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開き直った男は強い
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別に悪いことをしてるわけじゃないからいいだろ、と言われたが、俺にはコイツが白い目で見られることになるのだけは堪えられない。
それに、いずれノンケに戻るのだから、俺と付き合っていたことなんて知られない方がいいはずだ。
だから、他の人に知られたくないのは、俺が照れてしまうからだ、と嘘の理由を告げれば、アイツはあっさりと頷いてくれた。
そういうことなら早く言えよ、と繋いだ手を離しながら言われて、ごめんと返すのが精一杯だった。
この手はいつか、誰か知らない女のものになる。
それは予感ではなく、いずれ現実になる未来の話だ。
だから、これは予行練習なのだと、何度も繰り返し自分に言い聞かせる。
事実だとわかっていても、納得するのにずいぶんと時間がかかってしまった。
コイツの愛は、いつだってまっすぐ俺を包み込んでくれる。
それが、期限付きのものだとしても、俺にはものすごく嬉しかったのだ。
「へっ? お前、そんなこと思ってたのかよ!」
涙目になってしまったのを、うつむいて隠そうとしたら、アイツに肩をがしっと掴まれた。
その瞬間、目から涙がぽろっとこぼれ、床に向かって落ちていくのが、やけにはっきり見えた気がする。
「飽きてないから! オレは、ぜんっぜん、飽きてないからな!」
「……飽きて、ないのか……?」
びっくりして、目をぱちぱちとしたら、アイツの顔がくしゃっと歪んだ。
あ、これは、泣きそうになってる顔だ、と思うけれど、どうしていいかわからない。
泣きたいのは、俺の方だ。
「逆に、なんで飽きてるなんて思うんだよ。オレたち、毎日セックスしてるだろ」
「……だって、一回しか、しないだろ……すぐ、終わるし……」
俺と同じくらい動揺してるアイツが言う質問に、ぽつりぽつりと答えれば、思いきりがばっと抱きしめられてびっくりする。
肩にあごを置かれながら、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて涙が引っ込んだ。
「……あのなぁ、毎日一回しかしないのは、オレがものすごーく我慢してるからなんだからな! あとな、すぐに終わってるんじゃなくて、オレが終わらせてるの! ちゃんとコントロールしてるんだからな! まるで、オレが早漏みたいな言い方するなよ、泣くぞ!」
それから、想像していなかった言葉が出てきて、どうしていいかわからなくなる。
「……お、終わらせてるって、どういうことだよ。一回やったら、お前はさっさと寝ちゃうだろ」
「はぁ……っ、それ、寝てないから」
「えっ、寝てないの……? えっ、だって、ゴムを捨てたら、おやすみって……すぐにいびきをかいて寝ちゃってるだろ?」
「それ、寝たふりだから。あのなぁ、おやすみって言ったからって、すぐに寝れるわけないだろ。しかも、やったばっかのお前の隣で、すぐに寝れるわけがないからな!」
そこからは、驚きの連続だった。
お前はいつでもエロすぎる、という苦情なのか褒め言葉なのかわからない話からはじまり、オレとお前の体の相性は最高なんだと力説された。
そして、付き合いはじめの頃、毎晩数時間のセックスを繰り返していたせいで、寝不足になった俺がバイト先で足を滑らせて階段から落ちた時の話になる。
俺としては、そんなこともあったな、というくらいの認識だったが、コイツにとってはかなりのトラウマものだったらしい。
怪我は大したことがなかったけれど、尻にできた大きなアザを見て、このままではいけないと一念発起するくらい衝撃的だったようだ。
当たりどころが悪ければ、最悪死んでいたかも知れないんだぞ、と鬼気迫る真剣な顔で言われてしまえば、笑い飛ばすことなどできるわけがない。
こちらもできるだけ真剣な顔を作って頷き返せば、アイツはつり上げていた眉を少しだけへにょりと下げて話を続ける。
それから、セックス時間の短縮に励むことにしたということ、我慢できるようになるまで三年かかったこと、いまでも毎回血の滲むような努力で二回目を我慢して寝たふりをしていることなど、俺の知らなかったアイツの努力について語られた。
ついでに、俺がしょんぼりして眠ったあと、コイツはトイレにこもってさらに数回抜いてることも聞かされる。
