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七章:偉大なる魔法使い

第6話 過酷な奴隷生活

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 城に運ばれたキングは庭に縛られ、閉じ込められてしまいました。上を見上げますと、小さな鳥かごでコウモリが怯えています。

「君がコウモリ娘かい?」
「えっ!?」

 コウモリ娘はキングを見下ろしました。

「あんた、どうしてあしちのお名前を知ってるの?」
「君を助けるよう、コウモリ達に頼まれたんだ。それが目的の旅だったんだけど……」

 キングが眉を下げた。

「ああ、ナイミス、アクア、俺様達はどうなってしまうんだろう……」

 キングが空を見上げる頃、ドロシーは箒を持たされていた。

「いいかい! この城をぴっかぴかに掃除するんだよ! ほこり一つ残すんじゃないよ! 掃除が終わったらご飯を作るんだ! いいかい! あたしの言うことを聞かないと、あのかかしやブリキと同じような目に遭わせてやるからね!」

 ドロシーは怯えてしまって、言うことを聞くしかありません。

「こんなところで負けてられない」
「にゃあ」
「トト、こうなったら、魔女に屈せず、僕らの仕事をこなすんだ!」
「にゃーあ!」

 トトが雑巾で床を拭き、ドロシーが歌いながら部屋を掃除し、窓を開ければ、白い鳩が集まっていました。

「わあ、君達、掃除を手伝ってくれるの!?」
「くるーぽっぽ!」
「なんて親切なんだろう! どうもありがとう!」
「わたち達もお手伝いするわ!」
「ああ、野ねずみさん! どうもありがとう!」

 扉がノックされます。

「はい、ただいまー!」

 扉を開けると、森の動物達が城に入ってきました。コウノトリ達が親切にも、動物達にとても親切なドロシーの手伝いをしてくれるよう言って回っていたのです。

「みんな、どうもありがとう! この汚い城を綺麗にしよう!」

 というわけで、その日一日で城からほこりとちりが消え、綺麗でピカピカの城に生まれ変わり、ごみは全て捨ててしまい、いらないものは断捨離して、美味しい食事を作ったのでした。
 ですので、西の魔女は昼寝から目を覚ました時、びっくりして腰を抜かしてしまいました。

「ななななななな!!!」

 西の魔女は悲鳴をあげました。

「ほこりがなくなってるうううううううう!!!」

 西の魔女が城中を駆け回りましたが、ほこりはどこにもありません。

「酷い! こんなの酷すぎる!!」

 西の魔女が唯一掃除が出来なかった床に臥せてしまいました。西の魔女の涙は泥になったので、せっかく綺麗にした床が泥にまみれてしまいました。

「ぐすん! ぐすん!」
「ほら、ご飯の時間だよ! いつまでも泣いてないで早く起きておいでよ!」
「どうしてこんなことをしたんだい!? ほこりを全て掃除してしまうだなんて! こんなに城をピカピカにしてしまうだなんて!」
「君が掃除しろって言ったんじゃないか」
「あたしゃ、あのじめじめした感じが好きだったのに!」

 西の魔女が再び床に臥せてしまいます。

「ぐすん! ぐすん!」
「ウィンキー達がお肉を持ってきてくれたんだ! さあ、美味しいのを作ったから早く起きておいでよ」
「嫌だ!」

 西の魔女がうずくまりました。

「こんな綺麗なところで食べたくない!!」
「君が掃除しろって言ったんじゃないか」
「だって、こんなに綺麗になるだなんて、思わなかったんだもん!! お前なんか、くたばっちまえ! ぐすん! ぐすん!」
「じゃあ先にお風呂に入っておいでよ。それならいいだろ?」
「……チッ」

 西の魔女がベッドから下りて浴室へと向かいました。しかし、また悲鳴が上がります。

「お風呂の泥とカビが、抜かれてるううううう!!」

 西の魔女が綺麗になった浴槽に絶望の悲鳴をあげ、頭に血が上り、ドロシーを叱りました。

「どうして掃除なんかしちまったのさ!!」
「君が掃除しろって言ったからだよ! ほこり一つ残さず掃除しろってさ!」
「なんて生意気な小娘だろうね! 畜生! いいかい!? 明日までに浴槽に泥水を溜めておくんだよ! あとほこりはもう捨てちゃいけないよ! それと、明日も城をくまなく掃除するんだよ! いいね!」

