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悪役令息は噛み返したようです②

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エルヴィスの瞳から一筋涙がこぼれて、下に置かれていた僕の手に落ちる。その涙の意味を理解することはできない。けれど、泣かないで欲しいと思ってしまった。夏月の感情に心が引っ張られる。

「泣いたらキスするよ」
「っ、泣いてなんかいない」
「嘘つき」

そっと彼へと唇を寄せる。合わさった皮膚の隙間から舌を差し入れて、絡めてやれば、意外なことにエルヴィスも同じように舌を動かし始めた。水音が僕達の間を支配する。どうしてこんなことをしているのかは分からない。それはエルヴィスも同じだと思う。

でも、今はこうしたいと思ったんだ。きっと二人とも寝ぼけているんだろう。そう思いたい。だって、そうじゃなくちゃいけないから。僕は復讐するって決めたんだ。でも、その心が揺らぎそうになるのは、エルヴィスの僕を映し出す瞳が、いつもよりも熱を持ち、甘く優しく感じられるから。

エルヴィスの手が僕の腰へと回されて、ゆっくりと寝巻きの中へと入ってくる。薄い布一枚で守られた肌は直ぐにあらわになり、温かな手に触れられると、くすぐったいような、もっと触って欲しいような感覚がして、微かに身じろいでしまう。上まで伸びてきた手が、無いはずの胸にあてがわれ、優しく揉みしだかれる。感じるはずなんてないのに、手が突起を掠めるたびに背筋にゾクゾクとした感覚が走った。

「抱かないんじゃなかったの?」
「黙っていろ」

言いながら、指先が突起を摘みこねくり回してくる。緩急をつけた刺激にくぐもった声を上げると、また唇が重なり、声を奪われた。吐息を吐き出すたび、お互いのそれが混ざり合い、溶け合うように絡む。

キスをしながら昂りを刺激されると、気持ちよすぎて本当に溶けてしまいそうだ。亀頭を指先で刺激され、裏筋を撫でられると思わず声が漏れた。初めては、前戯がなかったせいか、与えられる未知の気持ちよさに、身体がやけに反応してしまう。既に僕の中は濡れそぼり、快感を求めてヒクついている。

裸にさせられると、僕をうつ伏せにして、エルヴィスが背後へと回ってきた。エルヴィス自身も興奮しているのか、濡れて艶光を放つ肉棒を僕の双丘へと擦り付けてくる。

「入れるなら早く頂戴」
「黙っていろと言っているだろ」
 「んん!」

思い切り肩を噛まれて、声を上げると、その瞬間、濡れた蜜穴に肉棒が挿入される。体勢のせいなのか、この間よりも奥へと侵入してきた昂り。ありえないくらいの快感を与えられて、みっともなくよだれを垂らしながら喘ぐと、容赦なく腰を打ち付けられた。

噛まれた肩が酷く痛むのに、与えられる快感がそれすらも快楽へと塗り替える。容赦のない腰の動きに、足はガクガクと震え、部屋には僕の甘声とエルヴィスの荒い息が響き渡る。

「あっ、ゃ、あ、んん」
「気持ちいいのか?この顔と体でどれだけの人間を咥えこんで来たんだ!お前のようなやつはかなり遊んでいるのだろう?」
「はぁ、あっ!そこぐりぐりしないでっ」
「ここがいいのか?」
「んん~~!」

良いところを突かれて、呆気なく達すると、向かい合う形に体位を変えて、再びエルヴィスが動き始める。お互いの顔がはっきりと見えるこの体勢はなんだか気恥ずかしくて、思わず目を閉じると、首元に噛みつかれてしまった。

「俺を見ていろ」
「な、んでっ、ひうっ」
「お前が悪いんだ……あの日お前が俺に手紙なんて書くから!」

訳が分からない。エルヴィスは僕が悪いと言うけれど、僕はなにもしちゃいない。いじめられる方にも非があるなんて言う奴もいるけれど、あのいじめは一方的なものだった。手紙を拾われた以外に、特になにかした訳でもないのに、僕が悪いなんて横暴だ。

ムカついて、首元を噛み返してやれば、呻き声をあげたエルヴィスの腰使いが更に荒々しくなる。お互いに睨み合いながら、甘さのない快楽を身に刻み込んでいく。
譲らない攻防を繰り広げながら、快楽の高みへと押し上げ、愛のない欲を満たすためだけのキスをする。

「っ、も、いくっ」
「はぁ、っ!」

同時に欲を吐き出して、荒々しく呼吸をしながら、身体に籠った熱を発散した。

「ねえ、大嫌いな相手と繋がって気持ちよかった?」
「っ、少しは自分の立場を弁えろ」
「いっ、た……」

また首筋を噛まれて、じくじくと痛む。涙がにじむ目で睨みつけてやれば、エルヴィスが僕に首を差し出してきた。

「やり返さないのか」

嘲るように言われて、腹が立つ。言われた通りにするのも尺だ。だから、あえて首ではなく、目の前にあった腕に思いっきり噛み付いてやった。

プツリと皮膚を突き破る感覚がして口を離せば、じわりとそこから血が滲み出てくる。それを見つめながら、痛そうだなって他人事のように思った。もちろん、僕だってあちこち噛まれて痛い。

「可愛くないな」
「ふん、どうとでも言えばいいよ。僕は君の言いなりになんてならない」
「……そうだな」

僕の言葉を聞いたエルヴィスは、悔しさの交じったような頬笑みを浮かべて、僕の上から退いた。その表情に驚いて、エルヴィスの温もりが消えてからも、動けない。

「なんで……」

なんでそんな顔するんだよ。エルヴィスはいつだって傲慢で、最低で、偉そうだ。なのに、ふとした瞬間見せる悲しそうな顔や、今みたいな表情に僕の心が揺れる。

「俺もお前みたいに強ければ違ったかもしれないな」
「……意味わかんない」

僕の言葉に、エルヴィスはなにも返事をしないまま服を着て、部屋から出て行ってしまった。また部屋にひとりぼっち。
エルヴィスが僕を抱いた理由も、あんなことを言った理由も分からない。でも、僕の知らないなにかがあるのかもしれないと思った。
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