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第一章
美しい変化(11)
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アケルは目をまん丸にして輝かせている。私の心も躍った。まるで空中に浮かんでいるかのように青空が見えたからだ。
下方には青々とした一面の芝が見え、小高い山に川も流れている。ホテルの中庭とはとても思えない、ありえない光景だ。
しかしそれがなぜか不自然でなく、調和してそこにあった。山の麓にはたくさんの動物たちがじゃれるように遊んでいたり、太陽の光に身を心地好く休めている姿なども見えた。楽園と呼ぶに相応しい景色だ。
喧噪の一切ない自然というのは、造形物かと見紛うほどに美しい……。ジオラマを見ているようにさえ感じる。しかし確かにそこには動く脈動、息づく命が見えていた。
興奮を抑えられずに思わず大きな声をあげてしまう。
「ここ本当にすごいわね!」
「えぇ、皆様そうおっしゃってくださいますよ。当ホテルエデンのオーナー様は、それはもう素晴らしいセンスをお持ちの方なのでございますよ」
「オーナー様? ってことは、このホテルはそのオーナーさんが自らデザインしたの?」
「はい。オーナー様がご自身でデザインされ、そして施工されました」
「施工まで? それはすごいわ……、すべてできるなんて、よほど才能のある人なのね……」
エレベーターはゆったりと降りていく。しかし、そのゆっくりさ加減がまったく苦にならないほどに心地好かった。いつまでも乗っていたいとさえ思わせる。
「ポーン♪」
エレベーターが停止する瞬間僅かにバウンドすると、仮面の男がそれに合わせるようにそう口にした。それを聞いたアケルがケタケタと笑い出す。
「東館一階、食堂でございます」
ケルビムは満足気に言うと、エレベーター内の黒いレバーをガチャリと下ろして、フェンスを開いた。
「東館ってことは……、このホテルには他の館もあるの?」
構造がなんとなく気になり訊ねる。
「えぇ、このホテルエデンは本館以外に、東西南北それぞれに四つの分館がございます」
「めちゃめちゃ広いのね……でも合わせて五つ? そんなにある割には、他のお客さんを見かけないようだけど……」
アケルが私の手を引っ張り、口を挟んだ。
「おねえちゃん! 早くご飯食べよ! わたしおなか空いた!」
「ホテルエデンの分館が使用されるのは、特別優待枠のお客様が来られた場合のみでございますからね」
「ということは、今がそうってことなの?」
「どうやらそのようでございますね」仮面の男はそう言うと、食堂と思われる大広間に私たちを誘導していった。「こちらへどうぞ。足元にお気をつけて」
ごまかされてるわけではないはずだけど、どうもよくわからないなと思いながらついていく。
はぐらかされているような気もするけれど、嘘をつかれている感じはしない。考えてもわからないし、実際おなかも空いたから、まずは食事かな。すべてを今理解しようとする方が間違っているのかもしれない。
「アケル、なにが食べたい? どんなメニューがあるかな」
「わたし、竹輪が食べたい!」
「竹輪かぁ……こんなおとぎなホテルの食堂にそんな庶民的なものがあるかしら?」
下方には青々とした一面の芝が見え、小高い山に川も流れている。ホテルの中庭とはとても思えない、ありえない光景だ。
しかしそれがなぜか不自然でなく、調和してそこにあった。山の麓にはたくさんの動物たちがじゃれるように遊んでいたり、太陽の光に身を心地好く休めている姿なども見えた。楽園と呼ぶに相応しい景色だ。
喧噪の一切ない自然というのは、造形物かと見紛うほどに美しい……。ジオラマを見ているようにさえ感じる。しかし確かにそこには動く脈動、息づく命が見えていた。
興奮を抑えられずに思わず大きな声をあげてしまう。
「ここ本当にすごいわね!」
「えぇ、皆様そうおっしゃってくださいますよ。当ホテルエデンのオーナー様は、それはもう素晴らしいセンスをお持ちの方なのでございますよ」
「オーナー様? ってことは、このホテルはそのオーナーさんが自らデザインしたの?」
「はい。オーナー様がご自身でデザインされ、そして施工されました」
「施工まで? それはすごいわ……、すべてできるなんて、よほど才能のある人なのね……」
エレベーターはゆったりと降りていく。しかし、そのゆっくりさ加減がまったく苦にならないほどに心地好かった。いつまでも乗っていたいとさえ思わせる。
「ポーン♪」
エレベーターが停止する瞬間僅かにバウンドすると、仮面の男がそれに合わせるようにそう口にした。それを聞いたアケルがケタケタと笑い出す。
「東館一階、食堂でございます」
ケルビムは満足気に言うと、エレベーター内の黒いレバーをガチャリと下ろして、フェンスを開いた。
「東館ってことは……、このホテルには他の館もあるの?」
構造がなんとなく気になり訊ねる。
「えぇ、このホテルエデンは本館以外に、東西南北それぞれに四つの分館がございます」
「めちゃめちゃ広いのね……でも合わせて五つ? そんなにある割には、他のお客さんを見かけないようだけど……」
アケルが私の手を引っ張り、口を挟んだ。
「おねえちゃん! 早くご飯食べよ! わたしおなか空いた!」
「ホテルエデンの分館が使用されるのは、特別優待枠のお客様が来られた場合のみでございますからね」
「ということは、今がそうってことなの?」
「どうやらそのようでございますね」仮面の男はそう言うと、食堂と思われる大広間に私たちを誘導していった。「こちらへどうぞ。足元にお気をつけて」
ごまかされてるわけではないはずだけど、どうもよくわからないなと思いながらついていく。
はぐらかされているような気もするけれど、嘘をつかれている感じはしない。考えてもわからないし、実際おなかも空いたから、まずは食事かな。すべてを今理解しようとする方が間違っているのかもしれない。
「アケル、なにが食べたい? どんなメニューがあるかな」
「わたし、竹輪が食べたい!」
「竹輪かぁ……こんなおとぎなホテルの食堂にそんな庶民的なものがあるかしら?」
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