 その日からドロシーはなるべく西の魔女から酷い目に遭わないように言うことを聞き続け、きちんと掃除をしました。美味しいご飯も作りました。しかし、西の魔女はそれが気に食わず、ドロシーとトトに理不尽な命令ばかり言いつけました。
 それでもドロシーとトトは負けることなく、きちんと命令通り仕事をこなし、夜になったら、キングの元へご飯を届けに行きました。

「ドロシー」

 キングがドロシーの両手を握って、ドロシーを見つめました。

「酷いことをされてないかい?」
「あの魔女、いっつも怒ってるんだ。大丈夫だよ」
「にゃあ」
「今朝ね」

 コウモリ娘がかごから声をかけてきます。

「仲間達の声が聞こえたわ。あなた達の仲間を捜してるって言ってた」
「俺様達、早くここから出ないと」

 キングがドロシーに誓いました。

「大丈夫だよ。ドロシー。俺様が絶対に君を助けてあげるからね」

 キングと会話をして、ドロシーは部屋に戻って一日を終えます。朝が来れば、また城の掃除をして、西の魔女の服を洗濯して、ご飯を作るのです。今日は、お花のお手入れのために、ドロシーはジョウロを持っておりました。

「トト、花が咲いてるよ!」
「にゃー!」
「お花さんに、元気にご挨拶!」

 うーーん!

「ボンジュール!」
「にゃー!」
「そうだ! 名前をつけよう!」
「にゃあ」
「この子は太郎」
「にゃあ」
「この子は一郎」
「にゃあ」
「この子は二郎」
「にゃあ」
「この子は三郎」
「これ! ドロシー! 掃除は終わったのかい!? サボるんじゃないよ!」

 扉が乱暴に開かれ、ドロシーは扉へ振り向きました。

「掃除をしたら怒るじゃないか。仕方ないから花達に水をやってるんだよ」
「そうかい! だったら、それが終わったら、今度はお風呂場の掃除だよ!」
「泥水抜いていいの?」
「お前、ばかじゃないのかい! なんでそんなひどいことが出来るんだい! あんたには、人の心がないのかい!?」
「僕にどうしろって言うのさ」
「にゃー」
「ふん! 自分で考えるんだね!」
「……そういえば」

 少女がふと、気がついた。

「君には名前がないの?」
「名前だって? 教えてやってもいいけどね、あたしは意地悪な魔女だからね! さて、どうしようかね!」
「あ、じゃあいいや。好きに呼ぶね」
「にゃあ」
「残念だったね! あたしにゃ、名前なんてないのさ! だって、西の魔女っていう、素敵な呼び名があるからね! はん! ざまあみろ! ばーか!」
「西の魔女じゃ長いんだよな」
「にゃー……」
「お黙り! 蹴られたいのかい!?」
「そうだ。トト、僕にいい考えがあるよ」
「にゃ?」
「彼女は、オズが作り出した魔女。オズの魔力が詰まった人形さ。だから、名前は、オズの魔力、つまり、君は、トゥエリーだ!」

 トゥエリーは、オズの魔力、呪いのことです。

「とてもいい名前だ。君にはぴったり。僕は君をトゥエリーと呼ばせてもらうよ!」
「呼ぶんじゃないよ! あたしゃね、そういう馴れ合う感じがすごく嫌いなんだよ! なぜならあたしは、世界で一番のいじわ……」
「いいじゃない。減るものじゃないし、ね? トト」
「にゃあ」
「これ! 人の話は、最後まで聞くんだよ!」

 その日から、西の魔女はドロシーにトゥエリーと呼ばれるようになりました。
 しかし、トゥエリーは変わらずドロシーに冷たく当たりました。仲良くする気なんて、これっぽっちだってないのです。

 だって、トゥエリーはドロシーの穿いている銀のパンプスが欲しかったのですもの。それは、とても強力な魔法の靴だったからです。トゥエリーはいつだってドロシーの隙を見ていました。

「ああ、そうだ! いいことをひらめいた。夜、ドロシーが寝た頃に靴を脱がしに行こう! これでようやく靴はあたしのものだよ! ひひひ! 主様にほめてもらえるよ!」

 しかし、トゥエリーは暗がりがとても怖い魔女だったので、廊下で動けなくなってしまったのでした。

「暗いよ!」

 ひざを抱えて座り込んでしまいました。

「怖いよ!」

 ぶるぶる震えてますと、トイレから帰ってきたドロシーがトゥエリーを見かけて、声をかけました。

「おや、トゥエリーじゃないか。どうしたんだい?」
「暗くて、お部屋に戻れないんだよ! 畜生!」
「仕方ないな。送るよ。ほら、立って」
「嫌だ!」

 トゥエリーがひざに顔を埋めました。

「あたしが普段から意地悪をしてるから、あんた、あたしにおばけを見せる気だね!? そうはいかないよ!」
「君、おばけなんか信じてるの? おばけなんかいるわけないだろ?」
「いるもん!」
「いないよ」
「いるんだもん!」
「見たことあるの?」
「おばけは見えないからおばけなんだもん!」
「じゃあ怖くないだろ?」
「怖いもん!!」
「もー……」

