水の都~二十年越しの恋~

海野ことり

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⑤色に出る−2(R−18)

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 一方、三津弥が出ていって二人きりになった部屋で彦十朗が蓮治を詰った。

「蓮治さん、ここはあたしのような者を連れてくる場所じゃないでしょうが。可哀想に、若旦那に気詰まりな思いをさせましたよ」
「そんな事はないさ。信乃なんてふらりとやって来ては好き勝手に上がり込んで、三津弥の膝を枕に寝てしまうからねぇ」
「また冗談ばかり言って」
 そんな事は店が許さないだろう、と全く信じていない彦十朗の態度を見て蓮治が困ったように笑った。

「それがねぇ、この店の人は女将を始めとしてみんなあいつに弱いんだよ」
「確かに綺麗なお人ですが、甘やかす年でもないでしょう?」
 蓮治と同じなら今年で三十五になる筈だ。

「あれは子供っぽい男だが、それが理由じゃないよ。一流は一流を知るって奴だ」
「その伝だと、あたしは一流じゃないって事になりますね」
「なぁに、見てるところが違うのさ」
「蓮治さん!」
 険のある目付きをした彦十朗を蓮治が強引に引き寄せた。

「そんなに眉を逆立てるんじゃないよ。可愛い顔が台無しだろう」
「誤魔化さないで――ンンッ」
 上から覆い被さるように口を吸われて直ぐに彦十朗の抵抗が止む。
 しつこく舌を舐られて、やっと離れた時には彦十朗の瞳が蕩けていた。

「場所を移すかい? それともここで――」
「ちゃんとして下さいな」
 彦十朗に詰るように言われて蓮治は場所を馴染みの宿に移した。

 ***

 彦十朗は俯せで布団に両肘を付き、散らばった髪を両手で掬い上げた。

「ああ、髪が重い。雨が降ってきたでしょう」
「そのようだね」
 蓮治は窓の桟に腰掛け、物憂く煙管を吹かせながら外を眺めている。

「閉めてよ」
「うん?」
「だから窓。湿気は嫌いなんだ」
「どうせ濡れている癖に」
 そう言って薄く笑んだ口元が素人の癖に色っぽく、男のこのさらりとした艶にやられたのだと彦十朗は苦々しく思う。
 女でも男でも抱きたいと思いはしても、抱かれたいと思った事はなかった。けれど蓮治ならば、彼ならば抱かれてもいいと思い、あっさりと身を任せてしまった。

「あなたが酔うとしつこいからだよ」
「わたしはあのくらいじゃ酔わないさ」
 笑ったまま言われて彦十朗はぽすん、と枕に頭を沈めた。

(全く参った。これで計算では無いのだから性質が悪い)

「酔ってないのに俺の声を無視したの?」
「何がだい?」
 質問に質問で返されてムッとしながら彦十朗は声を上げる。

「『止めて』って言った。『待って』とも、『嫌だ』とも」
 それを聞いて蓮治が楽しそうにくつくつと笑い出した。

「蓮治さんっ!」
 怒る彦十朗に蓮治は悪びれずに答える。

「だってお前、『止めて』と言いながら腰をわたしの手に預けたままで、『待って』と言いながら後ろを引き絞って、『嫌だ』と言いながら啼かれちゃあ止められんよ。分かるだろうが」
 つけつけと言われて彦十朗は唇を噛んだ。
 続けて責められて本気で制止したつもりだったが、それは逆効果でしかなかった。そんなの同じ男なんだから分かっている筈なのに、蓮治の手に掛かるといいように転がされてしまうのだ。この自分が。

「楽しんで貰えたようで何よりですよっ!」
 精々、強がりを言った彦十朗に、蓮治は煙管を置き障子を閉めてから向き直った。

「うん、楽しかったよ。だからね、続きが欲しいな」
「じょう……だん。俺は明日も稽古があるんですよ?」
 顔を青褪めさせる彦十朗に蓮治は済まなそうな顔で苦笑して見せる。

「手加減はしてあげるよ」
(絶対に嘘だ!)
 そう思ったけれどその気になった蓮治を止められる筈もなく、彦十朗は諦めて自分の身体に手を掛けた男を見上げた。
 大らかで優しくて親切で、地位も名声も金も持っている。だのにその瞳には何処か空々しい虚無が潜んでいた。
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