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地味な生徒
③
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放課後は、押し付けられた図書委員の仕事で図書館にいることが多い。
学生達が有意義な学園生活を送れるようにと様々な場所から集められた大量の本を貯蔵しているこの大図書館には大勢の生徒が押し寄せてくる。
その生徒たちに本の貸出をするのが俺の仕事だ。
カウンターに置いてある委員専用の椅子に腰かけて適当な本を読み進める。この仕事は生徒が本を持ってくるまではなにもすることがなく、今日は人がまばらだから比較的暇な日だ。
「あの~……」
「は……い……」
本の文字を追っていると声をかけられてそちらへと顔を向ける。
そして返事をしようとして俺は動きを止めた。
図書館の照明が彼の髪をいつもよりも濃ゆい色へと照らしていて、雰囲気が微かに違う感じがした。
「あの、どうかした??」
「……あっ……いや……なにか?」
「あっ、【騎士の心得】っていう本を探してるんだけど」
彼のクリクリの瞳が俺を真っ直ぐに見つめていて、それに心臓がドキドキと跳ねる。
ふわふわといい匂いがしてきて、ああ、目の前に彼がいるって心が沸き立った。
「それなら、一番手前の棚の3段目左にあると思うけど」
「細かくありがと~、探してみるね」
小走りに俺の教えた棚に向かって走っていく彼の背中を見つめながら、あんな本何に使うんだろうって不思議に思った。
騎士の心得はその名の通り騎士になる者が最初に読む本とも言われている、騎士の基本的なことを書いた1冊で俺も幼い頃に読んだことがある。
「本当にあったよ~!」
すぐに彼が本を腕に抱えてふわふわと緩くウェーブのかかった柔らかそうな髪を揺らしながらこちらへと戻ってきた。
本を受け取って受付を完了させると、彼へと本を手渡してやる。
「この本読んだら少しは騎士のことわかるかな?」
直ぐに帰っていくと思ったのに、そんなことを尋ねられて俺は内心で酷く動揺した。
「わかると思うけれど、どうしてそれを読みたいと思ったんだ。騎士になるのかい?」
「好きな人が騎士になりたいって言ってたから僕もその人がなりたいモノがどんなモノなのか知っておきたくて」
そう行って頬を染めて可愛らしくはにかむ彼を見つめながら、胸が苦しくなるのが分かった。
好きな人が……か。
昔、君の傍にずっといると約束したことを覚えているかい?
「……セレーネ……」
君が好きだ。
つい彼の名前をつぶやくと、セレーネが驚いた顔をした後に、なーに?って微笑んでくれた。
昔は見れなかった笑顔を間近で見れたことが嬉しくて、同時にやっぱり胸が苦しい。
「ごめん、勝手に名前呼んで」
セレーネは誰にでも優しいと評判だ。
少しわがままなところもあるそうだけど、そこも可愛いのだとクラスメイトが話していた。
「構わないよ。皆勝手に呼ぶからさ」
「そっか」
「うん、あっ、もう行かないと。これありがとうね」
そう言って今度こそ出口の方に駆けていくセレーネの後ろ姿を見つめながら、漂う彼の残り香に泣きそうになった。
もう、見つけているのに……。
目の前に彼はいるのに。
手は届かない。
学生達が有意義な学園生活を送れるようにと様々な場所から集められた大量の本を貯蔵しているこの大図書館には大勢の生徒が押し寄せてくる。
その生徒たちに本の貸出をするのが俺の仕事だ。
カウンターに置いてある委員専用の椅子に腰かけて適当な本を読み進める。この仕事は生徒が本を持ってくるまではなにもすることがなく、今日は人がまばらだから比較的暇な日だ。
「あの~……」
「は……い……」
本の文字を追っていると声をかけられてそちらへと顔を向ける。
そして返事をしようとして俺は動きを止めた。
図書館の照明が彼の髪をいつもよりも濃ゆい色へと照らしていて、雰囲気が微かに違う感じがした。
「あの、どうかした??」
「……あっ……いや……なにか?」
「あっ、【騎士の心得】っていう本を探してるんだけど」
彼のクリクリの瞳が俺を真っ直ぐに見つめていて、それに心臓がドキドキと跳ねる。
ふわふわといい匂いがしてきて、ああ、目の前に彼がいるって心が沸き立った。
「それなら、一番手前の棚の3段目左にあると思うけど」
「細かくありがと~、探してみるね」
小走りに俺の教えた棚に向かって走っていく彼の背中を見つめながら、あんな本何に使うんだろうって不思議に思った。
騎士の心得はその名の通り騎士になる者が最初に読む本とも言われている、騎士の基本的なことを書いた1冊で俺も幼い頃に読んだことがある。
「本当にあったよ~!」
すぐに彼が本を腕に抱えてふわふわと緩くウェーブのかかった柔らかそうな髪を揺らしながらこちらへと戻ってきた。
本を受け取って受付を完了させると、彼へと本を手渡してやる。
「この本読んだら少しは騎士のことわかるかな?」
直ぐに帰っていくと思ったのに、そんなことを尋ねられて俺は内心で酷く動揺した。
「わかると思うけれど、どうしてそれを読みたいと思ったんだ。騎士になるのかい?」
「好きな人が騎士になりたいって言ってたから僕もその人がなりたいモノがどんなモノなのか知っておきたくて」
そう行って頬を染めて可愛らしくはにかむ彼を見つめながら、胸が苦しくなるのが分かった。
好きな人が……か。
昔、君の傍にずっといると約束したことを覚えているかい?
「……セレーネ……」
君が好きだ。
つい彼の名前をつぶやくと、セレーネが驚いた顔をした後に、なーに?って微笑んでくれた。
昔は見れなかった笑顔を間近で見れたことが嬉しくて、同時にやっぱり胸が苦しい。
「ごめん、勝手に名前呼んで」
セレーネは誰にでも優しいと評判だ。
少しわがままなところもあるそうだけど、そこも可愛いのだとクラスメイトが話していた。
「構わないよ。皆勝手に呼ぶからさ」
「そっか」
「うん、あっ、もう行かないと。これありがとうね」
そう言って今度こそ出口の方に駆けていくセレーネの後ろ姿を見つめながら、漂う彼の残り香に泣きそうになった。
もう、見つけているのに……。
目の前に彼はいるのに。
手は届かない。
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