マニーフェイク・フレンズ

天宮叶

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「そういう界隈じゃ有名だから」

そういう・・・・っていうのはつまり同性愛者の界隈ってことだろうか。つまりこの人も俺と同類?

そんな考えが過って流石にこんなに綺麗な人と自分を比べるのは失礼だと思い直した。

「あ、ここなので」

「IZUMIに車停めてたんだ」

「タクシー捕まらないんで代行頼もうかと思って」

何を考えているのか全く読み取れない顔をして彼は俺の車をじっと見つめてから、ならって切り出した。

「なら、俺が運転してあげようか」

「……へ?、あ、いやいやいやっ!流石に頼めませんって」

正直こんな素敵な人とお近づきになれるのは嬉しいと思うけど今日会ったばかりの人に流石に頼めない。それに、一応店員と客の関係でもあるわけだし……。

「警戒してる?」

「……あー、まあ、そりゃあ少しは」

だって初対面だし。
なんで俺にそんなに親切にしてくれるのかも謎だ。

「ただお礼したいだけだからそんなに警戒しなくてもいいよ」

「お礼、ですか?」

全然心当たりがなくて首を傾げたら、美人さんは昼間お客さんとして対応した時みたいに優しい顔をして俺に向かって微笑んだ。
その笑顔があまりにも綺麗過ぎて、逆に少しだけ怖いとさえ思う。

「アリッサム、教えてくれたから」

「……そりゃあ、お客さんに商品の場所教えるのは当然ですよ……」

「それでも嬉しかったからお礼させて」

お互い中々折れなくて結局好意で言ってくれてることなのに断り続けるのもしのびなくてお願いすることにした。

車のキーを渡して2人とも車に乗り込んだ。
ゆっくりと動く車に揺られながら突然舞い降りたこの状況について整理する。
美人は横顔も完璧だな…なんて思いつつ俺の車を運転する彼を観察していると、視線に気づいたのかクスって笑われて思わず視線を逸らした。

「そんなに見つめられると手元が狂っちゃいそう」

「それだけはご勘弁を……」

冗談でも怖いからやめてくれって思いながら俺は視線を窓の外にやった。流れる景色を見ながら、そういえばこの人俺の家分かるのかなって疑問に思う。

「あの……道って」

「ナビに自宅ってあったからそこに向かってるけどあってる?」

「あー、はい。大丈夫です」

いつの間にナビ検索したんだろ。
さっきから思っていたけれど彼は人の車を運転するのに慣れているみたいに見える。

「結構近いんだね」

「そうなんですよ」

20分位して直ぐに俺の住むマンションが見えてきた。無駄に豪華なマンションの最上階が俺の家で親が勝手に選んで買い与えてくれたから光熱費とかも親が払ってる。中もえげつないくらい広くて正直1人だと寂しくて無駄だなと思ってるからあんまり住み心地は良くない。

「いいところ住んでるんだね」

「あー……そうっすかね」

親が金持ってるんでって言いかけて辞めた。
自慢みたいに聞こえそうだし、昔のこともあってそういうことを話すのに抵抗が産まれていた。

車庫に車を停めてもらって、運転してもらったお礼を言った後にそういえば彼は用事があったんじゃないかと思い至る。

「あの……用事あったんじゃ……」

「……予定は特にないから大丈夫」

「えーと……」

どうしよう。
送って貰ってそのまま、はい、さよならでいいんだろうか。というかこの人は今からどうやって帰るんだろ。

色んな疑問が浮かんできて悩む。
俺はあんまり考えるのが得意じゃないからいつもフィーリングで動いていて、なんだか今も考えるのがだるいなってつい思ってしまう。

こういうところが長所でもあり短所でもあるって兄貴たちから言われたことがあったっけ…。

「上がっていきます?」

「……警戒してたのに上げちゃっていいの?」

「あー……なんかどうするとか考えるの苦手だし、別に大丈夫だと思って」

「なにが大丈夫?」

「うーん、分かってると思うんですけど俺ゲイなんです。でも、この体格でやられる側専門っていうか…とにかく色んな人とそういう感じになったけど皆俺には立たないみたいなんで。平気かなって」

それに貴方くらいなら余裕で押さえられそうだしって細身の身体を見てから思った。

それから、言ったあとに何言ってんだろうって後悔する。酒が入っているから余計なことをペラペラと話してしまった。初対面でこんな生々しい話するとか俺ほんとにデリカシーないわって焦る。

慌てて謝ろうと口を開こうとしたら彼がくすくすって笑っていて俺はそれに口を開けたままぽかんと固まった。


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