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悪役令息は噛み返したようです①
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誰かに触れられている感覚がして、薄く目を開けた。長くて大きな指が視界に入って、続いてエメラルドの瞳と目が合う。
「……なんで」
僕のつぶやきを聞いて、起きたことを察したエルヴィスが手を離す。その手が離れてしまうのが寂しくて、寝ぼけた思考で無意識に手を掴んだ。
「っ!」
「もう少し、このままでいて」
頬を手へと擦り寄せながら、また目を閉じる。夢でもいい。それでも、起きた時にひとりぼっちじゃなかったことが嬉しかった。だから、あとほんの少しだけ、この温かな夢を見させて欲しい。
「……日野、お前をいじめるつもりなんてなかったんだ。お前を殺してしまうつもりなんてなかった……」
暗闇に沈む途中、エルヴィスがなにかを言った気がしたけれど、それは微睡みに掻き消されて、耳に届くことは無かった。
目を覚ますと、視界いっぱいにエルヴィスの顔があって息を飲んだ。一人で眠りについたはずなのに、どうしてエルヴィスが隣で眠っているのか分からない。混乱する頭を必死に動かしながら、とりあえず距離を開けようと、身体を動かす。
「……大人しくしていろ」
そうしたら、なぜか腰に腕を回されて引き寄せられてしまった。
(な、なにこれ……なんでこんなことに)
エルヴィスは僕のことを嫌っているはずだし、僕だって別にエルヴィスのことなんて好きじゃない。自分を陥れようとしている相手を抱きしめるなんてどうかしてるし、僕のことを抱く気はないんじゃなかったのか?
混乱して思考が上手くまとまらない。当の本人は僕を抱き枕代わりにしながら気持ちよさそうに眠っている。
「どういうつもり?」
「……」
「なにか言わないとキスしちゃうよ。大嫌いな人間にキスされるなんて嫌じゃないかい?」
「……」
「寝ぼけてるの?僕は枕じゃないんだけど」
「……少し黙ってくれ」
「わっ!んぷ……」
頭ごと胸に抱き込まれて喋れなくされてしまう。苦しいのに、温かくて、逞しい腕と、硬いのに、包み込むような胸筋の感覚に鼓動がやけに早く跳ねる。こんなのどう考えてもおかしい。昨夜は甘さなんて一欠片もなかったのに、今はまるで真逆だ。
「お前は俺が憎いのか」
「……当たり前でしょ」
「俺もお前が憎い。憎くて、憎すぎて、それが逆に愛おしく感じるほどにな」
「なにそれ。頭でも打ったわけ?」
「散々日野のことをいじめてきたし、ブスでマヌケで、見ていてイラつくのは変わらない。でも、殺すつもりなんてなかった。死んで欲しいなんて思ってなかった」
エルヴィスの勝手な言い分に腹が立つのに、どう返したらいいのか迷ってしまう。僕のことを包み込む温かさが、言葉を紡ぐことを阻んでいる気がするんだ。夏月ならこんなとき、なんて答えるのかな。
きっと、こう言うのだろう。
「でも、消えて欲しかったんでしょ。阿佐谷くんは僕のこと嫌っていたんでしょ。僕はね、君のことが好きだった。なにをされても、君のことだけが好きだった。阿佐谷くんだけが僕に優しさをくれたから。だからこそ、僕は君の望む通りに、君の前から消えたんじゃないか」
夏月の真似をして言葉を紡ぐ。エルヴィスは僕を離すと、驚きと悲しさに染った瞳で真っ直ぐに顔を見つめてきた。
「日野、なのか?」
「……違うよ」
否定した瞬間、エルヴィスの顔がクシャリと歪む。今にも泣き出しそうなその顔を見て、僕の心が揺らいだ。
「……なんで」
僕のつぶやきを聞いて、起きたことを察したエルヴィスが手を離す。その手が離れてしまうのが寂しくて、寝ぼけた思考で無意識に手を掴んだ。
「っ!」
「もう少し、このままでいて」
頬を手へと擦り寄せながら、また目を閉じる。夢でもいい。それでも、起きた時にひとりぼっちじゃなかったことが嬉しかった。だから、あとほんの少しだけ、この温かな夢を見させて欲しい。
「……日野、お前をいじめるつもりなんてなかったんだ。お前を殺してしまうつもりなんてなかった……」
暗闇に沈む途中、エルヴィスがなにかを言った気がしたけれど、それは微睡みに掻き消されて、耳に届くことは無かった。
目を覚ますと、視界いっぱいにエルヴィスの顔があって息を飲んだ。一人で眠りについたはずなのに、どうしてエルヴィスが隣で眠っているのか分からない。混乱する頭を必死に動かしながら、とりあえず距離を開けようと、身体を動かす。
「……大人しくしていろ」
そうしたら、なぜか腰に腕を回されて引き寄せられてしまった。
(な、なにこれ……なんでこんなことに)
エルヴィスは僕のことを嫌っているはずだし、僕だって別にエルヴィスのことなんて好きじゃない。自分を陥れようとしている相手を抱きしめるなんてどうかしてるし、僕のことを抱く気はないんじゃなかったのか?
混乱して思考が上手くまとまらない。当の本人は僕を抱き枕代わりにしながら気持ちよさそうに眠っている。
「どういうつもり?」
「……」
「なにか言わないとキスしちゃうよ。大嫌いな人間にキスされるなんて嫌じゃないかい?」
「……」
「寝ぼけてるの?僕は枕じゃないんだけど」
「……少し黙ってくれ」
「わっ!んぷ……」
頭ごと胸に抱き込まれて喋れなくされてしまう。苦しいのに、温かくて、逞しい腕と、硬いのに、包み込むような胸筋の感覚に鼓動がやけに早く跳ねる。こんなのどう考えてもおかしい。昨夜は甘さなんて一欠片もなかったのに、今はまるで真逆だ。
「お前は俺が憎いのか」
「……当たり前でしょ」
「俺もお前が憎い。憎くて、憎すぎて、それが逆に愛おしく感じるほどにな」
「なにそれ。頭でも打ったわけ?」
「散々日野のことをいじめてきたし、ブスでマヌケで、見ていてイラつくのは変わらない。でも、殺すつもりなんてなかった。死んで欲しいなんて思ってなかった」
エルヴィスの勝手な言い分に腹が立つのに、どう返したらいいのか迷ってしまう。僕のことを包み込む温かさが、言葉を紡ぐことを阻んでいる気がするんだ。夏月ならこんなとき、なんて答えるのかな。
きっと、こう言うのだろう。
「でも、消えて欲しかったんでしょ。阿佐谷くんは僕のこと嫌っていたんでしょ。僕はね、君のことが好きだった。なにをされても、君のことだけが好きだった。阿佐谷くんだけが僕に優しさをくれたから。だからこそ、僕は君の望む通りに、君の前から消えたんじゃないか」
夏月の真似をして言葉を紡ぐ。エルヴィスは僕を離すと、驚きと悲しさに染った瞳で真っ直ぐに顔を見つめてきた。
「日野、なのか?」
「……違うよ」
否定した瞬間、エルヴィスの顔がクシャリと歪む。今にも泣き出しそうなその顔を見て、僕の心が揺らいだ。
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