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第一章
美しい変化(4)
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「アケル?」
声を追って奥へ進むと、突然照明がついた。強烈に眩しい。
「どう? 見えるようになった?」
「……あなたがアケル?」
私の目に飛び込んできたのは、真っ黒で艶のあるショートボブに、これまた真っ黒な大きな瞳に真っ白な素肌、鼻の先にある小さなホクロが特徴的な、七~九歳くらいのとてもかわいらしい女の子だった。首を傾げて心配そうにこちらを見ている。外国人みたいな名前とは裏腹に、とても日本人らしい顔立ちだった。
「うん、わたしアケル! おねえちゃんは?」
まだ名乗っていなかったことを思い出して、慌てて応えた。
「ごめんね、私の名前は千里だよ。よろしくね」
私がそう言うと、アケルは丁寧に向き直って深くお辞儀をし、「よろしくおねがいします」と言った。
ゆっくりと首を垂れる様子がとてもかわいらしい。私も真似をして深いお辞儀をした。
「よろしくおねがいします」
すると、真似をされたのに気づいたのか、アケルが私を見て笑った。その笑顔があまりにかわいくて、つられてつい笑ってしまう。
不安でひどくナーバスになっていたから、この笑いがとても新鮮に感じられた。ようやく安堵を取り戻し、明るくなった部屋を見渡すと、どこか既視感があり、私は不思議な感覚に陥っていた。
「うーん、それにしてもこの部屋……どこかで見たことある気がするなぁ?」
「ふぅん、どこで見たの?」
アケルは奥の出窓にヒョイと飛び乗ると、こちらに向き直った。
「そうだ! 私が初めて猫を飼ったときに住んでた部屋の間取りに似てるのよ。だけど、ここはなんの施設なのかな? 住宅にしてはこざっぱりした部屋だよね……」
室内には生活感がまるでない。アケルは出窓に腰掛けたまま、投げ出した足をパタパタと揺らして様子を伺っている。
なにか手がかりになるようなものはないかな……?
広いワンルームの角には大きなキングサイズのベッド。壁掛けの大きな薄型テレビと小さな冷蔵庫。入ってきたドアの左側には洗面所にシャワールームがあった。壁紙はとても美しい和紙のような白……。この家具の少なさと部屋の表情からは、住人の面影を感じさせるものがあまりない。
まるでホテルの一室のようだ。
「うーん、冷蔵庫になにか入ってるかな?」
ひとり暮らしで使うにしても小さい、正方形型の冷蔵庫を開けると、中にミネラルウォーターやジュースなどが入っていた。
「あ、ちゃんと冷えてる。アケル、喉渇いてない? お水とかジュースなんかもあるよ?」
「ほんと⁉ 飲む! いいの?」
アケルが出窓から飛び降りてこちらにやってくる。
「多分ね」微笑む私の前で、アケルは目を輝かせながら黄色の缶を指差した。「わたし、これが飲んでみたい!」
「何ジュースなのかな? なんの絵も名前も書いてないね……」
冷蔵庫の上に伏せて置かれていたグラスをひとつ手に取ると、缶ジュースを開けて注ぐと、それはとろりと輝いた黄色のジュースだった。匂いを嗅ぐとほのかに甘い香りがする。
一口飲んでみると、とても美味しかった。
「マンゴーだ! マンゴージュースよ、これ」
アケルが両手を差し出して、「んーんー」とねだっている。
「ごめん、ごめん」
少し継ぎ足してから渡すと、アケルは両手でグラスを持ち、傾けながらごくごくジュースを飲んだ。
声を追って奥へ進むと、突然照明がついた。強烈に眩しい。
「どう? 見えるようになった?」
「……あなたがアケル?」
私の目に飛び込んできたのは、真っ黒で艶のあるショートボブに、これまた真っ黒な大きな瞳に真っ白な素肌、鼻の先にある小さなホクロが特徴的な、七~九歳くらいのとてもかわいらしい女の子だった。首を傾げて心配そうにこちらを見ている。外国人みたいな名前とは裏腹に、とても日本人らしい顔立ちだった。
「うん、わたしアケル! おねえちゃんは?」
まだ名乗っていなかったことを思い出して、慌てて応えた。
「ごめんね、私の名前は千里だよ。よろしくね」
私がそう言うと、アケルは丁寧に向き直って深くお辞儀をし、「よろしくおねがいします」と言った。
ゆっくりと首を垂れる様子がとてもかわいらしい。私も真似をして深いお辞儀をした。
「よろしくおねがいします」
すると、真似をされたのに気づいたのか、アケルが私を見て笑った。その笑顔があまりにかわいくて、つられてつい笑ってしまう。
不安でひどくナーバスになっていたから、この笑いがとても新鮮に感じられた。ようやく安堵を取り戻し、明るくなった部屋を見渡すと、どこか既視感があり、私は不思議な感覚に陥っていた。
「うーん、それにしてもこの部屋……どこかで見たことある気がするなぁ?」
「ふぅん、どこで見たの?」
アケルは奥の出窓にヒョイと飛び乗ると、こちらに向き直った。
「そうだ! 私が初めて猫を飼ったときに住んでた部屋の間取りに似てるのよ。だけど、ここはなんの施設なのかな? 住宅にしてはこざっぱりした部屋だよね……」
室内には生活感がまるでない。アケルは出窓に腰掛けたまま、投げ出した足をパタパタと揺らして様子を伺っている。
なにか手がかりになるようなものはないかな……?
広いワンルームの角には大きなキングサイズのベッド。壁掛けの大きな薄型テレビと小さな冷蔵庫。入ってきたドアの左側には洗面所にシャワールームがあった。壁紙はとても美しい和紙のような白……。この家具の少なさと部屋の表情からは、住人の面影を感じさせるものがあまりない。
まるでホテルの一室のようだ。
「うーん、冷蔵庫になにか入ってるかな?」
ひとり暮らしで使うにしても小さい、正方形型の冷蔵庫を開けると、中にミネラルウォーターやジュースなどが入っていた。
「あ、ちゃんと冷えてる。アケル、喉渇いてない? お水とかジュースなんかもあるよ?」
「ほんと⁉ 飲む! いいの?」
アケルが出窓から飛び降りてこちらにやってくる。
「多分ね」微笑む私の前で、アケルは目を輝かせながら黄色の缶を指差した。「わたし、これが飲んでみたい!」
「何ジュースなのかな? なんの絵も名前も書いてないね……」
冷蔵庫の上に伏せて置かれていたグラスをひとつ手に取ると、缶ジュースを開けて注ぐと、それはとろりと輝いた黄色のジュースだった。匂いを嗅ぐとほのかに甘い香りがする。
一口飲んでみると、とても美味しかった。
「マンゴーだ! マンゴージュースよ、これ」
アケルが両手を差し出して、「んーんー」とねだっている。
「ごめん、ごめん」
少し継ぎ足してから渡すと、アケルは両手でグラスを持ち、傾けながらごくごくジュースを飲んだ。
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