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悪役令息は初夜を迎えたようです
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それから程なくして、僕とエルヴィスはあっさりと婚姻した。国を上げての盛大な婚姻の儀。人々は微笑む僕達を見て口々に意見を交わす。まるで絵本の中に出てくる美女と野獣のようだと言う者もいたし、釣り合わないと嘆く者もいた。
国一美しいと謳われるカレンデュラ=デイドリームが、国一醜い王子へと嫁いだことは瞬く間に世間に広がり、その注目を一身に受けていた僕達は相反する感情をその身の内に宿している。
初夜、夫婦の寝室として用意されている部屋のベッドに腰掛けて、僕は止まらない笑いを漏らしていた。笑いを堪えているせいで震える手元には、キラリと光る指輪が付けられている。儀式中、ずっと聞こえてくる言葉たち。
それを受けてなお、笑みを崩さないエルヴィスの瞳に怒りが宿っているのを、隣で見ていた僕だけが気が付いていた。
あの顔を隣で見られるなんて、最高の一日だった。途中何度も腹を抱えて笑いそうになったよ。
「あははは、笑うのをもう我慢できない。最高だね君は」
少し離れた位置に腰掛けて、僕のことを睨んでいるエルヴィスを褒めてやる。隠すことなく舌打ちをしたエルヴィスがゆっくりと僕の方へ近づいてきた。
「そんなに面白いか」
「当たり前だろ。前世では持て囃されていた君が、今世では醜いと罵られている。それを間近で見れるなんて、笑わずにいられるとでも?」
「歪んでる」
「それはお互い様だろ」
近づいてきたエルヴィスの首に腕を回しながら、妖艶に微笑んでやる。そうすれば、眉間に皺を寄せて大層嫌そうに顔を歪めてくれるんだ。その顔をずっと見ていたい。
「一生傍にいるよ。僕の旦那様」
「やめろ。お前を妻とは認めないし、抱く気もない」
「初夜なのに冷たいね」
「いいから離れろ」
無理矢理引き離そうとしてくるエルヴィスにしがみついたまま、身体をベッドの方へと傾けてやる。音を立てて、二人同時に柔らかな戦場へと横たわると、呻いているエルヴィスの上に股がって、隠し持っていた薬を彼の口元へと差し出した。
「自分で抱くか、犯されるか決めさせてあげる」
「ふざけるな」
「医師の検査で、子はいないと言われただろう。だから、君は僕を抱かなければいけない」
「ふざけるな!!」
怒ったエルヴィスが無理矢理身体を反転させて、僕はそのまま組み敷かれてしまった。手から薬が零れ落ちて、床へと転がる。余裕のない表情で睨みつけてくるエルヴィスに、真逆の表情を向けてやると、ギリッと奥歯を食いしばる音が聴こえてきた。
「俺に力で勝てると思っているのか?いいか、お前を抱くことは決してない!!」
「嫌でも抱かないといけなくなる日が来るよ」
「お前を抱くくらいなら、端女を抱いた方がマシだ」
「なら、そうしなよ。出来るものならね」
そんなことをすれば、エルヴィスの立場は更に悪くなってしまうだろう。それに、女神の化身とまで言われ、王家と根深い関係にあるデイドリーム家を敵に回すのは、エルヴィスだって避けたいはずだ。
まあ、そもそも醜い人間と関係を持とうと思う人はあまりいないだろうけれどね。
余裕の態度を崩さない僕に、もう一度舌打ちをしてから、エルヴィスが体を起こした。そのまま僕を置いて部屋を出ていった彼を視線で追いかける。閉まってしまった扉を見つめながら、小さく溜息をこぼす。
やってみろと焚き付けておきながら、彼が他の女を抱くのを想像すると腹が立つ。そんなことを思うのは、僕の初めてを捧げたのがエルヴィスだったからだろうか。
(初夜にひとりぼっちか……)
自分の招いた結果だとしても寂しいと思ってしまうし、悲しい。前までならこんなこと思わなかったはずなのに、前世の記憶を取り戻してから心が弱くなった気がする。
温もりの消えたベッドに横たわって、微かに痛む心に蓋をするかのように目を閉じた。昔もこうやって、嫌なことがあると固く目を閉じて現実から逃げようと悪足掻きしていた。
