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【1】婚約者と出会った日-②
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若草色のケープに、金の飾り紐。光沢のある繻子のパンツは、脹ら脛でキュッと窄まっている。
僕の瞳の色に合わせた淡い緑柱石のブローチを胸に留め、鏡を見ながら呟いた。
「……子供っぽいけど、まぁいいか」
十二歳の相手には、ちょうどいい格好だろう。
軽い気持ちで邸に赴いた僕を待っていたのは――。
「え? 仔犬?」
思わず口をついて出た言葉に、隣の大人が愉快そうに笑った。
「君がゼッポリーニ家の春の天使、エミーリオか。なるほど、妖精のような愛らしさだ」
天鵞絨のような漆黒の長髪に浅黒い肌、ギラつく銀灰の瞳の偉丈夫が朗々とそう言った。
僕は『ゼッポリーニ家の春の天使』という呼称が苦手なのでうへぇ、という顔をしたが直ぐに目を大きく見開いて誤魔化す。こうすると吃驚した顔が子供のようにあどけないと評判なのだ。
「私はオルシーニ家当主、ヴァンニ・オルシーニ。こっちが次男のディーノ・オルシーニだ」
うわぁ~、この仔犬が本当に僕の婚約者なんだぁ。獣性の強い子供は獣化する事があるって知ってたけど、完全獣体なんて見たのは初めてだよ。すごい。
間近で見る、灰銀色の毛をふわふわと波立たせた、小さな狼の子。
澄んだ瞳がまっすぐ僕を見上げ、ぴすぴすと鼻を鳴らした。
「エミーリオ・ゼッポリーニです。ディーノ、よろしくね」
僕は前世で飼っていた犬を思い出す。
しゃがみ込み、そっと手を差し出すと、仔狼は鼻先を寄せて匂いを嗅いだ。
(かわいい……!)
理性よりも先に手が動く。
モフモフの耳を掻くと、尻尾がぶんぶんと揺れ、目を細めてうっとりした。
「そうかそうか気持ちいいか~。可愛いな~、うりゃうりゃ」
モッフモッフと撫でまくっていたら、後ろからオルシーニ家当主の呆れた声がした。
「狼獣人は犬ではないのだが?」
「あっ、ごめんなさい! この子が可愛くて……」
「まあそう見えるだろうが、これでもオルシーニ家の次男なのだ。勘弁してやってくれ」
「はい……すみません」
手を引くと、ディーノが名残惜しそうに僕を見上げた。
その視線に胸の奥がきゅっと鳴る。
「獣体の彼に、臆せず触れるとは……」
「この子は変わっているのです」と父が苦笑まじりに言う。
“変わっている”――そう言われても、僕は自分のどこが変わっているのか全くわからなかった。
けれども、前世を思い出した今ならその評価もうなずける。
僕の中に常識として刷り込まれた前世の考え方や行動が、今の世界とズレていたのだ。
それはちょっと困るかも? なんて心配をしていたら、オルシーニの当主が軽く咳払いして言った。
「息子はまだ力の制御が出来ん。君の前に出るのは、もう少し先になるだろう」
「はいっ、がんばってください!」
僕はいい笑顔で返した。
――これで疎遠にできる。都合がいい。
そう思いながらも、足元にすり寄ってくる仔狼を抱き上げた。
(でも、可愛い仔犬を撫でられなくなるのは残念だな)
僕はちょっとだけ仔犬との触れ合いを惜しんで、足元に擦り寄るディーノを抱き上げて濡れた鼻先にキスをした。
「君が大きくなったら会おうね」
そう笑った僕は、その時まだ知らなかった。
可愛い仔犬には獣の牙があり、膨大な魔力をその身に宿していることを。
僕の瞳の色に合わせた淡い緑柱石のブローチを胸に留め、鏡を見ながら呟いた。
「……子供っぽいけど、まぁいいか」
十二歳の相手には、ちょうどいい格好だろう。
軽い気持ちで邸に赴いた僕を待っていたのは――。
「え? 仔犬?」
思わず口をついて出た言葉に、隣の大人が愉快そうに笑った。
「君がゼッポリーニ家の春の天使、エミーリオか。なるほど、妖精のような愛らしさだ」
天鵞絨のような漆黒の長髪に浅黒い肌、ギラつく銀灰の瞳の偉丈夫が朗々とそう言った。
僕は『ゼッポリーニ家の春の天使』という呼称が苦手なのでうへぇ、という顔をしたが直ぐに目を大きく見開いて誤魔化す。こうすると吃驚した顔が子供のようにあどけないと評判なのだ。
「私はオルシーニ家当主、ヴァンニ・オルシーニ。こっちが次男のディーノ・オルシーニだ」
うわぁ~、この仔犬が本当に僕の婚約者なんだぁ。獣性の強い子供は獣化する事があるって知ってたけど、完全獣体なんて見たのは初めてだよ。すごい。
間近で見る、灰銀色の毛をふわふわと波立たせた、小さな狼の子。
澄んだ瞳がまっすぐ僕を見上げ、ぴすぴすと鼻を鳴らした。
「エミーリオ・ゼッポリーニです。ディーノ、よろしくね」
僕は前世で飼っていた犬を思い出す。
しゃがみ込み、そっと手を差し出すと、仔狼は鼻先を寄せて匂いを嗅いだ。
(かわいい……!)
理性よりも先に手が動く。
モフモフの耳を掻くと、尻尾がぶんぶんと揺れ、目を細めてうっとりした。
「そうかそうか気持ちいいか~。可愛いな~、うりゃうりゃ」
モッフモッフと撫でまくっていたら、後ろからオルシーニ家当主の呆れた声がした。
「狼獣人は犬ではないのだが?」
「あっ、ごめんなさい! この子が可愛くて……」
「まあそう見えるだろうが、これでもオルシーニ家の次男なのだ。勘弁してやってくれ」
「はい……すみません」
手を引くと、ディーノが名残惜しそうに僕を見上げた。
その視線に胸の奥がきゅっと鳴る。
「獣体の彼に、臆せず触れるとは……」
「この子は変わっているのです」と父が苦笑まじりに言う。
“変わっている”――そう言われても、僕は自分のどこが変わっているのか全くわからなかった。
けれども、前世を思い出した今ならその評価もうなずける。
僕の中に常識として刷り込まれた前世の考え方や行動が、今の世界とズレていたのだ。
それはちょっと困るかも? なんて心配をしていたら、オルシーニの当主が軽く咳払いして言った。
「息子はまだ力の制御が出来ん。君の前に出るのは、もう少し先になるだろう」
「はいっ、がんばってください!」
僕はいい笑顔で返した。
――これで疎遠にできる。都合がいい。
そう思いながらも、足元にすり寄ってくる仔狼を抱き上げた。
(でも、可愛い仔犬を撫でられなくなるのは残念だな)
僕はちょっとだけ仔犬との触れ合いを惜しんで、足元に擦り寄るディーノを抱き上げて濡れた鼻先にキスをした。
「君が大きくなったら会おうね」
そう笑った僕は、その時まだ知らなかった。
可愛い仔犬には獣の牙があり、膨大な魔力をその身に宿していることを。
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