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㉝お師匠様がやってきた−1
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あれからハヌマーンと何度も話し、お師匠様を呼び出す方法や緊箍児を壊す方法を考えたけれどどうにも上手くいかなかった。
「もうっ、いっそあんたの頭を切るか?」
「アホウ、死んでしまうだろっ!」
「死んだら気付いて貰えるんだろ? 一度死んで生き返らせて貰えば?」
「無茶を言うなっ!」
そんな乱暴なやり取りにもすっかり慣れ、俺はちょっとばかりハヌマーンに情が移っていた。
(お師匠様とやらも、こいつが修行を終えた時に緊箍児を外してやれば良かったのに。あ、でも結局は色欲が過ぎて天界を追われたんだから、外さなくて正解だったのか? でも自分の都合で人を縛るのはなぁ、やっぱり良くないよなぁ)
「それ、どうやったら外れるんだろうなぁ。外れろって言ったら外れたりしないかなぁああああっ!?」
ヤバイ、本当に外れてしまった。
「イチヤ! 凄いぞ!」
「こんなんで外れるなよっ!」
俺は思わず文句を言い、顔を青褪めさせていたが窓の外が俄に明るくなっていよいよドキドキする。
「まさかもう?」
「お師匠様は光を背負っているからな」
「神々しいな!」
一体どんな神だ、と戦々恐々とする俺の前でロクが部屋に駆け込んできた。
「チヤッ、何があった!」
「緊箍児が外れた!」
「まさか!?」
「それが外れろって言ったら外れちゃったんだよ」
「そうか……」
ロクもそれ以上は何も言わなかった。
そもそも俺に緊箍児を操れる理由だってわかってないんだ。
「それより外が不自然に明るい。来るぞ」
「うんっ!」
俺はロクに背後に庇われながらお師匠様が来るのを待った。
空の一際明るい一角からたなびく雲が近付いてきて、チャンカチャンカとシタールや鐘の音が響いてくる。
スルスルと気持ちの悪い動きで近付いてきた雲は、煙を漂わせながら俺たちと同じ目線になるよう窓の外に留まった。
雲の上には白い子像に乗った美形の僧侶がいて、なるほどハヌマーンが女と間違えても仕方がないと思える線の細さだった。
「ハヌマーン、緊箍児が外れたのですね。おめでとう」
「はっ、お師匠様、ありがとうございます」
「外したのは……そなたですね?」
ラクダみたいに長い睫毛をバサバサと扇がせながらの流し目を送られ、俺はロクの背中からそっと出ながらキャラが濃いぃなと思った。
流石はハヌマーンのお師匠様だ。
「ええっと、初めまして。柚木一哉と言います。何故か外れてしまいました」
「ふむ、そなたは人間ですね?」
「そりゃあ――」
「純血種の人間ですね?」
「……はい」
そう言えばこっちの人間は獣人との混血で、殆ど純血種はいないと言っていた。
俺が異世界人ってのもばれちゃうかなぁ。
「ハヌマーンに襲われませんでしたか?」
「えっと、俺は男なんでぇ……」
「ハヌマーンなら性別など気にしないでしょう」
「お師匠様、俺は男に興味はありませんぜ!」
ハヌマーンが流石に苦情を言った。
だがこのお師匠様、ハヌマーンの事をよくわかっていらっしゃる。
「ハヌマーン、私の目は節穴ではありませんよ。興味のない者の側にお前が留まる筈はないでしょう」
「興味は、ある」
「襲ったのですね?」
「襲ってねえっ!」
「襲われてませんっ!」
俺とハヌマーンがほぼ同時に叫んだ。
このお師匠様、ちょっと面倒臭くなってきた。
「それよりも、ハヌマーンが堕神となったのは知っているか?」
ロクが淡々と口を挟んだら、お師匠様は素気ない視線をチラリと向けた。
「知っています。私のところにも話は伝わってきましたから」
「止めようとは思わなかったのか?」
「止める理由がありません。神になるのも、下界に降りるのも、全てはハヌマーンの運命です」
「運命っていうか、自業自得?」
「そうとも言います」
ハハッ、いい性格をしているなぁ。
「お師匠様、俺は天界に未練はありません。しかし不死薬が作れないのは辛い」
「ハーレムの為にですか?」
「何故それをっ!」
「私はお前の師ですよ。そのくらいのことはわかります」
えー、もしかしてどっかで見てたんじゃないの?
なんか怖ぇ。
「ハヌマーン、あなたが下界に落とされた本当の理由は、色欲に溺れたからではありません。あなたが天界に馴染もうとしなかったから、あのまま天界で神として過ごすのは向いていないと判断されたのです」
「ですが、改心するまで天界に戻ることまかりならぬと――」
「それはけじめというものです」
あっ、ハーレムはハーレムでやっぱり怒ってたんじゃないかな?