 ドロシーがトゥエリーに手を差し出しました。

「部屋まで送るから、立って」
「そう言って、物置にあたしを閉じ込める気なんだろ!」
「閉じ込めないよ」
「嘘だね! あたしは知ってるんだからね!」
「閉じ込められたの?」
「主様は、いつだって厳しい! あたしが失敗したら、主様はいつだってあたしを暗がりに閉じ込めるんだ!」
「……君、オズの一番の手下なんだろう? オズは君を大切にしてくれないの?」
「大切だって? ばか言うんじゃないよ。あたしは魔女だよ! 魔女はね、大切になんかされたくないんだよ! 馴れ合うなんて、ごめんだね!」
「でも君はオズが好きみたいだ」
「主様はあたしの全てさ! ふん! お前になんぞわかるまい!」
「わからないね。僕はおじさんとおばさんからめいいっぱいの愛情を受けて育ったもんだから、暗がりに閉じ込める親のいる君が、そんな酷い親を慕っている理由も全く皆目検討もつかないよ」

 なので、ドロシーは優しくトゥエリーの手を握ることにしました。

「今夜は僕が部屋まで送るよ。僕は暗がりなんかに閉じ込めたりしないよ」
「……ふん! 退きな! あたしはね、一人であるけ……」

 その直後、風が吹いて窓ガラスが音を鳴らしました。トゥエリーはますます縮こまり、普段見せないおびえた表情を見せたのです。その顔がまた、醜すぎて恐ろしいこと。

「ひい!」
「トゥエリー」

 ドロシーがトゥエリーの肩を抱きました。

「さあ、部屋に行こう」
「べ、別に、あたしゃ、びびっちゃいないよ! 何も怖くないんだからね!」
「はいはい」

 ドロシーとトゥエリーが部屋まで歩いていきました。結局、この日は銀のパンプスを奪うことはできませんでした。


(*'ω'*)


 しばらくしたとある日のことです。その日は、トゥエリーが髪の毛を気にかけた日でした。なんだかあたしの髪がちりちりしてる気がするね。こいつはいけない。そうだ。ドロシーに髪を梳かしてもらおうかね! トゥエリーは奴隷のドロシーに髪を梳かすよう命令しましたが、まあ、これがまた大変!

「あいたたたたた!! ドロシー! もっと優しく髪を梳かすんだよ! でないと、あたしの口臭を嗅がせるよ!」
「君さ、いつから髪の毛梳かしてないの? これはひどすぎる。キングの毛の方がやわらかいよ」
「だったら同じくらいさらさらになるまでやるんだよ! あ、いて! ちょっと! 叩かれたいのかい!」
「大人しくしてよ!」
「あたしに命令するんじゃないよ!」
「にゃあ」
「なんだい! このチビ! 近付くんじゃないよ!」
「動かないでよ! もっと痛くするよ!」

 トゥエリーの固い固い髪の毛にてんてこまいのドロシー。しかし、ドロシーはここで折れたりなんてしません。とある名案をひらめいてしまいました。

「あ、そうだ。トゥエリー。目を閉じてくれないかい?」
「目を閉じるだって? その間にあたしを殺そうっていうなら無駄だよ。あたしにはね、強い守りの魔法がかけられているんだからね」
「君の髪の毛にはいろんなものがくっついてしまっているんだ。前髪だって同様さ。毛先も整えないと。髪の毛が途中で目に入ったら痛くなるだろ」
「そりゃそうだ。だがね、あたしに攻撃しようだなんて思わないことだね」
「そんなことしないよ」
「ふん! そこまで言うなら目を閉じててやろう! ほら、あたしの髪の毛をさらさらにするんだよ! 優しくね!」

 数分後、意地悪なトゥエリーのボンバーヘアが、可愛いおかっぱに大変身したのです。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 トゥエリーは泣き叫びます。意地悪なボンバーヘアがとても気に入っていたトゥエリーにとって、可愛いおかっぱなんて、とても恥ずかしかったのです。トゥエリーは恥ずかしすぎて、とうとうベッドに潜ってしまいました。

