

「どういうつもりですか? 一度見破られた行為をもう一度するなんて」

 ルビーは後ろに思い切り跳ぶ。それと同時に、何本ものナイフをレイフめがけて投げてきた。それを全て避けきったラルドに、まだナイフが飛んでくる。

「ひぇー、あんな特技を隠し持ってるとは……」
「オラオラ! あと何本避けられるかな?」

 無尽蔵に繰り出される投げナイフを全てかわしていくレイフ。少し疲れが見え始めた。

「フフフ。あと少しで、勝てる……間違いない」
(くそ、あのナイフの量はなんだ? どうやって出しているんだ? それさえわかれば止められるのに……)
「父さん、あんなことが出来たんだ……」
「あら、ラルド君、知らなかったの?」
「あんな父さん、見たことないです」
「どうだ、レイフ? そろそろ避けるのもしんどくなってきたんじゃないか?」
「ふぅ……なぁに、まだまだ余裕さ」
「そうか。ならば更に投げるとしよう」

 ナイフの数が増え、より避け辛くなった。それでも全ナイフを避けるレイフ。避けながら少しずつ近づくが、バックステップですぐに逃げられてしまう。

(懐からずっと取り出してるってことは、あそこに秘密があるんだろうけど、下手に攻撃すりゃ死んじまうかもしれない……どう行くべきか)
「フハハ、どうしたレイフよ。お前の力はその程度か?」
(とにかくまずはバックステップを止めよう。あれを止めなきゃ、このまま勝負が長引くだけだ)

 再び至近距離に近づいたレイフ。バックステップで逃げようとするルビーを、風の呪文で無理矢理引き寄せた。そして、鞘にしまったままの剣で、ルビーの胸部を思い切り叩いた。

「ぐはっ!」
「やはり懐に秘密があったか」

 ルビーはその場に座り込み、胸を両腕で庇っている。自分の胸に夢中なルビーに、レイフは鞘にしまったままの剣を突きつけた。

「もうやめましょうよ、こんなこと。ラルド君のあの顔を見てくださいよ。彼はこんなこと望んでいない」

 ルビーはラルドの方を見る。ラルドは、ただただ寂しそうな顔をしていた。

「ふん。お前の方こそずるいじゃないか。ラルドを盾にして、俺に手を引かせようとするなど」
「じゃあ、あんたは自分の息子を盾に勇者を襲った不届き者になるぞ。これ以上戦っても罪を重ねるだけだ。もうやめましょう」
「……ならば、俺が直々に王に会って話をしてくる。震えて待ってろ」
「何を話すって言うんですか」
「ラルドを今すぐサフィア捜索会から抜けさせることだ。王の決定と言うのならば、その王に抜けるのを頼めば良い」
「どうせ断られますよ。そんなに熱くならないでください」
「誰がなんと言おうと、俺は行く」

 そう言うとルビーはベッサ城へ向かっていった。
 家の中に戻ったレイフは、キャイを呼ぶ。すぐに出てきた。

「キャイ、一つ頼み事があるんだ。やってくれるか?」
「はい。何をすれば良いのですか?」
「実はな……」
「なるほど、そういうことでしたか。わかりました。行ってきます」
「気をつけてなー」

 レイフがキャイと喋り終える頃、他の者たちもレイフの家に入ってきた。

「ラルド君、約束通り、殺さずに勝負を終わらせられたよ」
「ありがとうございます……って言うべきなんですかね」
「別に強制的に感謝しろとは言わないよ。さ、さっきの話の続きをしよう」

 一行はいつもの部屋へと戻っていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:120

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:3,209pt お気に入り:15

冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:174

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:41,609pt お気に入り:784

処理中です...