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㉘秋の実り−1(R−18)
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「ん、みず……」
信乃は喉の乾きに夢うつつのまま呟いて、しっとりと合わさってきた唇から温い水を流し込まれてんくんくと喉を鳴らして飲んだ。
「おいし、もっと……ふぅっ……」
二度、三度と水を飲まされ、そのまま入り込んできた舌を吸う。
気持ちよくて甘くて美味しい、と思った所で正気付いた。
「んう~っ!」
「こら、暴れるんじゃないよ。まだ安静にしてなくちゃあ」
「蓮治っ!」
信乃は蓮治に覆い被さられたまま、自分が寝かされているのが料亭とは違う場所だと気付いて毛を逆立てた。
この男は野放図なように見えて、知らない場所では落ち着くことが出来ない。
「信乃、ここはわたしの部屋だから、ちったぁ落ち着きな」
「れん、じの?」
実を言うと信乃は蓮治の部屋には入ったことがない。
喜多屋などという大店には自分から近寄らなかったし、用があれば料亭にでも呼び出した。
「道具屋みてぇ……」
キョロキョロと大きな目を動かしてから信乃がそう言った。
蓮治の部屋は細々とした道具が沢山置かれていて、散らかっている訳ではないが雑然とした雰囲気だった。
「番頭には価値のないものは処分しろと言われているんだけどね。捨てられない性分なんだよ」
火事や暴動で家と家族を失くし、無くなる時は全て一瞬だとわかっているのに蓮治は物を捨てる事が出来ない。手元に置いてしまう。
「俺とは逆だな。俺ぁ、何も持たない方が良い」
信乃は綺麗な物を見るのは好きだったが、所有しようとは思わなかった。
手に入れるという発想自体が余り無かった。
「君は自分の作品も手元に置きたがらないから」
「当たり前だろう。売り物なんだから」
それは師匠の作品ならば見本として幾つか持っていたいが、今ではとんでもない高値が付いてしまっていて手に入れる事など出来ない。
第一に手放そうとする人が少なく、それだからこそ文箱だって譲って貰えなかったのだ。
(そう言えば、中棗を超えるものを作って交換して貰えばいいと蓮治は言っていた。あの中棗があるなら見せて貰って、今度こそあれを超える物を――)
「信乃、また仕事の事を考えていたね?」
蓮治に咎めるように言われて信乃は逆に掴み掛かった。
「蓮治、中棗を見せてくれ。俺ぁ今度こそあれを超える物を作る!」
「駄目だよ、元気になってからにおし」
「もうなんともないって」
「嘘をつけ。だったらわたしを押し退けてごらん」
そう言って上から圧し掛かってくる相手の胸に手を当て、必死に押し返したがびくともしない。
「お前が重すぎるんだよ。退いて――」
「嫌だね。いい加減、ずっと我慢していたわたしの気持ちを察してくれてもいいだろう?」
「が……まん?」
信乃はドキリと胸を高鳴らせて呟いた。
遊び人の蓮治は色んな人間を相手にしてきたが、信乃に手を出そうとした事は一度もない。まさかそんなつもりがあったとは夢にも思わなかった。
「俺がどんな格好をしていたって、平気そうにしていたじゃねぇか」
「平気じゃないよっ! 平気じゃないから必死に目を背けて来たんじゃないか。君ときたら無防備に酔っ払うし肌を色付かせるし着物の裾が肌蹴ても気にしないし、わたしはその度に直せと注意しただろう」
「……見苦しいんだとばかり思ってた」
「呆れたね」
(だって男の幼馴染が自分をそんな目で見ているなんて、誰が思うんだよっ! しかも俺を相手にさぁ!)
