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【3】ジュリアーナの恋-②
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「一人で帰りなさいよ! いつも、いつも、あんたばかりがチヤホヤされて――私だって誰かに甘えたいのよ!」
(……そっか。姉を強い人、羊の獣人らしくないリーダーシップを取れる人だと思い込んでいたけど、誰かに頼りたい一面もあったんだ。姉も僕を羨むことがあるんだ)
そう思ったら、なんだか気が楽になった。
「姉さん。僕、男だからもっと強くなるよ。もうすぐ大人だし――」
「こんなに可愛いのに大人だって? なあ、ちょっとこっちに来いよ。膝の上に乗せてやる」
「ちょ、やめろっ!」
トーニオが身体を寄せてきて、僕は本気で焦った。
熊とか犬の獣人って、小さいものを構いたがる性分らしい。
「んー、いい匂いがする」
「匂いを嗅ぐなっ!」
迫ってくる巨体に逃げ場がない。
助けを求めて姉を見ると、彼女の目が据わっていた。
「私がすり寄っても見向きもしなかったくせに……」
「姉さん、たぶん、この人は追いかけられるより追う方が好きなタイプだよ」
「そういう受け身なのは、性に合わないのよっ!」
姉さん、そういうところだぞ。
「ああ、もういいわ。他の男を探してくるから、あんたは勝手に帰りなさい」
「ちょっ、姉さん! それは駄目だって!」
姉は僕の声を無視してフロアの奥へ消えた。
……まいったな。無意識に酒を口にして、気づけばグラスは空だった。そこですかさずトーニオがおかわりを勧めてくる。
「同じものでいいか?」
「いえ、もう帰りますから」
「一杯だけ飲んで帰るのか? もう少しいろよ」
「でも、姉もいないし」
「なら戻ってくるまで待っていればいい」
トーニオがとにかくしつこい。僕はなんとか交渉してもう一杯だけ飲んだら帰れることになったけど、飲んでいる間も口が小さくて可愛いだの頬が染まって美味しそうだのうるさくて敵わない。
それでなるべく急いで飲み干したんだけど、思ったより度数が強かったのか頭が少しボーッとする。
「飲んだから帰る」
「じゃあ送っていってやるよ」
「いい。大丈夫」
僕は強引にトーニオを振り切って外に出たものの、足元がふらつく。人気のない夜道、月明かりだけが頼りで不安になる。
その時、背後から肩を掴まれる。
「やっぱり送っていく!なんなら家に泊めてもいい」
「げ、トーニオ!?」
わざわざ追って来るなんて怖い。
抵抗しても、酔って鈍い僕の動きなんて通用しない。
「ほら、暴れるな。酔いが回るぞ」
手首を掴まれ、顎を掬われ、宥めるような口づけが降りてきて、僕は必死に顔を反らした。
「ヤダってば!」
情けなく涙が滲んだ、その瞬間。
月が翳って、目の前が暗くなる。
「その手を離せ」
低く唸るような声が闇を裂く。
トーニオが振り返るより早く、影が動いた。
「俺の番に触れるな!」
烈しい声が響き、月光を浴びた長髪の男がトーニオに飛び掛かる。次の瞬間、僕は強い腕に抱き寄せられ、熱い吐息が耳元で囁いた。
「大丈夫か、エミーリオ?」
耳に心地よい声。
見上げれば、銀灰の瞳。どこか、懐かしい気がする。
「……君は?」
彼の腕の中で、心臓が不思議なほど速く鼓動していた。
僕は振り回され過ぎて霞む目を必死に開いて、男をよく見ようとした。月明かりを一身に集めたようなそいつは長く黒い髪をしていて、チカリチカリと彗星のように銀色のメッシュが煌めく。
瞳は揺らめく銀河で、でもよく見ると中心にアイスブルーが混じっている。
不思議な色彩、異邦人みたいな風体、でもなんだか懐かしい気もする。
「あなたはだぁれ?」
目を凝らす。
黒髪の間を走る銀の筋、夜空を映したような瞳。
異国のような美しさなのに、不思議と心がざわめいた。
「あなたは……だぁれ?」
