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第三章
遠慮(5)
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アケルは今、どの辺りにいるんだろうか?
進んでも進んでも見える景色は無機質なコンクリートの壁と鉄製のパーテーション、さらに床の白黒の格子模様が私の気持ちに輪をかけてストレスを感じさせていた。
いくつもの別れ道を進み、道なりに歩いていく。目の前の突き当たりは右にしか曲がりようがなく、進んでいくとまた突き当たりにぶつかってしまった。
「もぉ! 本当にイライラするわ! いったい出口なんてどこにあるのよ⁉」
「千里様、お気持ちはわかりますが、そんなにイライラしていては物事は好転いたしませんよ?」
ケルビムが私の神経を遠慮もなしに逆撫でしたのに頭にくる。
「そうね! その通りよ! ケルビム、このパーテーション退かしなさい」
私は行き止まりにある鉄製のパーテーションを指差しケルビムにそう指示した。
ケルビムは驚いたように、「この重苦しそうなパーテーションを退かすのですか? それでは迷路のルールそのものが成立しなくなるのでは?」と私に訴えた。
「発想の転換よ! 私が望むことに従うんでしょ? 男なんだからこれくらい動かすの楽勝よね?」
「ぐぅ! ウゥゥ……承知致しました。少々お待ちを」
そう言うとケルビムは後ろへ下がって、助走分の距離を確保した。さすがのケルビムでも無理だと思っている私は、次の瞬間に起こった出来事に驚いた。助走をつけ走り込んだケルビムは鉄製のパーテーションの上の方に飛び蹴りを食らわしたのだ。
バランスを崩したパーテーションがそのまま奥の方へと倒れ込み、ものすごい音と風を巻き起こした。
「さぁさ、千里様、仰せの通りに致しました」
ケルビムの仮面の下のどや顔を思うとイラッとするが、私はとりあえずケルビムに感謝した。パーテーションの向こう側は一本の長い廊下になっている。パーテーションを乗り越え、その長い廊下をひたすら真っすぐに進んでいくと、扉から光が漏れているのが見えた。
「やったわケルビム! ゴールかもよ⁉」
私は駆け出し扉に手を添え扉を開け放った。目の前には大きく広い空間、眼下には今自分たちが悪戦苦闘していた巨大な迷路が表情も変えずに佇んでいた。
「こ、これは?」
後ろからケルビムがゆっくりと歩いてくる。
「どうやら降り出しに戻されたようですね」
「そんな⁉」
私は力なくその場に座り込んだ。
ケルビムは当然のことのように笑っている。仮面の支配人の乾いた笑い声がこだまするなか、私はすでに怒る気力も失っていた。
「さぁさ、千里様、もう一度初めからでございます。今度はお手付きされませんように……」
ケルビムは手を差し出し、私を立たせてくれる。
――よし! 諦めの悪さでは誰にも負けない!
私たちは再び階段を下りると鉄製の格子状のスライド扉を潜り、巨大迷路の中へと入っていった。
「かなり時間をロスしてしまったから、アケルとの距離もだいぶ離されちゃったよね?」
仕方ない、これは自分が侵したことへのペナルティーだ。それでも後悔の念が首をもたげる。
「しかし、相手はこの迷路。アケル様も思うようには進んでいないのではないでしょうか?」
「そうね……。あぁ、いっそのことアケルもお手付きしてくれればすぐに合流できるのになぁ……」
「ハハハ、アケル様は千里様と違い純心なお方ですからね、それはないかと……」
私の冗談にまっすぐ突っ込むケルビムを心で睨む。
「もう、わかってるわよ!」
ああ、もうなんでもいいから早くアケルに会いたい。
進んでも進んでも見える景色は無機質なコンクリートの壁と鉄製のパーテーション、さらに床の白黒の格子模様が私の気持ちに輪をかけてストレスを感じさせていた。
いくつもの別れ道を進み、道なりに歩いていく。目の前の突き当たりは右にしか曲がりようがなく、進んでいくとまた突き当たりにぶつかってしまった。
「もぉ! 本当にイライラするわ! いったい出口なんてどこにあるのよ⁉」
「千里様、お気持ちはわかりますが、そんなにイライラしていては物事は好転いたしませんよ?」
ケルビムが私の神経を遠慮もなしに逆撫でしたのに頭にくる。
「そうね! その通りよ! ケルビム、このパーテーション退かしなさい」
私は行き止まりにある鉄製のパーテーションを指差しケルビムにそう指示した。
ケルビムは驚いたように、「この重苦しそうなパーテーションを退かすのですか? それでは迷路のルールそのものが成立しなくなるのでは?」と私に訴えた。
「発想の転換よ! 私が望むことに従うんでしょ? 男なんだからこれくらい動かすの楽勝よね?」
「ぐぅ! ウゥゥ……承知致しました。少々お待ちを」
そう言うとケルビムは後ろへ下がって、助走分の距離を確保した。さすがのケルビムでも無理だと思っている私は、次の瞬間に起こった出来事に驚いた。助走をつけ走り込んだケルビムは鉄製のパーテーションの上の方に飛び蹴りを食らわしたのだ。
バランスを崩したパーテーションがそのまま奥の方へと倒れ込み、ものすごい音と風を巻き起こした。
「さぁさ、千里様、仰せの通りに致しました」
ケルビムの仮面の下のどや顔を思うとイラッとするが、私はとりあえずケルビムに感謝した。パーテーションの向こう側は一本の長い廊下になっている。パーテーションを乗り越え、その長い廊下をひたすら真っすぐに進んでいくと、扉から光が漏れているのが見えた。
「やったわケルビム! ゴールかもよ⁉」
私は駆け出し扉に手を添え扉を開け放った。目の前には大きく広い空間、眼下には今自分たちが悪戦苦闘していた巨大な迷路が表情も変えずに佇んでいた。
「こ、これは?」
後ろからケルビムがゆっくりと歩いてくる。
「どうやら降り出しに戻されたようですね」
「そんな⁉」
私は力なくその場に座り込んだ。
ケルビムは当然のことのように笑っている。仮面の支配人の乾いた笑い声がこだまするなか、私はすでに怒る気力も失っていた。
「さぁさ、千里様、もう一度初めからでございます。今度はお手付きされませんように……」
ケルビムは手を差し出し、私を立たせてくれる。
――よし! 諦めの悪さでは誰にも負けない!
私たちは再び階段を下りると鉄製の格子状のスライド扉を潜り、巨大迷路の中へと入っていった。
「かなり時間をロスしてしまったから、アケルとの距離もだいぶ離されちゃったよね?」
仕方ない、これは自分が侵したことへのペナルティーだ。それでも後悔の念が首をもたげる。
「しかし、相手はこの迷路。アケル様も思うようには進んでいないのではないでしょうか?」
「そうね……。あぁ、いっそのことアケルもお手付きしてくれればすぐに合流できるのになぁ……」
「ハハハ、アケル様は千里様と違い純心なお方ですからね、それはないかと……」
私の冗談にまっすぐ突っ込むケルビムを心で睨む。
「もう、わかってるわよ!」
ああ、もうなんでもいいから早くアケルに会いたい。
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