信乃はそう噛み付きたかったが、慶太郎に可愛がられた所為で今では自分の身体でも男を誘えるのだと知っている。
魅力的だとまでは思っていないが、中にはそういった酔狂な奴もいるのだろう。この男みたいに。
「今度からは気を付けるよ」
「そうだね、わたしの前だけにしてくれ」
「蓮治?」
信乃が自分の上から退かない男を不思議そうに見上げたら、相手は随分と苦しそうな顔をしていた。
「病人に手を出したりはしない。でも、少しだけ……ほんの少しだけ、許してくれ」
そう言うと蓮治はもう一度信乃の唇に吸い付いた。
唇を柔らかく食んで、そっと舌を差し込んでチロチロと信乃の舌をくすぐって誘う。
そんな事をされては信乃だって反応せずにいられない。
「ンンッ……」
目を閉じて舌を絡ませたら耳たぶを同時に擦られた。
信乃は背中に熱くゾクゾクとしたものが走り、甘ったるい息を吐いてしまう。
「蓮治、ちょっとって言った――」
「ちょっとだろう?」
耳を弄りながら口付けられて、信乃は異様に感じてしまった。
相手は子供の頃から知っている男なのに、なのに自分は蓮治がこんな風に触れると知らなかったのだ。
「れんじ、もっと……」
信乃は触って欲しくて自分から襟を寛げる。
それを見た蓮治が目の色を変えた。
「信乃ッ!」
首筋を吸いながら這い回る感触にハァハァと信乃の息が荒くなる。
啄むように何度もしつこく吸われ、ビクビクと震えながら信乃はそんなところが感じると初めて知った。
(ハァ、なんで……)
慶太郎にされるのとはぜんぜん違う。
比べてはいけないのだろうが、気恥ずかしさと期待と訳のわからないもどかしさに布団を掻き毟った。
「信乃……」
酷く興奮した蓮治にそっと膨らんだ乳首を吸われ、信乃は背中を反らして胸を突き出すように喘いだ。
「んぁぁっ!」
「信乃、感じるのかい?」
男の乳首はそこで感じる事を教えなければ快楽を得る事は出来ない。だから信乃が余程に淫乱な体質でない限りは経験があるという事だ。
(それはそうだ、だって信乃は慶太郎と……)
蓮治の胸に妬心が湧き起こった。
信乃は喉の乾きに夢うつつのまま呟いて、しっとりと合わさってきた唇から温い水を流し込まれてんくんくと喉を鳴らして飲んだ。
「おいし、もっと……ふぅっ……」
二度、三度と水を飲まされ、そのまま入り込んできた舌を吸う。
気持ちよくて甘くて美味しい、と思った所で正気付いた。
「んう~っ!」
「こら、暴れるんじゃないよ。まだ安静にしてなくちゃあ」
「蓮治っ!」
信乃は蓮治に覆い被さられたまま、自分が寝かされているのが料亭とは違う場所だと気付いて毛を逆立てた。
この男は野放図なように見えて、知らない場所では落ち着くことが出来ない。
「信乃、ここはわたしの部屋だから、ちったぁ落ち着きな」
「れん、じの?」
実を言うと信乃は蓮治の部屋には入ったことがない。
喜多屋などという大店には自分から近寄らなかったし、用があれば料亭にでも呼び出した。
「道具屋みてぇ……」
キョロキョロと大きな目を動かしてから信乃がそう言った。
蓮治の部屋は細々とした道具が沢山置かれていて、散らかっている訳ではないが雑然とした雰囲気だった。
「番頭には価値のないものは処分しろと言われているんだけどね。捨てられない性分なんだよ」
火事や暴動で家と家族を失くし、無くなる時は全て一瞬だとわかっているのに蓮治は物を捨てる事が出来ない。手元に置いてしまう。
「俺とは逆だな。俺ぁ、何も持たない方が良い」
信乃は綺麗な物を見るのは好きだったが、所有しようとは思わなかった。
手に入れるという発想自体が余り無かった。
「君は自分の作品も手元に置きたがらないから」
「当たり前だろう。売り物なんだから」
それは師匠の作品ならば見本として幾つか持っていたいが、今ではとんでもない高値が付いてしまっていて手に入れる事など出来ない。
