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第一章
美しい変化(2)
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誰かが頬を撫でる。夫が心配して入ってきたのだろう。泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまったらしい……。
キツイことを言ったことを謝らなきゃ。彼は私のことを想って言ってくれたんだから……。そんなことを考えながら目を開き、体を起こそうとした瞬間のことだった。
「おねえちゃん?」
聞き覚えのない声が聞こえてくる。
「おねえちゃん? 大丈夫?」
幼い女の子の声だった。
――どういうこと? 知らない女の子がこの部屋にいる?
「おねえちゃん?」
「誰? ここでなにしてるの⁉」
驚きから、ふいに怖さが訪れる。辺りは真っ暗……。灯りをつけようと手探りで立ち上がる。しかし腕を伸ばしても何も触れない。
――壁はどこ⁉
どうして? うちってこんなに広かった? 混乱しながら両手であたりを探っても、やはりどこにもたどり着かない。
――どこ? スイッチはどこ?
「ねぇ、おねえちゃん大丈夫? わたしの名前はアケルだよ。…………。えっと……。次の質問はなんだっけ?」
アケルと名乗る少女は、私が咄嗟に口にした「誰?」という問いかけに、順序よく答えようとしていた。
その様子に、ふと私の動揺が和らぐ。
「……アケル? あなた、外国人なの?」
「んーん、違うよ。ねぇ、さっきの質問なんだっけ?」
「あなた、どうしてここにいるの? ここで何をしてるの?」
「それふたつともわかんない!」
女の子は元気一杯に返してくる。小さい子特有の駄々のようなものかと思ったけれど、真剣に悩んで返しているように思えた。
「……どうしてわからないの? 自分で来たんでしょう?」
「ひとりで来たの? 誰か近くにいる?」
「んー……。わかんない!」
アケルは「わからない」と繰り返すばかりだ。
「ちょっと待って……とにかく灯りを……」
再び壁を探り始めると、後ろからアケルが声をかけた。
「……おねえちゃん、なにしてるの?」
「なにって、部屋のね、灯りのスイッチを探してるんだけど……」
腕を大きく開いて前へ進むと、手の甲にカチンと音を立てて硬い物が当たった。ひんやりと、氷ほどにも冷たく感じられる。
明らかに自室じゃない。
「なにこれ⁉」
「なにって、壁だよ?」
あっけらかんとしたアケルの声に、不安が煽られた。
「どうして壁だってわかるのっ? こんなに真っ暗なのに……」
動揺して振り返ると、暗闇に仄かに光る目が見えた。
「あなた……アケル?」
恐る恐る、二つの小さな光に向かって話し掛ける。
「そうだよ、おねえちゃん見えないの?」
――どういうこと? この子には見えていて私にだけ見えていないってことなの?
「ねえ、アケル……。あなたには周りが見えてるの?」
「うん、見えてるよ。でなきゃおねえちゃんが倒れてたの見つけられないよ?」
アケルは、さも当然のように言った。
「私が、倒れていた?」
夫との口論の末、私は寝室に籠りベッドにいたはずだった。なのにこの子に声をかけられて、目覚めたら真っ暗な部屋にいた。
「貴之! 貴之どこ⁉」
大声で呼んでも返事はない。
――どうしよう! どうしよう!
「ここっ……! ここはいったいどこ⁉ どこなの⁉」
キツイことを言ったことを謝らなきゃ。彼は私のことを想って言ってくれたんだから……。そんなことを考えながら目を開き、体を起こそうとした瞬間のことだった。
「おねえちゃん?」
聞き覚えのない声が聞こえてくる。
「おねえちゃん? 大丈夫?」
幼い女の子の声だった。
――どういうこと? 知らない女の子がこの部屋にいる?
「おねえちゃん?」
「誰? ここでなにしてるの⁉」
驚きから、ふいに怖さが訪れる。辺りは真っ暗……。灯りをつけようと手探りで立ち上がる。しかし腕を伸ばしても何も触れない。
――壁はどこ⁉
どうして? うちってこんなに広かった? 混乱しながら両手であたりを探っても、やはりどこにもたどり着かない。
――どこ? スイッチはどこ?
「ねぇ、おねえちゃん大丈夫? わたしの名前はアケルだよ。…………。えっと……。次の質問はなんだっけ?」
アケルと名乗る少女は、私が咄嗟に口にした「誰?」という問いかけに、順序よく答えようとしていた。
その様子に、ふと私の動揺が和らぐ。
「……アケル? あなた、外国人なの?」
「んーん、違うよ。ねぇ、さっきの質問なんだっけ?」
「あなた、どうしてここにいるの? ここで何をしてるの?」
「それふたつともわかんない!」
女の子は元気一杯に返してくる。小さい子特有の駄々のようなものかと思ったけれど、真剣に悩んで返しているように思えた。
「……どうしてわからないの? 自分で来たんでしょう?」
「ひとりで来たの? 誰か近くにいる?」
「んー……。わかんない!」
アケルは「わからない」と繰り返すばかりだ。
「ちょっと待って……とにかく灯りを……」
再び壁を探り始めると、後ろからアケルが声をかけた。
「……おねえちゃん、なにしてるの?」
「なにって、部屋のね、灯りのスイッチを探してるんだけど……」
腕を大きく開いて前へ進むと、手の甲にカチンと音を立てて硬い物が当たった。ひんやりと、氷ほどにも冷たく感じられる。
明らかに自室じゃない。
「なにこれ⁉」
「なにって、壁だよ?」
あっけらかんとしたアケルの声に、不安が煽られた。
「どうして壁だってわかるのっ? こんなに真っ暗なのに……」
動揺して振り返ると、暗闇に仄かに光る目が見えた。
「あなた……アケル?」
恐る恐る、二つの小さな光に向かって話し掛ける。
「そうだよ、おねえちゃん見えないの?」
――どういうこと? この子には見えていて私にだけ見えていないってことなの?
「ねえ、アケル……。あなたには周りが見えてるの?」
「うん、見えてるよ。でなきゃおねえちゃんが倒れてたの見つけられないよ?」
アケルは、さも当然のように言った。
「私が、倒れていた?」
夫との口論の末、私は寝室に籠りベッドにいたはずだった。なのにこの子に声をかけられて、目覚めたら真っ暗な部屋にいた。
「貴之! 貴之どこ⁉」
大声で呼んでも返事はない。
――どうしよう! どうしよう!
「ここっ……! ここはいったいどこ⁉ どこなの⁉」
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