水の都~二十年越しの恋~

海野ことり

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㉘秋の実り−2(R−18)

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「違う、感じてなんて……」
 赤い顔でそっぽを向いた信乃の胸を蓮治はしつこく舐め回した。
 舌先で弾くように擦り、カリリと噛んだら信乃がいい声で鳴いた。

(クソッ!)
 信乃の声が嬉しい。嬉しいけど悔しい。
 蓮治はついムキになって執拗に信乃の胸を嬲り、気が付いたら信乃が半泣きで着物を乱した姿でもどかしげに布団を蹴っていた。

「もぅ、やぁ……」
 信乃の盛り上がった股間を見て、蓮治は慌てて胸から唇を離した。

「どうする? 手で出すか?」
「……出来ない」
 多分、射精する程の体力もない。
 そう言った信乃の顔から涙を拭い、蓮治は出さずに鎮めてやるから力を抜いていろと言った。

(出さずに鎮める?)
 信乃は蓮治の言う事がわからなかったが、どうにかして貰えるならと身を任せた。
 蓮治が白い肌によく映える赤い下帯を解いて、前を解放したら信乃のそれは半勃ちで先端をしとどに濡らしていた。

(薄桃色でこんな所まで可愛い)
 蓮治は躊躇する事無く頭から齧り付いた。

「ひっ!」
 陰茎をすっぽりと呑み込まれ、けれど締め付ける事無くやわやわと口内で揉まれる。
 撫でるような柔らかな愛撫は射精にまで至らないものの気持ちがいい。

「れんじィ……」
 膝を立てたまま信乃が艶めかしく白い身体を揺らして喘ぐ。
 赤く上気した表情も、唇から溢れる熱い吐息も、蒼い影を作る剥き出しの脚も全てが色っぽい。
 蓮治は信乃にこんな姿を見せられている事が信じられない。
 自分には硬く刺々しい態度ばかり取っていたのに。

(信乃、少しはわたしに可愛がられたいと思っていたのかい?)
 聞いてみたいが素直に答えるとは思えない。
 きっとそんな訳あるかと否定されるだろう。

「蓮治、少しくらい、強くしてくれても……」
(ダメダメ。感じさせずに鎮めているだけだからね。続きはもう少し体力が付いてからだよ)
 蓮治は決して信乃を逃がす気はなかったが、同時に性急に事を進めるつもりもなかった。
 急いては事を仕損じると言うし、やっと手に入れたのだから少しずつ少しずつ溶かすようにして大事に食べるのだ。

「蓮治……かおを、見せて」
 すんっと鼻を鳴らす音が聴こえて蓮治は目を上げた。
 信乃が口をへの字に曲げ、眉を下げた情けない顔でこちらを見ていたのでプッと笑いながら口を離した。

「淋しくなってしまったのかい?」
「かお、見えないのはヤダ」
「余り可愛いことを言うんじゃないよ」
 蓮治は信乃の頬を撫でながら目元やこめかみに口付けた。
 それから額の生え際を撫で、信乃が眠るまでゆっくりと髪を撫でつけてやった。
 子供のような顔で眠ってしまった信乃の着物を直し、布団を掛けて自分は隣に寝転がったまま飽きずに信乃の顔を眺めた。
 骨に皮が張り付くように小さくなってしまった顔が痛ましく、大事にしてやらなくてはと思う。

(信乃は黙って消えてしまうつもりだったんだろうなぁ)
 昔っから、自分の事は二の次、三の次にしてしまう男だった。
 自己主張が激しいようでいて、肝心な所で引っ込んでしまう。
 まるで他人の邪魔になる事を恐れているようだった。

(わたしは君を邪魔だと思ったことなど一度もないからね。君の為に生きてきたし、それ以外に生きる理由などないのだから)
 その想いを態度で示すように、蓮治は信乃を大事に大事に可愛がって世話をした。
 口付けも、抱擁も、柔らかな眼差しも愛しむ言葉も惜しまず与えた。
 その甲斐あって、秋口に差し掛かる頃には見違えるように元気になった信乃が家へ戻ると言いだした。


「えええっ!? ここで暮らしなよ!」
 吃驚した蓮治がそう声を上げたが、信乃は静かに首を横に振った。

「それは筋が違うだろ。世話をして貰えたのはありがたかったけど、もうすっかり良いんだから家に帰る」
「信乃~」
 それはあんまりだと駄々を捏ねる蓮治に信乃が言う。

「それにな、俺は一人になって中棗を作りたい」
「それは……」
「お前だって、俺に仕事を辞めろとは言わないだろう?」
「うぅぅ……」
 まさにその為に蓮治は信乃に手を出さずに我慢してきたのだ。抱いて可愛がって、信乃の職人としての生活を邪魔してはいけない。一緒に過ごす為に創作の為の時間を奪ってはいけない。

「でもっ、わたしは君と――」
「わかってる。戻る前にちゃんとお前と結ばれる」
「信乃ッ!」
「あのな、俺だってお前に抱かれたい。ちゃんとお前のものになって、睦まじくしたい。けれど、それでも仕事をする時は一人になるよ。何かおかしいか?」
「……いいや。君を見誤っていたわたしを殴ってくれ」
「おうよ。後で幾らでも殴ってやる。ただし今は……最後まで抱いてくれよ」
 真っ直ぐに、熱っぽく誘われて蓮治は信乃を掻き抱いた。
 もう少しずつなんてまどろっこしい事をしている余裕は何処にもなかった。
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