でも、嫌なことから逃げられたことなんて一度もない。だから、きっと目が覚めたら、やっぱり僕はひとりぼっちなんだろうなって思ったんだ。
国一美しいと謳われるカレンデュラ=デイドリームが、国一醜い王子へと嫁いだことは瞬く間に世間に広がり、その注目を一身に受けていた僕達は相反する感情をその身の内に宿している。
初夜、夫婦の寝室として用意されている部屋のベッドに腰掛けて、僕は止まらない笑いを漏らしていた。笑いを堪えているせいで震える手元には、キラリと光る指輪が付けられている。儀式中、ずっと聞こえてくる言葉たち。
それを受けてなお、笑みを崩さないエルヴィスの瞳に怒りが宿っているのを、隣で見ていた僕だけが気が付いていた。
あの顔を隣で見られるなんて、最高の一日だった。途中何度も腹を抱えて笑いそうになったよ。
「あははは、笑うのをもう我慢できない。最高だね君は」
少し離れた位置に腰掛けて、僕のことを睨んでいるエルヴィスを褒めてやる。隠すことなく舌打ちをしたエルヴィスがゆっくりと僕の方へ近づいてきた。
「そんなに面白いか」
「当たり前だろ。前世では持て囃されていた君が、今世では醜いと罵られている。それを間近で見れるなんて、笑わずにいられるとでも?」
「歪んでる」
「それはお互い様だろ」
近づいてきたエルヴィスの首に腕を回しながら、妖艶に微笑んでやる。そうすれば、眉間に皺を寄せて大層嫌そうに顔を歪めてくれるんだ。その顔をずっと見ていたい。
「一生傍にいるよ。僕の旦那様」
「やめろ。お前を妻とは認めないし、抱く気もない」
「初夜なのに冷たいね」
「いいから離れろ」
無理矢理引き離そうとしてくるエルヴィスにしがみついたまま、身体をベッドの方へと傾けてやる。音を立てて、二人同時に柔らかな戦場へと横たわると、呻いているエルヴィスの上に股がって、隠し持っていた薬を彼の口元へと差し出した。
「自分で抱くか、犯されるか決めさせてあげる」
「ふざけるな」
「医師の検査で、子はいないと言われただろう。だから、君は僕を抱かなければいけない」
「ふざけるな!!」
怒ったエルヴィスが無理矢理身体を反転させて、僕はそのまま組み敷かれてしまった。手から薬が零れ落ちて、床へと転がる。余裕のない表情で睨みつけてくるエルヴィスに、真逆の表情を向けてやると、ギリッと奥歯を食いしばる音が聴こえてきた。
「俺に力で勝てると思っているのか?いいか、お前を抱くことは決してない!!」
「嫌でも抱かないといけなくなる日が来るよ」
「お前を抱くくらいなら、端女を抱いた方がマシだ」
「なら、そうしなよ。出来るものならね」
そんなことをすれば、エルヴィスの立場は更に悪くなってしまうだろう。それに、女神の化身とまで言われ、王家と根深い関係にあるデイドリーム家を敵に回すのは、エルヴィスだって避けたいはずだ。
まあ、そもそも醜い人間と関係を持とうと思う人はあまりいないだろうけれどね。
余裕の態度を崩さない僕に、もう一度舌打ちをしてから、エルヴィスが体を起こした。そのまま僕を置いて部屋を出ていった彼を視線で追いかける。閉まってしまった扉を見つめながら、小さく溜息をこぼす。
やってみろと焚き付けておきながら、彼が他の女を抱くのを想像すると腹が立つ。そんなことを思うのは、僕の初めてを捧げたのがエルヴィスだったからだろうか。
(初夜にひとりぼっちか……)
自分の招いた結果だとしても寂しいと思ってしまうし、悲しい。前までならこんなこと思わなかったはずなのに、前世の記憶を取り戻してから心が弱くなった気がする。
温もりの消えたベッドに横たわって、微かに痛む心に蓋をするかのように目を閉じた。昔もこうやって、嫌なことがあると固く目を閉じて現実から逃げようと悪足掻きしていた。
でも、嫌なことから逃げられたことなんて一度もない。だから、きっと目が覚めたら、やっぱり僕はひとりぼっちなんだろうなって思ったんだ。
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