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身勝手な頼み

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 悲しげに言うジェラールの顔をパトリシアは凝視した。

「彼女とはよく出掛けたけれど、どこに行っても彼女が気にするのは人の目。自分が他人にどう映っているかを常に気にしていたよ。だから欲しがるものも常に1番高価なもの。流行りのものもすぐに欲しがった」

 語られる内容に、ミシェルらしいわ、と思いつつパトリシアは黙って話を聞いた。

「それに、格上の貴族位を持つ貴族に会うと凄く不機嫌そうにするんだ。どこに行っても特別目立つ存在になりたかったんだろうね」

 目を閉じて呆れたようなため息をついたジェラールは、パトリシアに向き直ると己を恥じ入るような自虐的な笑みを浮かべた。

「パトリシアとは正反対だよね。昔は控えめなきみよりも明るくて天真爛漫なミシェルのほうが華やかに見えたけれど、今はきみのほうが人としても女性としても優れているとわかる。両親に言われるまま婚約破棄に乗ったけれど、あれは間違いだったよ」

 ふとジェラールが表情を変えた。真剣な顔でパトリシアを見つめる。

「パトリシア、僕達やり直せないかな。きみを裏切った僕を信用できないのは仕方ないと思っている。けど、どうか、チャンスを与えてくれないか?」

 1歩距離が近づき、濃い緑色の目が切実に訴えかけてくる。

 なにを今更言っているの?

 パトリシアは信じられない気持ちで詰められた分だけ後退った。

「今すぐどうこうしたいとは思っていないんだ。パトリシアも気持ちの整理が必要だと思うし。でも、もしまだ少しでも僕のことを気にかけてくれているなら、今度一緒に家でお茶だけでもしてほしい。勿論家が嫌なら外ででもいいよ」

 距離を詰めてパトリシアの手をとったジェラールは懇願するように身近にパトリシアを見下ろした。

「お願いだ、パトリシア。きみのことが忘れられないんだ」

「もしそうだとしても、キミとのお付き合いは反対させてもらうけれどね」

 突然割って入ってきた声にパトリシアとジェラールは揃ってそちらを見た。

「私の妹から離れて貰えるかな?ジェラール・ドゥ・ブラン殿」

 微笑みを携えた口元とは裏腹に、ジェラールを見据える目は酷く冷たい。
 礼装用の白い隊服に身を包んだシャルルは真っ直ぐにジェラールに見据えていた。

「い、妹……?それは一体どういう」

「聞こえなかったかい?パトリシアから離れてくれ」

 先程よりも僅かに声を大きくしたシャルルに、ジェラールはたじろいでパトリシアから数歩離れた。
 満足気ににこりと笑ったシャルルはゆったりとした動作でパトリシアの横に立つ。

「探したよパトリシア。いくら人が多いところが苦手だからといって、主役の1人であるお前がこんなところにいてはダメじゃないか」

「え、あ、すみません……」

 まるでジェラールの存在を無視するかのように話しかけてくるシャルルに戸惑いを感じつつパトリシアはこたえた。
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