ホテルエデン

虹乃ノラン

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第一章

美しい変化(14)

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 大広間奥の大きな木の植えられた左手に厨房への開かれた入口がある。中へ入っていくと厨房の中もなかなかの広さだった。
「ちくわかー。冷蔵庫かな? どこかしら?」
 厨房っていうからには、銀色の大きな業務用冷蔵庫があるはず。厨房内を探して奥まで進もうとしていると、アケルが後ろから、「おねえちゃん!」と私を呼んだ。
「どうしたの?」
「あった!」
 アケルがなにかを指差していた。そこには、一人暮らし用のこじんまりとした2ドアタイプの白い冷蔵庫が直接床に置かれていた。
 どう見ても『生活家電』といった風貌の四角い箱は、この本格的な厨房に似合わない代物だ。
「……あった、といっていいのかな、これ?」
 私はその冷蔵庫の前にしゃがみ込む。
「うーん、小さいな。なんだか細かいところがちょっと残念な感じよね……。ちょっと失礼しますよー」
 アケルも私の横に座ると膝を抱えて丸くなり、わくわくしている。「しますよー」
 ガチャッと音を立てて扉を開け、冷蔵庫内を物色する。そこには庶民的な食材やら調味料などがゴッチャリと詰め込まれていた。
 たくあんにキムチに浅漬けの入ったタッパーに卵……。さらには昨日の残り物なのか、いかにも家庭用の鍋がそのまま突っ込まれている。蓋を開けてみると王子様な感じのカレー。人参が星型に抜かれていてハチミツの甘い匂いがする。
「これ、星の王子様カレーだ……」
 もしかしてこれケルビムが食べた残りなのかな? 彼があの仮面をずらしながら、星型の人参をスプーンで口に運んでいる姿を想像すると吹き出しそうになってしまう。
 私の隣で一緒に中を覗き込んでいるアケルは、目を輝かせてまんざらでもなさそうだった。
 とりあえず、ちくわを探そう、ちくわ……ちくわ……。
 ――あった!
『ちくわ』と書かれた白い袋を見つけ手に取ると、アケルが立ち上がり、「バンザーイ!」とはしゃいで厨房内をぐるっと一周走って戻ってくる。その姿がすごくかわいらしい。
 竹輪ひとつでこんなに喜ぶなんて、やっぱりまだ小さな女の子なんだな。名前もわからないような不思議な料理を並べられるより、家庭的で親しみのある料理の方が嬉しいのかもしれない。
 ま、この年齢なら当たり前か。
「アケル、竹輪どうやって食べたい?」
「チクワ!」
 アケルは、ちくわのマネをしているつもりなのか、両腕をまっすぐ上に伸ばしておかしなダンスを踊った。
「ちくわね、よぉーし! 一丁おねえちゃんがアケルのために腕をふるってやるか!」
「ふるう! ふるう!」
 アケルはそう言うとピョンピョン跳ねた。

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