お師匠様の笑顔がちょっと怖い。
「もうっ、いっそあんたの頭を切るか?」
「アホウ、死んでしまうだろっ!」
「死んだら気付いて貰えるんだろ? 一度死んで生き返らせて貰えば?」
「無茶を言うなっ!」
そんな乱暴なやり取りにもすっかり慣れ、俺はちょっとばかりハヌマーンに情が移っていた。
(お師匠様とやらも、こいつが修行を終えた時に緊箍児を外してやれば良かったのに。あ、でも結局は色欲が過ぎて天界を追われたんだから、外さなくて正解だったのか? でも自分の都合で人を縛るのはなぁ、やっぱり良くないよなぁ)
「それ、どうやったら外れるんだろうなぁ。外れろって言ったら外れたりしないかなぁああああっ!?」
ヤバイ、本当に外れてしまった。
「イチヤ! 凄いぞ!」
「こんなんで外れるなよっ!」
俺は思わず文句を言い、顔を青褪めさせていたが窓の外が俄に明るくなっていよいよドキドキする。
「まさかもう?」
「お師匠様は光を背負っているからな」
「神々しいな!」
一体どんな神だ、と戦々恐々とする俺の前でロクが部屋に駆け込んできた。
「チヤッ、何があった!」
「緊箍児が外れた!」
「まさか!?」
「それが外れろって言ったら外れちゃったんだよ」
「そうか……」
ロクもそれ以上は何も言わなかった。
そもそも俺に緊箍児を操れる理由だってわかってないんだ。
「それより外が不自然に明るい。来るぞ」
「うんっ!」
俺はロクに背後に庇われながらお師匠様が来るのを待った。
空の一際明るい一角からたなびく雲が近付いてきて、チャンカチャンカとシタールや鐘の音が響いてくる。
スルスルと気持ちの悪い動きで近付いてきた雲は、煙を漂わせながら俺たちと同じ目線になるよう窓の外に留まった。
雲の上には白い子像に乗った美形の僧侶がいて、なるほどハヌマーンが女と間違えても仕方がないと思える線の細さだった。
「ハヌマーン、緊箍児が外れたのですね。おめでとう」
「はっ、お師匠様、ありがとうございます」
「外したのは……そなたですね?」
ラクダみたいに長い睫毛をバサバサと扇がせながらの流し目を送られ、俺はロクの背中からそっと出ながらキャラが濃いぃなと思った。
流石はハヌマーンのお師匠様だ。
「ええっと、初めまして。柚木一哉と言います。何故か外れてしまいました」
「ふむ、そなたは人間ですね?」
「そりゃあ――」
「純血種の人間ですね?」
「……はい」
そう言えばこっちの人間は獣人との混血で、殆ど純血種はいないと言っていた。
俺が異世界人ってのもばれちゃうかなぁ。
「ハヌマーンに襲われませんでしたか?」
「えっと、俺は男なんでぇ……」
「ハヌマーンなら性別など気にしないでしょう」
「お師匠様、俺は男に興味はありませんぜ!」
ハヌマーンが流石に苦情を言った。
だがこのお師匠様、ハヌマーンの事をよくわかっていらっしゃる。
「ハヌマーン、私の目は節穴ではありませんよ。興味のない者の側にお前が留まる筈はないでしょう」
「興味は、ある」
「襲ったのですね?」
「襲ってねえっ!」
「襲われてませんっ!」
俺とハヌマーンがほぼ同時に叫んだ。
このお師匠様、ちょっと面倒臭くなってきた。
「それよりも、ハヌマーンが堕神となったのは知っているか?」
ロクが淡々と口を挟んだら、お師匠様は素気ない視線をチラリと向けた。
「知っています。私のところにも話は伝わってきましたから」
「止めようとは思わなかったのか?」
「止める理由がありません。神になるのも、下界に降りるのも、全てはハヌマーンの運命です」
「運命っていうか、自業自得?」
「そうとも言います」
ハハッ、いい性格をしているなぁ。
「お師匠様、俺は天界に未練はありません。しかし不死薬が作れないのは辛い」
「ハーレムの為にですか?」
「何故それをっ!」
「私はお前の師ですよ。そのくらいのことはわかります」
えー、もしかしてどっかで見てたんじゃないの?
なんか怖ぇ。
「ハヌマーン、あなたが下界に落とされた本当の理由は、色欲に溺れたからではありません。あなたが天界に馴染もうとしなかったから、あのまま天界で神として過ごすのは向いていないと判断されたのです」
「ですが、改心するまで天界に戻ることまかりならぬと――」
「それはけじめというものです」
あっ、ハーレムはハーレムでやっぱり怒ってたんじゃないかな?
お師匠様の笑顔がちょっと怖い。
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