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第四話

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「あ、ああ……っ、殿下、おやめください……どうか、どうか、お許しを……」

 分かっている。私がどんなに許しを乞うても、テオドール様は、凍てつくような憤怒を瞳に宿し、こちらを睥睨するだけ。しかし、意味のないことだとしても、口をついて出てくるものをどうこう出来るほど、今の私に余裕はない。

 私の手足首にはめられた枷は、装着者の肉体に干渉する魔術がかけられた魔道具だという。私はその作用のお陰で、テオドール様の目の前に臀部を突き出し、伏せをさせられている状態から動けずにいた。

 恐れ多くもテオドール様の眼前でそのような醜態を晒すなど、冗談でも起こって良いことではない。今すぐにこの状況から解放されたとして、私が真っ先にとる行動は、自刃のほかにないだろう。

 しかし、テオドール様は私にそれ以上の醜態を望まれた。

 数多の蛆虫が背筋を這いまわるような感覚だ。外部からの侵入を頑なに拒んでいたソコ……考えるだけで何度死に救いを求めたか分からない、汚らわしい孔に、殿下の白磁の指先が入り込んでいる。

「あ、ァ……っ ひュ、ぐ……、う、ぅ゛……あ、……! ~~~~っっ、が、か、ハッ……っ は、はぁ……っ、で、んかぁ゛……!」

 凄まじい罪悪感と忌避感。潔白をヒトガタに鋳溶かしたような麗しの御方を、今この瞬間、私という存在が汚している。それなのに、あろうことか、私は……。

「我慢しないで、声を聞かせて、ユーリ」

「っあ゛……♡♡ あぁああア……♡ ゥ゛、うぅ゛~~~~~~ッッ♡♡ ひ、ひぃ……♡ ふあぁ゛っ♡♡」

 テオドール様の指先が、とある一点を掠めると、たまらなく腰砕けになって、雷のような衝撃が仙骨から頸椎にかけてを駆け上がる。すると、聞くに堪えない上ずった声が抑えようもなく飛び出してしまうのだ。

 そんなものが殿下の尊き耳朶を汚すのだと思うと、それだけで、吐き気の形をした希死念慮がせり上がってくる。

「堪らないな……貴方の口から、そんなあられもない声が聞けるなんて」

「ア、ぁあ……っ♡♡ お、ゆるしを……っ♡♡ おゆるしくださいぃ♡♡ あ゛っ!?♡♡ や、だめ、そこ、はっ♡♡ おォ゛……ッ♡♡♡♡」

 テオドール様は、戯れるように掠めるだけだった泣き所を、ふたつ指でぐりぐりと捏ねた。ぞわぞわと粟立つ未知の感覚と共に、視界にバチバチと火花が散って、一瞬、世界の全てが漂白されたかのような浮遊感に襲われる。

 我に返ったとき、私は犬のような姿勢で、そのように呻きながら、抗いようもなく腰を振っていた。その何と無様で屈辱的なことか。こんな姿を、最も見られたくない相手の前に晒してしまっている。心臓を握りつぶされたような絶望から、ドクドクとにじみ出る冷や汗と、それとは対照的な、昂った体温のちぐはぐなコントラストに眩暈が止まらない。

 テオドール様は、そんな私の醜態をじっと眺めながら、嗜虐に喉を震わせ、クツクツと笑う。そして、枷を操って私の身体を仰向けにひっくり返した。

「僕の指で気持ちよくなって、こんなにも淫らな体たらくで……騎士の風上にも置けない。貴方に憧れ、日々研鑽を積む我が国の幾千もの騎士たちにこのザマを見せたら、彼らはどう思うのでしょうね」

「ヒッ、ヒュ、……っ♡♡ お゛♡♡ や、やら゛……♡ ごめらひゃ♡♡ おゆるひくだひゃいぃ……♡♡ あ゛ッ……♡♡ ~~~~!!!!♡♡」

「謝る必要はありません。どうせ、騎士なんかやめて、英雄なんて肩書も過去のものになる。貴方は、僕の、僕だけの花嫁モノになるのだから、そうでしょう?」

「ひょれは♡♡ らめ、らめれひゅ……♡♡ わらひは……♡♡ ア゛っっっ♡♡♡ ひぃ゛♡♡♡ い゛ぃ゛イ゛ッ♡♡♡♡ ッギ♡♡♡♡」

 急に真顔になられたテオドール様は、私のペニスとナカを同時に激しく責め立てる。私は一瞬、呼吸の仕方も忘れ、打ち上げられた魚のように痙攣しながらドロドロと勢い無く射精した。彼はご自身の手のひらに付いた白濁を見せつけるように舐めとり、凶暴な笑みを浮かべ、じっとりと私に詰め寄った。

「婚約解消なんて望んでも、絶対に不可能ですから、諦めることです。僕と貴方の婚約は、王家の誓約の下結ばれた緊密な契約……貴方の意思だけではどうにもならないことはお分かりでしょう? 僕が今、貴方に強いているこの行為は許されても、貴方が逃げることは許されない……ええ、絶対に。僕が婚約解消に応じるなんてこと、例えこの国が滅んでもあり得ないのだから」

 テオドール様の指が、ズルリと後孔から抜けていく。そうではないと分かっていても、粗相と錯覚してしまう、その疚しい感覚が、全身を暴れまわる恥辱に油を注ぎ、体が燃え上がるようだった。カクカクと揺れてしまう腰の動きも直視に耐えないほど浅ましく、情けなさのあまり今すぐに舌を噛み切ってしまおうかとすら考えた。

 閨で相手が舌を噛み切って死んだなどと言う醜聞をテオドール様に擦り付ける訳にもいかないので、ただ、軋むほどに歯を噛み締め、フウフウと息を吐く。

「悔しいでしょうとも、一生の不覚とはまさにこのこと。僕のような軟弱な青二才にまんまと組み敷かれるなんて、誇り高き英雄殿には耐えがたい屈辱でしょうね」

 私の膝裏を掴み、無理やりに広げつつ、鼻先が互いに触れ合うくらいにまで顔を近づけて、テオドール様は舐めるようにそんな恨み言を仰った。今の私の必死の形相をそのように解釈なさるとは。この二年という期間で、貴方の認知における私はどんなに歪んだというのだろう。

「僕のカタチ以外は受け付けられなくなるまで、僕の存在を刻みつけて差し上げましょう。なにもかも忘れ去るまで、気持ちよくなってね、ユーリ」

 絶頂の余韻が未だに燻る下腹部を撫で、テオドール様は舌なめずりする。艶めかしい赤が鮮烈で、隠しきれない情欲の気配が素肌を撫でる。

 ここまで来ても、私はまだ、後戻りする道を探している。

 これ以上は、洒落にならない。何もかも手遅れになってしまう。脳髄を貫くような確信めいた絶望から必死で目をそらし、私は口を開いた。
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