第一に手放そうとする人が少なく、それだからこそ文箱だって譲って貰えなかったのだ。
(そう言えば、中棗を超えるものを作って交換して貰えばいいと蓮治は言っていた。あの中棗があるなら見せて貰って、今度こそあれを超える物を――)
「信乃、また仕事の事を考えていたね?」
蓮治に咎めるように言われて信乃は逆に掴み掛かった。
「蓮治、中棗を見せてくれ。俺ぁ今度こそあれを超える物を作る!」
「駄目だよ、元気になってからにおし」
「もうなんともないって」
「嘘をつけ。だったらわたしを押し退けてごらん」
そう言って上から圧し掛かってくる相手の胸に手を当て、必死に押し返したがびくともしない。
「お前が重すぎるんだよ。退いて――」
「嫌だね。いい加減、ずっと我慢していたわたしの気持ちを察してくれてもいいだろう?」
「が……まん?」
信乃はドキリと胸を高鳴らせて呟いた。
遊び人の蓮治は色んな人間を相手にしてきたが、信乃に手を出そうとした事は一度もない。まさかそんなつもりがあったとは夢にも思わなかった。
「俺がどんな格好をしていたって、平気そうにしていたじゃねぇか」
「平気じゃないよっ! 平気じゃないから必死に目を背けて来たんじゃないか。君ときたら無防備に酔っ払うし肌を色付かせるし着物の裾が肌蹴ても気にしないし、わたしはその度に直せと注意しただろう」
「……見苦しいんだとばかり思ってた」
「呆れたね」
(だって男の幼馴染が自分をそんな目で見ているなんて、誰が思うんだよっ! しかも俺を相手にさぁ!)
信乃はそう噛み付きたかったが、慶太郎に可愛がられた所為で今では自分の身体でも男を誘えるのだと知っている。
魅力的だとまでは思っていないが、中にはそういった酔狂な奴もいるのだろう。この男みたいに。
「今度からは気を付けるよ」
「そうだね、わたしの前だけにしてくれ」
「蓮治?」
信乃が自分の上から退かない男を不思議そうに見上げたら、相手は随分と苦しそうな顔をしていた。
「病人に手を出したりはしない。でも、少しだけ……ほんの少しだけ、許してくれ」
そう言うと蓮治はもう一度信乃の唇に吸い付いた。
唇を柔らかく食んで、そっと舌を差し込んでチロチロと信乃の舌をくすぐって誘う。
そんな事をされては信乃だって反応せずにいられない。
「ンンッ……」
目を閉じて舌を絡ませたら耳たぶを同時に擦られた。
信乃は背中に熱くゾクゾクとしたものが走り、甘ったるい息を吐いてしまう。
「蓮治、ちょっとって言った――」
「ちょっとだろう?」
耳を弄りながら口付けられて、信乃は異様に感じてしまった。
相手は子供の頃から知っている男なのに、なのに自分は蓮治がこんな風に触れると知らなかったのだ。
「れんじ、もっと……」
信乃は触って欲しくて自分から襟を寛げる。
それを見た蓮治が目の色を変えた。
「信乃ッ!」
首筋を吸いながら這い回る感触にハァハァと信乃の息が荒くなる。
啄むように何度もしつこく吸われ、ビクビクと震えながら信乃はそんなところが感じると初めて知った。
(ハァ、なんで……)
慶太郎にされるのとはぜんぜん違う。
比べてはいけないのだろうが、気恥ずかしさと期待と訳のわからないもどかしさに布団を掻き毟った。
「信乃……」
酷く興奮した蓮治にそっと膨らんだ乳首を吸われ、信乃は背中を反らして胸を突き出すように喘いだ。
「んぁぁっ!」
「信乃、感じるのかい?」
男の乳首はそこで感じる事を教えなければ快楽を得る事は出来ない。だから信乃が余程に淫乱な体質でない限りは経験があるという事だ。
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蓮治の胸に妬心が湧き起こった。
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