回らない舌で尋ねた僕に、男は小さく何かを囁いた。
でも聞き取れない。
ただ、目を閉じる間際――黒い翼が月光を裂くのを見た気がした。
(……そっか。姉を強い人、羊の獣人らしくないリーダーシップを取れる人だと思い込んでいたけど、誰かに頼りたい一面もあったんだ。姉も僕を羨むことがあるんだ)
そう思ったら、なんだか気が楽になった。
「姉さん。僕、男だからもっと強くなるよ。もうすぐ大人だし――」
「こんなに可愛いのに大人だって? なあ、ちょっとこっちに来いよ。膝の上に乗せてやる」
「ちょ、やめろっ!」
トーニオが身体を寄せてきて、僕は本気で焦った。
熊とか犬の獣人って、小さいものを構いたがる性分らしい。
「んー、いい匂いがする」
「匂いを嗅ぐなっ!」
迫ってくる巨体に逃げ場がない。
助けを求めて姉を見ると、彼女の目が据わっていた。
「私がすり寄っても見向きもしなかったくせに……」
「姉さん、たぶん、この人は追いかけられるより追う方が好きなタイプだよ」
「そういう受け身なのは、性に合わないのよっ!」
姉さん、そういうところだぞ。
「ああ、もういいわ。他の男を探してくるから、あんたは勝手に帰りなさい」
「ちょっ、姉さん! それは駄目だって!」
姉は僕の声を無視してフロアの奥へ消えた。
……まいったな。無意識に酒を口にして、気づけばグラスは空だった。そこですかさずトーニオがおかわりを勧めてくる。
「同じものでいいか?」
「いえ、もう帰りますから」
「一杯だけ飲んで帰るのか? もう少しいろよ」
「でも、姉もいないし」
「なら戻ってくるまで待っていればいい」
トーニオがとにかくしつこい。僕はなんとか交渉してもう一杯だけ飲んだら帰れることになったけど、飲んでいる間も口が小さくて可愛いだの頬が染まって美味しそうだのうるさくて敵わない。
それでなるべく急いで飲み干したんだけど、思ったより度数が強かったのか頭が少しボーッとする。
「飲んだから帰る」
「じゃあ送っていってやるよ」
「いい。大丈夫」
僕は強引にトーニオを振り切って外に出たものの、足元がふらつく。人気のない夜道、月明かりだけが頼りで不安になる。
その時、背後から肩を掴まれる。
「やっぱり送っていく!なんなら家に泊めてもいい」
「げ、トーニオ!?」
わざわざ追って来るなんて怖い。
抵抗しても、酔って鈍い僕の動きなんて通用しない。
「ほら、暴れるな。酔いが回るぞ」
手首を掴まれ、顎を掬われ、宥めるような口づけが降りてきて、僕は必死に顔を反らした。
「ヤダってば!」
情けなく涙が滲んだ、その瞬間。
月が翳って、目の前が暗くなる。
「その手を離せ」
低く唸るような声が闇を裂く。
トーニオが振り返るより早く、影が動いた。
「俺の番に触れるな!」
烈しい声が響き、月光を浴びた長髪の男がトーニオに飛び掛かる。次の瞬間、僕は強い腕に抱き寄せられ、熱い吐息が耳元で囁いた。
「大丈夫か、エミーリオ?」
耳に心地よい声。
見上げれば、銀灰の瞳。どこか、懐かしい気がする。
「……君は?」
彼の腕の中で、心臓が不思議なほど速く鼓動していた。
僕は振り回され過ぎて霞む目を必死に開いて、男をよく見ようとした。月明かりを一身に集めたようなそいつは長く黒い髪をしていて、チカリチカリと彗星のように銀色のメッシュが煌めく。
瞳は揺らめく銀河で、でもよく見ると中心にアイスブルーが混じっている。
不思議な色彩、異邦人みたいな風体、でもなんだか懐かしい気もする。
「あなたはだぁれ?」
目を凝らす。
黒髪の間を走る銀の筋、夜空を映したような瞳。
異国のような美しさなのに、不思議と心がざわめいた。
「あなたは……だぁれ?」
回らない舌で尋ねた僕に、男は小さく何かを囁いた。
でも聞き取れない。
ただ、目を閉じる間際――黒い翼が月光を裂くのを見た気がした。
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