「ぐすん! ぐすん! ぐすん!」
「すっきりしてよかったじゃないか。ねえ? トト」
「にゃあ」
「酷い! あたしの髪の毛が、おかっぱになっちまったよ! どうしてくれるんだい! あたしの自慢の髪の毛が! ああ! 何度見てもさらさらのおかっぱだ! なんてことをするんだい! この子は! あんたには、悪魔の心が宿っているのかい!?」
「失礼な」
「にゃあ」
「もう恥ずかしくって、お外に出られないじゃないか! ぐすん! ぐすん!」
「可愛いと思うんだけどなあ。ねえ? トト」
「にゃあ」
「可愛いもんか! あたしはね、意地悪な西の……」
「はいはい。わかった、わかった。髪の毛なんてすぐに伸びるから」
「おかっぱ。何度見てもおかっぱ……。ぐすん! ぐすん!」
「どうしよう。トト。トゥエリーが泣いちゃったよ。ベッドが泥だらけだ」
「にゃあ」
「あ、そうだ。トト、こういう時は唄を贈ればいいのさ。トゥエリー、唄遊びって知ってるかい?」
「あ? なんだい? それは?」
「僕のおばさんがよくやってるのさ! だから、僕が君に唄を贈ろう!」

 ドロシーはすっと息を吸って――歌いました。


 醜いトゥエリー 泣かないで
 涙を流すは西の魔女
 醜い醜い 緑の魔女
 緑の肌に 緑の目
 つんととんがる伸びた鼻
 君は誰だい? トゥエリーだ
 西に住んでる魔法使い
 意地悪トゥエリー 泣かないで
 君が泣いたら 泥になる
 掃除は僕さ めんどうくさい
 だから泣くなら 僕の胸
 汚れていいのは僕の胸
 さあ おいでよ 緑の魔女


「君が泣いたらいちいち掃除しなくちゃいけない。僕の胸を貸すから、胸で泣いてよ」
「ふん! お前の胸に鼻水をつけてやる! 全部お前のせいだ!」

 そう言ってトゥエリーはドロシーの胸に汚い顔を押し付けました。そしたら、髪の毛がおかっぱになってしまったことが、なんだか切なくなってしまい、トゥエリーが泥の涙を流したのです。

「あたしの髪の毛ちゃん……。しくしく……」
「よしよし。うわ、臭い。君、昨日泥のお風呂に入ったでしょう。泥臭いよ」
「あたしはこの匂いが大好きなんだよ!」
「まったく、君はどうかしてるよ」

 ドロシーはなんだか、トゥエリーがかわいそうに思えてきて、黒い髪の毛をやさしくなでてあげました。


(*'ω'*)


 野ねずみ達がせっせとわらを集め、コウモリ達がせっせとブリキを集めたおかげで、ナイミスとアクアは形が戻りつつありました。このまま無事に動けるようになるといいのですが。キングはとてもみんなのことが心配でしたが、ここには美味しいご飯もあるし、のんびりしていても誰も何も言わないのです。夜になったら大好きなドロシーとお喋りができる。あまり思いたくありませんでしたが、実は、今の暮らしが、結構気に入り始めていたのでした。

 でも、このままではいけないと思っていたので、キングは自分なりにできることを探しましたが、やはり足枷が邪魔です。せめてコウモリ娘だけでも助けられないか試しましたが、鍵がありません。

「ごめんね。俺様、とっても無力」

 キングはなんだか、とても悲しくなってきました。彼の心はとってもナイーブなのです。

「このままこうしてのんびり暮らしていてもいいけど、時々思い出すんだ。俺様のパパとママ。俺様をここまで大きく育ててくれた。でも、俺様、反抗ばかり。今なら勇気を持って言えるよ。悪いことばかりしてごめんなさい。って」

 その日はトゥエリーはなんだか外の空気が吸いたい気分でした。ですので、ドロシーとトトを連れて、ピクニックにでかけました。太陽はとても暑く、しかし風はそれを消すように涼しかったので、ドロシーもトトもとても快適でした。
 木の下にレジャーシートを敷き、そこでトゥエリーとドロシーは座って、ランチを食べます。ドロシーはお弁当の作り方をおばさんから習っていたので、たくさん食事を用意しました。

「さあ、召し上がれ!」
「どれどれ」
「トゥエリー! 食べる前におしぼりで手を拭いて」
「ふん! あたしは悪い魔女だから、そんなの必要ないんだよ! ばーか!」

 トゥエリーがフォークでご馳走を食べていきます。ドロシーは呆れながらおしぼりで手を拭き、トトの足も拭いてあげました。そして、トトには猫専用のお弁当を作っていたので、そちらを渡します。トトは大喜び!