コイツ、俺がセックスしたあと、しょんぼりしてたのに気が付いてたのかよ。
気付いてたんならフォローしろよ、恥ずかしいだろうが。
それに、いずれノンケに戻るのだから、俺と付き合っていたことなんて知られない方がいいはずだ。
だから、他の人に知られたくないのは、俺が照れてしまうからだ、と嘘の理由を告げれば、アイツはあっさりと頷いてくれた。
そういうことなら早く言えよ、と繋いだ手を離しながら言われて、ごめんと返すのが精一杯だった。
この手はいつか、誰か知らない女のものになる。
それは予感ではなく、いずれ現実になる未来の話だ。
だから、これは予行練習なのだと、何度も繰り返し自分に言い聞かせる。
事実だとわかっていても、納得するのにずいぶんと時間がかかってしまった。
コイツの愛は、いつだってまっすぐ俺を包み込んでくれる。
それが、期限付きのものだとしても、俺にはものすごく嬉しかったのだ。
「へっ? お前、そんなこと思ってたのかよ!」
涙目になってしまったのを、うつむいて隠そうとしたら、アイツに肩をがしっと掴まれた。
その瞬間、目から涙がぽろっとこぼれ、床に向かって落ちていくのが、やけにはっきり見えた気がする。
「飽きてないから! オレは、ぜんっぜん、飽きてないからな!」
「……飽きて、ないのか……?」
びっくりして、目をぱちぱちとしたら、アイツの顔がくしゃっと歪んだ。
あ、これは、泣きそうになってる顔だ、と思うけれど、どうしていいかわからない。
泣きたいのは、俺の方だ。
「逆に、なんで飽きてるなんて思うんだよ。オレたち、毎日セックスしてるだろ」
「……だって、一回しか、しないだろ……すぐ、終わるし……」
俺と同じくらい動揺してるアイツが言う質問に、ぽつりぽつりと答えれば、思いきりがばっと抱きしめられてびっくりする。
肩にあごを置かれながら、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて涙が引っ込んだ。
「……あのなぁ、毎日一回しかしないのは、オレがものすごーく我慢してるからなんだからな! あとな、すぐに終わってるんじゃなくて、オレが終わらせてるの! ちゃんとコントロールしてるんだからな! まるで、オレが早漏みたいな言い方するなよ、泣くぞ!」
それから、想像していなかった言葉が出てきて、どうしていいかわからなくなる。
「……お、終わらせてるって、どういうことだよ。一回やったら、お前はさっさと寝ちゃうだろ」
「はぁ……っ、それ、寝てないから」
「えっ、寝てないの……? えっ、だって、ゴムを捨てたら、おやすみって……すぐにいびきをかいて寝ちゃってるだろ?」
「それ、寝たふりだから。あのなぁ、おやすみって言ったからって、すぐに寝れるわけないだろ。しかも、やったばっかのお前の隣で、すぐに寝れるわけがないからな!」
そこからは、驚きの連続だった。
お前はいつでもエロすぎる、という苦情なのか褒め言葉なのかわからない話からはじまり、オレとお前の体の相性は最高なんだと力説された。
そして、付き合いはじめの頃、毎晩数時間のセックスを繰り返していたせいで、寝不足になった俺がバイト先で足を滑らせて階段から落ちた時の話になる。
俺としては、そんなこともあったな、というくらいの認識だったが、コイツにとってはかなりのトラウマものだったらしい。
怪我は大したことがなかったけれど、尻にできた大きなアザを見て、このままではいけないと一念発起するくらい衝撃的だったようだ。
当たりどころが悪ければ、最悪死んでいたかも知れないんだぞ、と鬼気迫る真剣な顔で言われてしまえば、笑い飛ばすことなどできるわけがない。
こちらもできるだけ真剣な顔を作って頷き返せば、アイツはつり上げていた眉を少しだけへにょりと下げて話を続ける。
それから、セックス時間の短縮に励むことにしたということ、我慢できるようになるまで三年かかったこと、いまでも毎回血の滲むような努力で二回目を我慢して寝たふりをしていることなど、俺の知らなかったアイツの努力について語られた。
ついでに、俺がしょんぼりして眠ったあと、コイツはトイレにこもってさらに数回抜いてることも聞かされる。
コイツ、俺がセックスしたあと、しょんぼりしてたのに気が付いてたのかよ。
気付いてたんならフォローしろよ、恥ずかしいだろうが。
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