「トト、おいしい?」
「にゃー!」
「よかった」

 ドロシーは周りを見回して、とても不思議に思いました。ここは西の国だというのに、外には誰もいないからです。

「西の国の人達はどうして外に出ないの?」
「それはね、あたしが怖いからさ」
「トゥエリーが怖いの?」
「そうだよ。なんていったってね、あたしは西の国の支配者であり、世界で一番意地悪な魔女だからね! ウィンキーは勇気もない臆病者。あたしが外に出たのを見たら、恐ろしくて外に出られないのさ!」
「君は人々を苦しめて支配者になった。考えれば理解ができる。でも、君にそれはやってはいけないことだよって言う人はいなかったの?」
「そんなこと言われたってあたしはやるのさ。なんていったってね、あたしは世界で一番意地悪な魔女だからね」
「君、お友達はいるの?」
「お友達なんてくだらない! あたしは一人が好きなのさ!」
「友達はいいものだよ。一緒に遊べたり、秘密を打ち解けあったり、悲しい時は味方をしてくれる」
「自分で何でも解決できない哀れな奴だね。お前は愚か者だよ。ドロシー」
「人に甘える勇気もないなんて哀れな奴だ。君は愚か者だよ。トゥエリー」
「あたしは愚か者じゃない。魔法で何でもできるから、お友達なんて不要なのさ」

 ドロシーとトゥエリーはまるで正反対です。二人が理解しあえる日はこの先来ないでしょう。価値観がまるで違います。けれどドロシーは、このトゥエリーの考え方を理解してみようと思ったのです。試しに、ここがとても気に入ったドロシーは、トゥエリーにこんなことを言ってみました。

「トゥエリー、僕はもうここには来たくない。ここが気に入らないんだ」
「なんだって? そういうことならまたここに来てやろう。お前を絶対に連れて行くからね! ひひひひ! ざまあみろ! ばーか!」

 ドロシーはなるほど、と思いました。トゥエリーはドロシーとは逆なのです。心優しいドロシー。意地悪なトゥエリー。綺麗な水のお風呂に入るドロシー。汚い泥のお風呂に入るトゥエリー。ドロシーはそうなると、トゥエリーの言ってることがわかりました。オズが厳しくトゥエリーを躾けてしまったせいで、それを愛に感じるようになっているのではないかと思ったのです。

「それなら僕は、この法則に沿って、トゥエリーに色んなことを教えてあげよう」
「にゃあ」
「トト、君も手伝ってくれる?」
「にゃー!」

 けれどそう簡単にはいきません。だって、トゥエリーはとっても意地悪で頑固なもんだから。でもドロシーには法則がわかっていたのです。ですから、心配なことなんてありませんでした。

「僕ね、泥がとっても嫌いなんだ。だから泥のお風呂なんて入らないでおくれよ」
「なんだって? いいことを聞いたね! あたしは今から、泥のお風呂に入ってくるからね! ひひひひ!」
「今日のご飯は君に食べてほしくないんだ。だから今の時間に食べないでね」
「なんだって? いいことを聞いたね! あたしは今すぐにご飯を食べてやる! そして文句を言ってやる! ひひひひ!」

 しかし、そのご飯がとても美味しかったので、トゥエリーは驚いてしまいました。でも、ここで美味しいと言うのは、プライドが許さなかったので、トゥエリーは複雑な顔をして、叫びました。

「まずい!!!!」
「面倒な奴だね。君は」

 ドロシーはその言葉の意味がわかって、くすっと笑ってしまったのでした。




 その様子を、紫の瞳が見ておりました。





「おい」
「おや、これはこれは主様。お会いしたかった。どうして全然姿を見せてくれなかったのです? ああ、でもいいのです。なんていったって、あなた様がこうして来てくれたのですから。さあ、お入りになって」
「お前、名前がつけられたらしいな」
「ああ、あの女の子が好き勝手呼んでるだけです。あたしには主様だけです」
「ほう? ならば足を舐めろ」
「ええ。喜んで。ぺろぺろ」
「いい子だね。西の魔女」
「あたしには主様だけです。あの女の子のことは、あたしにお任せください」
「その女の子はとても厄介な人物だ。毒を盛ってしまえ」
「かしこまりました」
「いい子だね」


 紫の唇は、西の魔女の頬にキスをしました。西の魔女はとても嬉しかったので、つい笑顔を浮かべてしまいました。その瞬間、紫の手に叩かれてしまいました。だから西の魔女は笑うのをやめました。

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